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「温めると縮む」が常識を壊す日

電車に乗っていると、
ガタンゴトンと音がする。

あの音は、
レールとレールの隙間を
車輪が越えるときに鳴る。

なぜ隙間があるのか。
理由は単純で、
鉄は温まると膨張するからだ。

夏の暑さでレールが伸びても
壊れないよう、
あらかじめ余白を残している。

25メートルのレール1本で、
温度が1度上がるごとに
約0.2ミリ伸びる。

「温めると膨らむ」。

小学校の理科で習ったし、
日常の感覚とも合う。

ビンの蓋が固いとき、
お湯をかけると開く。
シンクにお湯を流すと、
金属がわずかに軋む。

温度が上がれば
ものは膨らむ。
それが常識だと思っていた。


温めると「縮む」物質がある

ところが、
温めると縮む物質が存在する。

「負の熱膨張」と呼ばれる現象だ。

2021年、東京工業大学と
名古屋大学の研究グループが、
この現象のメカニズムを解明した。

層状ルテニウム酸化物という
特殊なセラミックスの中で、
結晶構造が温度上昇とともに
収縮方向に変化する。

つまり、温めたのに縮む。

2023年には同じグループが
「最大性能の巨大負熱膨張物質」
の設計にも成功している。


実験室の話ではなくなってきた

「面白い現象だけど、
自分には関係ない」と
思うかもしれない。

ただ、この技術が向かっている先は
かなり身近だ。

2023年、
シカゴ大学の研究チームが
「熱力学に逆らう材料」として
負の熱膨張素材を発表した。

ターゲットは
電気自動車のバッテリーと建築材料。

バッテリーは充放電で熱を持つ。
膨張と収縮を繰り返すうちに、
接合部が劣化して寿命が縮む。

ここに「温めると縮む」素材を
組み合わせれば、
膨張を相殺できる。
つまり、壊れにくくなる。

半導体の製造装置にも同じ話がある。
ナノメートル単位の精度が求められる世界で、
熱による数ミクロンのズレは致命的だ。

「膨張しない」素材ではなく、
「縮む」素材を混ぜて
プラスマイナスゼロに持っていく。


「常識」の賞味期限

考えてみると、
「温めたら膨張する」は
間違いではなかった。

鉄も銅もアルミも、
日常で触れる金属は確かに膨張する。

ただ、それは
「よく使う素材がたまたま
そういう性質だった」
というだけの話かもしれない。

常識というのは、
たいてい観測範囲の産物だ。

見えている範囲では正しいが、
範囲の外に出ると通用しなくなる。

天動説がそうだった。
地球の上に立っている限り、
太陽が動いているように見える。
間違いではない。
ただ、範囲が狭かった。

「温めると膨張する」も、
同じ構造を持っていると思う。


常識は壊れるのではなく、
範囲が広がる。

ガタンゴトンと鳴る隙間は、
いつか要らなくなるかもしれない。

そのとき私たちは、
「温めると膨張する」を
間違いだったとは言わないだろう。

ただ、もう少し広い世界を
知ったのだと思う。


タグ

#負の熱膨張 #常識の賞味期限 #科学 #東工大 #構造を見る


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