掌編【扉が開くとき】 #風まかせ文芸部
i様の下記記事に参加させていただきました。いつもお世話になっております。
よろしくお願い申し上げます。
扉はまだ開かれていない。
レンズの向こうには、廃墟の隙間から漏れる灯り。子どもたちの笑い声。生活の音。
この街にもやっと、復興の兆しが静かに漂い始めていた。
少し離れた誰もいないこの丘で、私はただ、一つの扉が開くのをじっと待ち続けている。
すでに頭の上を、太陽と星々は幾度となく交差していた。
だが、今日の風はいつもと違う。甘い。
⸻この風の匂いを嗅ぐたび、私は思い出す。
“引くとき”の風は、決まって甘く感じるのだ。
少しずつ、指の先に神経を集中させる。
レンズ越しに見る、その扉。
それは、生と死を分ける境界線であり、彼にとっては、あるいは絶望へ旅立つ扉なのかもしれない。
コイツを握るたび、自分に問う。
この″引き金″の先にあるのは、本当に終わらせるべき命なのか、と。
私は、この甘い風の中で
また一つ罪を重ねるべく
扉が開くのを待っている
終
