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街のケーキ屋さんが消えていく:ボンボンショコラを作って痛感した「材料費高騰」と、洋菓子文化の静かな危機

はじめに:昨年の帰国時、痛感した材料費高騰

昨年の帰国時、久しぶりに腕を振るってボンボンショコラを作りました。 ガナッシュを仕込み、テンパリングを丁寧に行い、一粒一粒心を込めて仕上げたショコラをご近所の皆さんへ配りました。喜んでくださる笑顔を見るのは何よりの喜びでした。

しかし、その準備段階で材料を買い揃えるとき、思わず息を呑みました。

製菓用のクーベルチュールチョコレートが、渡仏前の倍以上の値段になっている……」

生クリーム、バター、洋酒、包装材に至るまで、レシートの合計金額は過去に経験したことのない数字に跳ね上がっていました。かつては「大切な人に喜んでもらいたいから」と気軽に楽しめていたお菓子作りが、いまや覚悟のいる「贅沢な行為」へと変わってしまったのです。

趣味のボンボン・ショコラづくり

趣味のお菓子づくりでさえこれほどの衝撃を受けるのですから、これを「生業」としている街のケーキ屋さんや職人たちの苦しみは、いかばかりでしょうか


相次ぐ街のケーキ屋・老舗菓子店の閉店ラッシュ

先月(2026年7月2日)、神戸国際大学の中村智彦教授によるYahoo!ニュースの記事を目にしました。

街角のケーキ店や和菓子店が相次いで姿を消している。帝国データバンクによると、2025年度の菓子小売業(製造小売)の倒産は65件と2年連続で過去最多を更新した

私は「材料費高騰」を肌で痛感していたからこそ、記事の内容に納得せざるを得ませんでした。

ケーキ屋さんのショーケースを彩るスイーツの材料を見てみましょう。 製菓用小麦粉(北米産)クーベルチュール(西アフリカ産カカオ)アーモンドやナッツ類バニラビーンズ(マダガスカル産)…… 洋菓子の命ともいえる原材料のほとんどは輸入に頼っています。 さらに、国産のバターや卵、牛乳でさえ、牛や鶏が食べる配合飼料の多くが輸入トウモロコシであるため、世界情勢や為替の影響から逃れることはできません。オーブンを動かす電気・ガス代、持ち帰りの箱や保冷剤まで、あらゆるコストが高騰しています。


長引く「円安政策」のツケを払わされている輸入依存産業

この壊滅的なコスト高の原因は複合的ですが、最大の引き金となっているのが、長期化する過度な円安です。

輸出で巨額の利益を上げる一部の大手製造業とは異なり、街のケーキ屋さんは「ドル建ての世界相場で材料を輸入し、日本国内の生活者に向けて円で販売する」という完全な内需・輸入依存型ビジネスです。

世界的なカカオショックやインフレに、歴史的な円安が掛け合わされた結果、仕入れ値は天文学的な水準に達しています。 しかし、地域密着の個人店ほど「子どものおやつに」「地域のハレの日に」と親しまれてきた自負があるため、1個700円、800円と際限なく値上げすることはできません。価格を上げれば客足が遠のき、据え置けば作れば作るほど赤字になる

これは決して、経営努力の不足ではありません。為替という個人の力ではどうにもならない巨大な波に、現場の職人たちの誠実な営みが押し流されているのです。

円安政策は、本当に日本全体を豊かにしているのでしょうか。国内の豊かな食生活や、輸入原材料に支えられた産業の現場をこれほどまでに疲弊させてよいのでしょうか。今こそ、輸入に頼らざるを得ない産業の実態を直視し、行き過ぎた円安政策の是正を強く求めたいと思います。


失われつつあるのは「甘い記憶」と日本のスイーツ文化の未来

街から個人店が消えることは、単に「買い物をする場所が1つ減る」ことにとどまりません。

誕生日や記念日、入学祝いや地域の行事など、私たちの人生の節目に寄り添ってくれた「地域の甘い記憶」そのものが失われていくことを意味します。 さらに影響は、プロを目指す若者や趣味でお菓子作りを楽しむ層にまで波及しています。

  • 学ぶ場が奪われる: 実習費の高騰や、個人店の採用抑制によって、若手パティシエが腕を磨く修行の場が減っている。円安のために海外留学のハードルも絶望的に高くなった。

  • 文化の裾野が狭まる: 材料が高すぎて家庭で気軽に手作りできなくなれば、お菓子作りに興味を持つ子どもたちや愛好家が減り、文化全体の活力(バイタリティ)が削がれていく。

日本人が長年培ってきた、繊細で世界最高峰とも称される洋菓子文化。その土台を支えているのは、間違いなく街の小さなお店と、お菓子作りを愛する無数の人々です。


おわりに

オーブンから漂う甘い香りや、手作りのショコラを渡したときに相手が見せてくれる笑顔。お菓子には、数字や効率だけでは測れない人の心を豊かにする力があります

「洋菓子が作れない、気軽に買えない国」になってしまってからでは遅いのです。 地域のケーキ屋さんの灯を消さないために、そして日本の製菓文化の未来を守るために、いま何が起きているのかを多くの人に知ってほしい。そして、現場を苦しめ続ける円安のあり方に、政治は目を向けてほしいと心から願っています。

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