「キミを描く」 3話目
3話目「負けるか勝つか」
時刻はAM4時前、私達は病院の屋上に立っていた。竜の気配を感じて、可夢偉(カムイ)が先陣を切り目を凝らす。私達も竜の姿を探した。鳴る雷で空が所々で光っているのが不気味に思える。
分散している雲の隙間から、竜の鱗が光るのが見えた可夢偉がキミに声をはる。
「あそこにいるぞ、キミ!」
「作戦開始だ、ヨリコ!」
キミの言葉に私は本を取り出した。
「一応言っとくけど、借り物だからね!」
「自分で作戦立てた癖にそれ言う?」
「だって…」
「…分かった」
「…」
「可夢偉!」
可夢偉が本を飲み込んだ瞬間、可夢偉とキミが緑色の光に包まれ、まわりに風が吹き始めた。
「もう一冊、行けるか?」
可夢偉はコクンと頷いて本を受け取り、それも飲み込む。可夢偉の体が少し赤く光っている。
「準備オッけーだゾ!」
そう言う可夢偉は少し苦しそうだった。
「じゃあ、行ってくる」
そう言う君に私は「行ってらっしゃい」と言った。君の顔はその瞬間少し柔らかくなり、能力にした風の力で一瞬にして空高く昇っていってしまった。
雲より上からキミが下に目をやる。何重にも重なった薄暗い雲が密集した積雲の影で、遊ぶように飛び回っている竜の鱗がキラッと白く光ったのが見え、キミがその姿を目指し急降下した。
気づいた竜が雲間を素早く移動する。
「キミ!追うだけじゃラチがあかなイ!」
「分かってる!」
キミは腕を伸ばして風を集め始めた。小さな風の渦が左右の手の平に作られる。渦はキミの高速移動と共に回転率を上げていく。
その渦を竜がいる雲めがけて放った。雲は渦によって飛び散り小さな破片が出来た。
破片の傍に、キミがやっと竜の姿を捉えた。
竜は自分が隠れられる大きさの雲を見けだしその中に飛び込む。キミは見逃さなかった。追いかけ、同じ雲の中に飛び込んだ。
「今度こそ逃さない!可夢偉!」
可夢偉が応えるように赤い光をキミに与えた。キミの手の平から激しい炎が吹き荒れ、竜の体を包む。炎の渦の中で動きが止まった竜が、キミの目をジッと睨んだ。しかし、数秒も立たないうちに竜の身体からジワッと水のようなものが溢れ出し、炎を消し始めた。慌ててキミが炎を竜に浴びせる。竜がその度に水を出す。それを互いが繰り返す。
間もなくして、雲が浮上し始めた。
…実は、私が立てた作戦のうちだ。
30分前、私は2人に一つ作戦を説明した。内容は君に投げつけた原稿用紙に描いた漫画。
天候に紛れないと能力が使えないと推測されるあの竜を捕まえる方法。必要なのは「風」と「炎」。
風は空へ上がるための足がかりと、余分な雲を蹴散らし囮を残すため。炎は雲の中に竜を閉じ込めるため。
そして、温められた空気はやがて水蒸気を生み出す。これに風が加わるとやがて雲は浮上し始める。これを「上昇気流」という。
雲は浮上し続けると水蒸気が冷え、雨を降らし始める。
案の定、雨が降ってきた。どうやら作戦はうまく行っているようだ。
雲はある高さまで来ると、溜まった水蒸気と吹き荒れる気流の影響を受けて下降を始める。地上近くの方が気温が高いため、下降していく雲はやがて形を保てなくなり消える。
晴れたり曇ったりする一般的なしくみだ。
それだけでは竜は姿を消すだけ。だから、私はもうひと手間加えた。炎を強くして雲を蒸発させる。そうすれば、中にいる竜は水分をとられ動けなくなるはずだ。作戦名はそう、「砂漠化現象」作戦!
ところが天から雲が落ちてくるのが見える前に、キミが慌てて急降下してきた。
キミがなにか叫んでいる。
「ヨリコ逃げろ! 思ったより風が強すぎた、何とかするからそこから離れろ!」
やっと聞こえたその声で見上げた私は、強風の渦みたいなのを目撃する。
「…竜巻…」
下降する積乱雲に、上昇気流(暖かい空気)がぶつかった時に発生する現象!
「作戦を見誤った…キミ!」
キミが竜巻を食い止めようと手を上にかざし逆回転の渦を作り上げている。竜巻はその勢いのまま、上でも下でもなくただ浮かんでいる状態となった。
…今のままではキミの方が不利だ。病み上がり体力も、いつまで保つか分からない。
かといって、手を離せば地上に被害が出る。
早く早く考えなければ。
「キミが勝てる方法を!」
ネットに答えは?竜巻を消す方法は?
人間の力では無理だ、普通は…今は?
「…閃光の雷弩…」
昨日までキミは漫画の能力を自分のものとしていた。つまり普通は死ぬかもしれない状況でもそれが漫画の能力なら可能にできるということ。ならば!
「描くしかない、竜巻からの逆転劇!」
私はタブレットを取り出す。作戦で使ったページから今の現状まで描き直し。ここから新たな絵を描く。竜巻のしくみ、キミが今持っている能力、竜が今可能であろう能力、この場所に何があって何が使えるか。そこから導く、終着点!
「…できた…」
ペン入れする時間はない。ネームだからつたないかもしれないけど、これを印刷する。ここから一番近いコンビニを検索して私は走った。最近のコンビニは便利だ、タブレットの書類も印刷できるんだから。印刷したA4サイズの原稿を折りたたんで君が見える場所まで登った。
ここは学校の屋上。キミが苦しそうに渦を止めようと踏ん張っているのが見える。
「キミ!」
彼は気づかない。私はタブレットから音楽を大音量で流しながら、原稿を持って天に向かってふった。
気付いたのは可夢偉だった。
「コレをつかエ、と言ってルゾ、キミ!」
「でも今離したら…」
「このママ何モ変わらなイ。なら、変わっタ事シヨウ!オレはヨリコを信じル!」
「…可夢偉がそういうなら。」
「キミ!」
「…信じるよ!
俺だってヨリコは嫌いじゃない!」
ゆっくり風の渦が下降し始めたとき、私の方へキミが接近してきた。そのスピードは速すぎて、気がつけば手から原稿用紙がなくなっていた。
「可夢偉!」
キミの声で可夢偉が全ての原稿用紙を飲み込んだ。その文字や絵がイメージとして君の能力になっていく。
再び竜巻に向かって飛んでいったキミは風の渦の真上から中へ入った。渦と逆回転の風を身にまとって、打ち消し合いながら竜の所へと潜っていく。
中心に近づくと、気温はどんどん下がり始めた。
姿が見えたとき、竜にまとっていた炎はすっかり消えていた。竜がキミに気づいたが、キミは炎を浴びせていた。その暑さに堪らず、竜は冷やすため大量の水を体から放出。水浸しになった水は外に飛び出し雨に変わる。
キミは手を止めることなく炎を出し続けた。段々と気温が高くなり、湿気と高温でキミの息が荒くなる。
「大丈夫カ?キミ」
堪らず可夢偉が話しかける。キミは汗をかきながら頷いた。ここからは竜とのガマン勝負だ。
しばらくして水を失った竜の鱗が乾いてきたのがキミの目に映った。周りの雲も小さくなってくる。
空気が高気圧に変化し、雲が形を保てなくなってきたからだ。もう少しダ、と可夢偉がキミを励ます。だが彼もそろそろ限界に近づいていた。
虚ろになる目にうっすら外の景色が映る。雲の隙間から見える自分の名前を呼ぶ、誰か。
「…ヨリコ…?」
「ダイ…ジョぶダ…キミ…ㇵ」
可夢偉が私の言葉を読み取って代弁する。
「君は勝てる!」
彼の耳にそう聞こえた時、落下しているキミと可夢偉、それから干からびてカピカピになった白い竜の姿がだけがそこにあった。竜巻は無く、遠くに見える朝日が竜の鱗をキラキラと映し出す。その虹色をキミは綺麗だと感じていた。
「キミ!」
可夢偉に呼ばれたキミの体は水中にあった。息苦しくて這い上がった彼はそこがプールであることに気づいた。横を見ると竜は気絶しているのかプカプカと浮いていた。
可夢偉が勢いよく君に飛びつく。
「可夢偉、竜はどうなってる?」
その声で竜の目が開き、キミの目の前に白く光っている体がそびえ立つ。プールの水を吸収して元に戻っていく竜の体。その巨体にゴクッと息を飲むキミは、覚悟を決めざる負えなかった。
が、初めてまじまじ見たその翡翠のような瞳は恐怖心を何故か安心感に変えていく。なんだか竜が幼く見えてキミは今、可愛いいとさえ思えている。
「竜ってちょっと可愛いよね」
心を見透かされた発言のようで、キミが慌てて私の方を向いた。
「…バッカじゃねーの!?」
顔を赤らめて君がそういった。
「バカって言葉は好きじゃないな!」
私の言葉にハイハイと軽く返答したキミは可夢偉を呼んだ。可夢偉の体が光ったかと思うと、一冊の古い本が出できた。本が開くと、そこに居た竜は吸い込まれるように中に入っていった。
その光景が不思議で、でも見たことあるような。
「アレだね、封印ってやつだ!」
「そうだよ…」
その言葉と共に、フラッと倒れそうになったキミを私は慌てて支えた。水から上がった彼はその場に寝そべっていた。
時刻は7時になるところ。運動場から人の声がし始める。ゆっくりと青に変わる空を君は見ていた。
「お疲れ様」
私がそう君に声を掛けると、キミは思わず頭を両手に上げて顔を隠した。
「…何なんだよ…」
その声でキミが泣いているのが分かった。
「あんな作戦、無茶苦茶すぎる…」
「そうだね、ゴメン。」
「死ぬかと思った…」
「ゴメン」
「ゴメンって何なんだよ、お前…。勝てるとか大丈夫とかなんの保証も無いのに勝手に、言って…」
「ゴメンって」
「邪魔なんだってお前がいると…」
「邪魔って!」
「…なんで、…こんな、おれに構うんだよ…」
「…そうだねぇ。」
私はふと考えてこういった。
「私は戦えない脇役だけど、私だけが見えるんだ、頑張ってるキミがね。んで、そんなキミを主役に漫画を書きたいんだよね。だからさ、教えてくれる?
君が戦う理由。」
驚いたキミはその表情のままで、今度は可夢偉の方を向いた。
可夢偉が何度も頷いているのが見えて、君はため息をつく。そして、話をし始めた。
→4話に続く。#創作大賞2024 #漫画原作部門
