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『呪文と花瓶』知りたい方向けへのさらなる深掘り解説



この作品は表面だけ見ると、

「花をもらった青年が花瓶を買いに行く話」

です。

しかし実際には、

「自分自身との距離感を描いた物語」

だと読むことができます。



まず最初の一文が変

冒頭で瑞樹は小指をぶつけます。

すると突然、

まただ。 僕から僕が転がり落ちて、彼が僕に、僕が彼になってしまった。

という不思議な文章が出てきます。

普通なら、

「痛い!」

で終わるはずです。

でも瑞樹はそうなりません。

彼は痛みを感じた瞬間、

自分を「僕」としてではなく「彼」として見始めます。


これは何を意味しているのでしょう。

人は強いショックを受けたり、 つらいことが続いたりすると、

自分を自分として感じられなくなることがあります。

例えば、

  • 自分のことなのに他人事みたいに感じる

  • 鏡の中の自分が自分じゃない気がする

  • 心と体が離れているような感覚になる

そんな状態です。

瑞樹はまさにその状態にいます。

だから物語は最初から、

「少し心が疲れている人の話」

として始まっています。


水仙は分身である

作中の水仙は何度も、

申し訳なさそう 居心地悪そう うつむいている

と描かれます。

でも当然ながら花にそんな感情はありません。

つまりこれは、

瑞樹が自分自身を見ているのです。


面白いのは、

瑞樹自身は自分のことを直接語らないことです。

代わりに花を語ります。

なぜでしょう。

それは、

自分の弱さを正面から見るのが難しいからです。


例えば、

「最近ちょっと寂しい」

と言うのは勇気がいります。

でも、

「なんかこの花、寂しそうだな」

なら言える。

花を通してなら、 自分の気持ちを見つめられる。

だから水仙は、

単なる植物ではなく

瑞樹の心そのもの

なのです。


花瓶探しは自己探し

物語の中心は花瓶選びです。

しかし実は、

瑞樹は花瓶を探しているようで、

自分の居場所を探しています。


部屋の中で彼は、

本棚の隅

調理スペース 飾り棚

を見て回ります。

しかし、

どこもしっくり来ません。


これは花の話ではなく、

自分の話です。


人間にも、

「ここにいていい気がしない」

という感覚があります。

学校。

部活。

家族。

友達グループ。

SNS。

どこかにいるのに、

どこにも馴染めない。

そんな感覚です。


瑞樹は花の置き場所を探しながら、

実は自分の居場所を探しているのです。


雑貨店が異世界のように描かれる理由

雑貨店へ入った場面は、

まるでファンタジー作品です。

特に、

デルフィニューム

クラスペディア ゴアナクロー

のくだり。

瑞樹には花の名前が

魔法使いの呪文に聞こえます。


なぜでしょう。

それは、

新しい世界に触れた瞬間だからです。


人間は興味のないものには感動しません。

しかし興味を持ち始めると、

今まで見えなかった世界が見え始めます。


野球に興味がなかった人が、

急に選手の名前を覚え始める。

音楽にハマると、

街中の音が違って聞こえる。

本好きになると、

本屋が宝箱になる。


瑞樹にとって花は、

そういう存在になり始めています。


花は一輪なのに花瓶は40種類

この場面は作品全体のテーマが凝縮されています。

瑞樹は思います。

花は一輪しかない。

なのに花瓶は何十種類もある。

これは人生の比喩です。


私たちはよく、

「正しい生き方は一つ」

だと思い込みます。

しかし実際には違います。


同じ人間でも、

  • 学校にいる自分

  • 家にいる自分

  • 友達といる自分

は少しずつ違う。


花は同じ。

でも器が違う。

すると見え方も変わる。


つまり、

自分を変えなくても、環境や視点が変われば生きやすくなる

ということです。


最後に起きた変化

重要なのは、

花そのものは変わっていないことです。


朝の水仙と、

夕方の水仙は同じです。


なのに瑞樹は最後に、

息が吐き出しやすかった

と感じます。


これは問題解決ではありません。

救済でもありません。

成長物語ですらありません。


ただ、

少しだけ世界との関係が変わった。

それだけです。


しかし人間にとって、

実はそれが一番大切だったりします。


この作品の本当のテーマ

この作品は花の話でも花瓶の話でもありません。

テーマは、

「自分の心を受け入れられる場所を探すこと」

です。

瑞樹はずっと、

居心地の悪さを抱えています。

花も居心地悪そうに見えます。

けれど最後、

花は新しい花瓶の中で静かに光を受けています。


それはまるで、

「無理に元気にならなくてもいい」

と言われているようです。


世界を変えることはできない。

自分を急に変えることもできない。

でも、

花瓶を変えることはできる。

部屋の景色を少し変えることはできる。

見方を少し変えることはできる。


『呪文と花瓶』は、

そんな小さな変化が人を救うこともあるのだと語る、

とても静かで繊細な物語なのです。

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