探偵社エスポワール 創作大賞2024 漫画原作部門 第1話
あらすじ
現代の東京、公立の有華高校に通う高校二年生の宮原きらりと大沢みちかと私立の聖立館高校に通う高校二年生の有栖川やよいは幼稚園から中学まで一緒だった幼馴染で三人はミステリー好きでもあった。そんなある日、きらりは愛読書にしている「ときめき探偵きらりん」という美少女探偵漫画のヒロインに憧れ、自分達も探偵をやらないかときらりが提案した。すると、やよいはきらりの提案に賛成して使わなくなった倉庫を改装して「探偵社エスポワール」という探偵事務所を設立した。きらり達は事件現場に残された手がかりを元に事件を解決していく。
主要キャラクター
宮原きらり(みやはらきらり)
・年齢:17歳
・性別:女
・見た目:身長162cm。茶髪のボブヘアーに大きな目。
・特徴:本作の主人公。公立有華高校に通う元気な女の子。イメージカラーはピンク。人気の美少女探偵「ときめき探偵きらりん」を愛読書にしており、漫画のヒロインに憧れて探偵になる決意をした。漫画のヒロインのキャッチコピーでもある「ときめく推理でケースクローズド!」というセリフを気に入っている。推理力が高く探偵としての素質がある。事件の捜査に協力するため父親が警視総監という立場を利用するちゃっかりした一面がある。
大沢みちか(おおさわみちか)
・年齢:17歳
・性別:女
・見た目:身長162cm。青髪のショートヘアーにつり目。
・特徴:公立有華高校に通う冷静沈着な女の子。イメージカラーは青。全国模試で十位以内に入れる程の頭脳明晰。兄が二人と弟を持つボーイッシュな性格。一人称は「僕」。きらりに振り回されることがあるが親友としてきらりのことを信頼している。
有栖川やよい(ありすがわやよい)
・年齢:17歳
・性別:女
・見た目:身長162cm。オレンジ髪のロングヘアーに垂れ目。
・特徴:私立聖立館高校に通うおっとりした女の子。イメージカラーは黄色。家電製品や自動車や飛行機などを手がけている有栖川財閥の令嬢で探偵社エスポワールのオーナー。普段は大人しいが思い立ったら何事にも積極的に行動する。
雪代ひなこ(ゆきしろひなこ)
・年齢:17歳
・性別:女
・見た目:身長162cm。黒髪の三つ編みに丸目。
・特徴:私立城陵高校に通う文科系女子。イメージカラーは紫。プロの漫画家で「東条梨乃」というペンネームを持っており、美少女探偵「ときめき探偵きらりん」の原作者。長野出身で漫画家の仕事をするため東京に上京して一人暮らしを始めた。
第1話 探偵社開業
〇有華高校・外観
日差しで明るく照らされている校舎。
〇同・校門・前
校門を出る生徒一同。
『ときめき探偵きらりん』の原作本を
読みながら校門の前に立っているセー
ラー服姿の宮原きらり(17)。
きらり「うーん、この事件の真犯人はかなり
の知能犯とみた」
きらりの元に駆け寄るセーラー服姿の
大沢みちか(17)。
みちか「きらり、お待たせ」
きらり「ああ、みちか、日直、お疲れ様」
みちか「あれ? その漫画って」
きらり「ああ、最新巻のときめき探偵きらり
んだよ。昨日、本屋で買ったの」
みちか「うわー、良いな。まだ買ってなかっ
たの。読み終わったら僕にも読ませてくれ
る?」
みちか「良いよ」
みちか「ああ、そうだ。やよいから連絡があ
ったよ。今度の日曜日、久しぶりに三人で
お茶会しないかって誘われたの。きらりも
行く?」
きらり「うん、もちろん」
みちか「じゃあ、やよいには僕が連絡してお
くね」
スマホを扱うみちか。
〇有栖川邸・外観
日差しで明るく照らされている有栖川
邸。
〇同・中庭
お茶会を楽しむきらりとみちかと有栖
川やよい(17)。
紅茶を飲むみちか。
みちか「本当にやよいの家の紅茶は美味しい
ね」
やよい「こうして三人で集まるなんて久しぶ
りね」
みちか「高校が別になってからは三人で集ま
る機会が減っちゃったもんね」
やよい「そういえば、みちかはこの前の全国
模試で十位以内に入れたのよね? 凄いわ
ね」
みちか「まあ、今回はかなり頑張って自分で
も驚いたよ」
真剣な眼差しで漫画を読むきらり。
みちか「きらり、お茶の時は漫画を読まない
の」
きらり「ああ、ごめん。早く犯人を知りたく
て」
やよい「それってときめき探偵きらりんでし
ょう」
きらり「やよいも知ってるの?」
やよい「ええ、今人気の美少女探偵漫画だか
らね。私も夢中で読んでるわ」
きらり「面白いよね。この漫画はミステリー
としてもかなりできてるの。しかも、ヒロ
インの名前が私と同じきらりだから親しみ
が持てて」
みちか「僕も初めて読んでヒロインの名前が
きらりって知った時はちょっと驚いたよ」
きらり「知ってる? 原作者の東条梨乃先生
が私達と同じ高校二年生なんだよ」
みちか「えっ!? 原作者の先生が高校二年
生なの!?」
きらり「うん、そうみたい。デビューしたの
は二年前で当時、中三だったらしいよ」
みちか「確かに中三から漫画家になったなん
て凄い」
きらり「ねえ、私達も探偵にならない?」
みちか「僕達が探偵?」
きらり「うん、私、漫画を読んで探偵に興味
を持つようになってヒロインに憧れちゃっ
たの。私達も漫画みたいに探偵事務所を開
いて色んな事件を解決しない?」
やよい「何だか面白そうね」
みちか「まあ、僕も昔から探偵に憧れてるし
やってみたいと思ってるよ。でも、簡単に
探偵になるのは想像以上に大変だよ。それ
に事務所なんてすぐには開けないし」
やよい「事務所なら私が用意してあげる。ち
ょうど使わなくなった倉庫があってね。改
装して事務所にしてあげるわ」
きらり「え? 良いの?」
やよい「どうせ使わないから。今から頼めば
再来週の日曜日には完成すると思うけど」
きらり「じゃあ、やよい、お願い」
やよい「オーケー」
スマホを操作するやよい。
みちか「やよいは昔から思い立ったら何でも
実行しちゃうんだから」
〇探偵社エスポワール・外観
T「日曜日」。
二階建ての探偵事務所。
〇同・前
探偵社の前に立つやよいの元に近寄る
きらりとみちか。
きらり「やよい」
やよい「ああ、きらり、みちか」
きらり「へえ! これが私達の探偵事務所な
の!?」
やよい「ええ、今できた所」
きらり「素敵な事務所だね」
「探偵社エスポワール」と書かれてい
る看板を目にするみちか。
みちか「エスポワールって何?」
やよい「フランス語で希望って意味よ。社名
は私が考えたの」
きらり「希望か。良い社名だね」
やよいに話しかける業者。
業者「有栖川様、作業を終えました」
やよい「ご苦労様でした」
きらり「ねえねえ、中に入っても良い?」
やよい「ええ、良いわよ」
〇同・応接室
社内に入るきらりとみちかとやよい。
一階は応接室となっており、奥にはキ
ッチンが設置されていた。
きらり「うわー、広いね」
やよい「一階は応接室になってるわ。奥には
キッチンがあるからお客様にお茶を出せる
ように」
階段を目にするみちか。
みちか「二階はどうなってるの?」
〇同・資料室
二階にやって来るきらりとみちかとや
よい。
大量の本棚が並んでいて、パソコンが
置いてあった。
やよい「二階は資料室になってるわ。本棚に
は世界中のミステリー小説や役に立ちそう
な本を揃えといたわ」
みちか「資料室っていうか図書室みたいな所
だね」
パソコンを立ち上げるやよい。
やよい「事務所のホームページを作ったわ」
みちか「ホームページまで作ったの!?」
やよい「これならネットを通じて世界中の人
達が見てくれるからね」
きらり「これなら色んな人達が見てくれるも
んね」
クローゼットを開けるやよい。
やよい「そして、クローゼットの中には」
ピンク、青、黄色のインバネスコート
と帽子がかけられていた。
やよい「私達のインバネスコートと帽子が入
ってるわ。探偵の仕事をする時はこれを着
るの」
きらり「確かにときめき探偵きらりんもイン
バネスコートと帽子を着用してるもんね」
やよい「さあ、二人共着替えて」
ピンクのインバネスコートと帽子を着
用するきらり。
きらり「可愛い。デザインも良いし気に入っ
た」
黄色のインバネスコートと帽子を着用
するやよい。
やよい「一流メーカーに作らせた特注品よ」
青のインバネスコートと帽子を着用す
るみちか。
みちか「でも、これを着たからって探偵とし
てのスキルを上げた訳じゃないし」
やよい「あら、形から入ることも大切よ」
きらり「似合ってるよ。みちか」
みちか「そ、そう?」
きらり「大分、探偵らしくなってきたね。後
は依頼人が来るのを待つだけだね」
みちか「そんな急には依頼人が来る訳が」
呼び鈴が鳴る。
やよい「誰か来たみたい。私が出るわ」
階段を降りるやよい。
〇同・応接室
ドアを開けると雪代ひなこ(17)を
目にするやよい。
やよい「はい」
ひなこ「あのう、すみません、こちらは探偵
事務所ですか?」
やよい「はい、そうです」
ひなこ「実は、依頼をお願いしたくて」
やよい「ご依頼ですね。立ち話もなんですし
中へどうぞ」
ひなこ「あ、はい」
ひなこを目にするきらりとみちか。
みちか「まさか本当に依頼人が来るなんて」
きらり「さあ、みちか、仕事だよ」
× × ×
ソファーに座っているひなこに紅茶を
差し出すみちか。
みちか「お紅茶です」
ひなこ「ああ、どうも」
手にしている依頼書を見るやよい。
やよい「えーっと、城陵高校二年生の雪代ひ
なこさんですね」
ひなこ「はい、ちょっと相談したいことがあ
りまして。ネットでここのホームページを
見て訪ねに来ました。ここは家から近いの
で」
やよい「ありがとうございます」
ひなこ「それにしてもその格好」
やよい「はい?」
ひなこ「あ、いや、星園きらりみたいだなっ
て思って。ときめき探偵きらりんっていう
漫画のヒロインと同じ格好だから」
きらり「あなたもときめき探偵きらりんを知
ってるんですか?」
ひなこ「ええ、まあ」
きらり「あの漫画、良いですよね。私達も星
園きらりみたいな探偵になりたくてこの事
務所を開いたんです。私達、昔から大のミ
ステリー好きなんです。私の名前もきらり
だから親近感を持っちゃって」
みちか「きらり、今は仕事中だから真面目に
やって」
きらり「ああ、はい」
やよい「話しの続きをします。ご依頼を伺い
ます」
ひなこ「あ、はい、私、ここから歩いて二十
分くらい先にある団地に住んでまして昨日
の昼過ぎに私の部屋の真上の部屋から怪し
い物音を聞きまして」
みちか「怪しい物音?」
ひなこ「はい、何かをぶつけるようなボコン
って音を」
やよい「それは何時頃ですか?」
ひなこ「午後三時頃でした。私、気になって
真上の部屋を訪ねに行ったんですが、呼び
鈴を鳴らしても誰も応答がなくて。管理人
さんに知らせようにも昨日の朝から家族と
旅行に行ってるらしくて」
みちか「でも、それだけのことで探偵に依頼
するなんて」
ひなこ「実は、私の団地の近くには昔、お墓
があったらしくて幽霊が住み着いてるって
ネットの掲示板に書き込まれてたの」
やよい「ネットの掲示板に?」
きらり「どこの団地なんですか?」
ひなこ「ジュレっていう団地です」
スマホを操作するみちか。
みちか「ネットの掲示板ってこれのことです
か?」
スマホをひなこに見せるみちか。
ひなこ「ああ、これです」
きらり「私にも見せて」
スマホをきらりに見せるみちか。
きらり「えーっと、幽霊は本当にいた。誰も
いないはずの部屋から足音を聞いた。幽霊
が床一面に涙を流していた。なんか気味が
悪いね」
みちか「確かに団地の近くには昔、お墓があ
ったけど十年くらい前に駐車場にしたそう
だよ」
ひなこ「私、幽霊とか苦手だから怖くて。そ
れで一緒に来て貰えないかをお願いしたく
て」
やよい「そういうことでしたか。分かりまし
た。調べるだけ調べてみます」
〇住宅街
歩きながら会話する四人。
ひなこ「じゃあ、三人も高二なの?」
きらり「うん、そうだよ。私達は幼馴染で幼
稚園から中学までは一緒だったの」
みちか「高校は別になってね。僕ときらりは
有華高校に通ってるの」
ひなこ「へえ、僕って呼んでるの?」
みちか「ああ、うちは兄が二人で弟が一人の
男兄弟が多い家庭だからこんな口調になっ
たの。変かな?」
ひなこ「ううん、私の知り合いにも自分のこ
とを僕って呼ぶ女の子が結構いるよ。僕っ
娘も全然ありだと思うよ」
きらり「やよいは聖立館高校に通ってるんだ
よ」
ひなこ「聖立館高校ってお嬢様学校の?」
きらり「やよいは有栖川財閥のお嬢様なんだ
よ」
ひなこ「有栖川財閥!? 家電製品や自動車
や飛行機なんかを手がけてるあの有名な」
やよい「ええ、まあ」
きらり「あの探偵事務所はやよいが用意して
くれたんだよ」
ひなこ「へえ」
みちか「ねえ、雪代さん」
ひなこ「ああ、ひなこで良いよ」
みちか「ひなこは地元が長野で先月から団地
に一人暮らしするようになったって言って
たよね?」
ひなこ「う、うん」
みちか「どうして一人暮らしするようになっ
たの?」
ひなこ「まあ、色々と事情があって」
〇ジュレ・外観
十階建てのマンション。
〇同・柴山の部屋・前
五〇五号室の前に立つ四人。
みちか「ここが怪しい物音があっていう部屋
なの?」
ひなこ「うん」
呼び鈴を鳴らすきらり。
きらり「……誰もいないみたいだね。留守な
のかな?」
やよい「この部屋に誰が住んでるの?」
ひなこ「いや、会ったことないから」
四人の元に近寄る近藤早苗(24)。
早苗「あら、あなた達、何してるの? この
部屋に何か用なの?」
みちか「あなたがこの部屋の住人ですか?」
早苗「いいえ、ここは私の彼氏の部屋よ」
手にしている紙袋を見せる早苗。
早苗「さっき旅行から帰って来てお土産の和
菓子を渡しに来たの」
きらり「でも、お留守みたいですよ」
早苗「留守? そんなはずないわ。彼は仕事
で忙しくて部屋で缶詰になってるはずだか
ら」
ドアノブを握る早苗。
早苗「あれ? 鍵がかかってるわね。部屋に
いる時はいつも開けたままにしてるのに」
合い鍵でドアを開ける早苗。
早苗「柴山君! 早苗よー!」
〇同・柴山の部屋・リビング
リビングに入る五人。
そこには首を吊って亡くなっている柴
山宏和(26)が姿があった。
悲鳴を上げる五人。
〇同・エントランス・前
数台のパトカーが停まっていた。
〇同・柴山の部屋・リビング
四人と会話する長峰祐作(47)。
長峰「つまり、君達はこの部屋を訪ねに来た
時、被害者の恋人の近藤早苗さんと一緒に
遺体を発見したという訳だね」
やよい「はい、本当に驚きました」
みちか「その後、すぐそばの交番のお巡りさ
んを呼んだんです」
長峰に話しかける井坂守(27)。
井坂「長峰警部、被害者の名前は柴山宏和さ
ん、二十六歳。死因は頚部圧迫による窒息
死。死亡推定時刻は昨日の午後二時から三
時の間だそうです」
長峰「柴山さんは何者なんだ?」
ひなこ「警部さん、机の上を見て分かりませ
んか?」
長峰「机の上?」
机の上の道具を見る長峰。
ひなこ「カッターナイフにスクリーントーン
にトレス台、丸ペンにインク、墨汁、これ
らの道具を使う職業と言えば?」
長峰「……漫画家か?」
ひなこ「その通りです」
スマホを操作するみちか。
みちか「本当だ。ネットにも柴山さんのこと
が載ってある。学生時代に新人賞を受賞し
た人気漫画家だって」
本棚に置かれている大量の漫画を見る
きらり。
きらり「通りで本棚には漫画本がいっぱいな
訳だよ。戦の呪い……破滅への宝島……ど
れもアニメ化された漫画ばかり」
やよい「ひなこ、凄いね。よく漫画の道具を
知ってたね」
ひなこ「ま、まあね」
長峰「それで早苗さんは今どこに?」
井坂「今は寝室で塞ぎ込んでます。相当ショ
ックのようで」
長峰「とにかく彼女から話を聞く必要がある
な」
井坂「そうですね」
長峰「ところで君達のその格好は何だ? コ
スプレ大会か?」
きらり「私達、探偵なんです」
長峰「探偵?」
名刺を長峰に渡すやよい。
やよい「私達、エスポワールという探偵事務
所をやってます。以後お見知りおきを」
長峰「ふーん」
〇同・柴山の部屋・寝室
椅子に座っている早苗と会話する長峰
と井坂。
長峰「有華署の長峰です」
井坂「井坂です」
早苗「近藤早苗です」
長峰「あなたと柴山さんは恋人同士と聞きま
したが」
早苗「はい」
長峰「あなたはこの部屋の合い鍵を持ってた
んですよね?」
合い鍵を見せる早苗。
早苗「はい、彼から一つ預かってました」
井坂「その鍵、預からせて下さい」
早苗「あ、はい」
井坂に合い鍵を渡す早苗。
長峰「失礼ですが昨日の午後二時から三時の
間はどちらに?」
早苗「私、三日前から友人達と岐阜に行って
て今日のお昼頃に帰って来ました。昨日の
二時から三時の間は友人達と宿泊先のホテ
ルの喫茶ルームでお茶を飲んでました」
長峰「確認を取りたいのでご友人達の連絡先
と宿泊先のホテルを教えて下さい」
早苗「あ、はい」
長峰「もう少し話を伺いたいのでしばらくこ
こにいて下さい」
早苗「分かりました」
〇同・柴山の部屋・リビング
開いている窓を目にするきらり。
きらり「ねえ、あの窓、私達が部屋に入った
時から開いたよね」
みちか「うん、そうだね」
リビングに入る長峰。
長峰「あの窓、君達が開けたんじゃないだろ
うね?」
きらり「もちろんです。誰も部屋の物を触っ
たりしてません」
ひなこ「まさか犯人が窓から外へ出たなんて
ことは?」
長峰「いや、ここは五階だから流石にそれは
無理だ。君達がこの部屋に来た時、ドアに
は本当に鍵がかかってたのかい?」
やよい「はい、早苗さんが合い鍵で開けるの
を確かに見ました」
きらり「その後、部屋で首を吊って亡くなっ
てる柴山さんを見つけたという訳です」
リビングに入る井坂。
井坂「警部、早苗さんの友人達からもホテル
の従業員からも証言が取れました。早苗さ
んにはアリバイがありました」
長峰「うーん、唯一合い鍵を持ってる早苗さ
んにアリバイがあると現場は密室という訳
か」
みちか「密室ってことは自殺ですか?」
長峰「それは分からない。遺書だってまだ見
つかってないからな」
きらり「あのう、この部屋の合い鍵は柴山さ
んと早苗さんだけが持ってたんですか?」
長峰「ああ、管理会社に問い合わせたら合い
鍵は二つで柴山さんと早苗さんが持ってた
一つずつだけだ」
きらり「柴山さんが持ってた鍵はどこにあっ
たんですか?」
ビニール入れた輪ゴムを結び付けた合
い鍵を見せる長峰。
長峰「これだよ」
床を指差す長峰。
長峰「鍵はこの辺に落ちてたよ」
やよい「床といえば、この床、かなり濡れて
ませんか?」
ひなこ「ああ、だよね。部屋に入った時、靴
下が濡れちゃったよ」
長峰「ああ、私達も気になってたよ」
みちか「これってネットの掲示板に書いてあ
ったやつじゃない?」
長峰「ネットの掲示板?」
スマホを長峰に見せるみちか。
みちか「これです。ネットの掲示板にこの団
地には幽霊が住み着いてるとか幽霊が床一
面に涙を流したとか書かれてるんです」
長峰「確かに質の悪い書き込みだな」
きらり「あのう、警部さん、その合い鍵には
輪ゴムが結び付けられてますが何ででしょ
うか?」
長峰「ああ、俺も気になってたんだ」
〇同・柴山の部屋・寝室
輪ゴムが結び付けられた合い鍵を早苗
に見せる長峰。
長峰「早苗さん、柴山さんの合い鍵には輪ゴ
ムが結び付けられてますが何か心当たりは
ありませんか?」
早苗「さあ、彼はちょっと変わった所があり
ましたから」
長峰「あのう、柴山さんのことで何か知って
ることはありませんか? 自殺するような
理由とか」
早苗「えっ!? 柴山君は自殺したんですか
!?」
長峰「い、いいえ、まだ自殺と決まった訳で
はありません。それでどうですか?」
早苗「自殺するなんてとんでもない。彼は将
来性のある漫画家ですし私との結婚を約束
したんですよ」
長峰「そうですか」
〇同・柴山の部屋・廊下
廊下に出る長峰の元に駆け寄る井坂。
井坂「長峰警部」
長峰「ああ、井坂」
手帳を長峰に見せる井坂。
井坂「これを見て下さい。リビングにあった
被害者の手帳です」
手帳を開く長峰。
長峰「昨日のスケジュールは……これだ!」
手帳には「本橋尚子」と「豊島浩二」
の名前が書かれていた。
長峰「この手帳に書かれてる二人を調べてこ
こに呼んで来てくれ」
井坂「はい」
〇同・柴山の部屋・リビング
現場を見ながら考え込む四人に話しか
ける長峰。
長峰「さあ、君達はもう帰りなさい」
きらり「あのう、もう少しここにいさせて下
さい。私達も協力したいんです」
長峰「後は警察の仕事だ。民間人の君達には
事件に協力して貰う権利はない」
きらり「いや、でも」
きらりの耳元で囁くやよい。
やよい「きらり、ここは私に任せて」
長峰の元に近寄るやよい。
やよい「警部さん」
長峰「ん?」
長峰の背後に立つやよい。
やよい「背中にゴミが付いてますよ」
長峰「ああ、すまない」
やよい「いいえ、さあ、警部さん達のお仕事
の邪魔になるといけないから帰ろう」
きらり「あ、うん」
〇同・柴山の部屋・玄関
長峰と会話する本橋尚子(43)。
尚子「ええ、確かに昨日、柴山君の部屋に来
たわ。午後二時頃に」
長峰「本橋さん、どういったご用で?」
尚子「ずっと前から探してた映画のDVDを
柴山君が見つけてくれてたから取りに来た
の」
長峰「その時、彼の様子は?」
尚子「漫画の締め切りに追われてるって忙し
そうだったわ。だから彼からDVDを受け
取ってすぐに帰ったわ」
長峰「あなたと柴山さんのご関係は?」
尚子「私、二丁目のスナックでママをやって
て柴山君は大学時代にうちでバイトしてた
の」
長峰「柴山さんに会った時、何か変わったこ
とありませんでしたか?」
尚子「ああ、そういえば、エントランスを出
た時、歩美ちゃんに会ったわ」
長峰「誰なんですか?」
尚子「ああ、松井歩美ちゃんって言ってその
子もうちの店でバイトしてたの。柴山君に
用事があるって言ってたわ」
長峰「その人の連絡先は分かりますか?」
尚子「え、ええ」
長峰「その人にここに来て貰うように連絡し
てくれませんか? お話を伺いたいので」
尚子「え、ええ」
スマホを扱う尚子の指に巻かれている
絆創膏を目にする長峰。
長峰「どうしたんですか? その指の絆創膏
は?」
尚子「ああ、刺繡してた時にちょっと」
× × ×
長峰と会話する松井歩美(25)。
歩美「はい、確かに昨日の午後二時十分頃に
ここへ来ました。お別れの挨拶しに」
長峰「お別れの挨拶?」
歩美「私、保険会社に勤務してまして来月か
ら転勤で福井に引っ越すことになったんで
す。柴山さんには大学時代に進路のことで
相談してくれたり色々とお世話になってま
したので」
長峰「その時、柴山さんの様子は?」
歩美「あ、いいえ、エントランスの前で本橋
さんと会った時、仕事で忙しそうだって聞
いたので柴山さんには面会せずに帰りまし
た。アポなしでしたし」
長峰「では、柴山さんには会わなかったんで
すか?」
歩美「はい」
歩美の左手首に巻かれている包帯を目
にする長峰。
長峰「ところでその左手首の怪我は?」
歩美「ああ、お恥ずかしいのですが私の不注
意で軽い捻挫をしてしまったんです」
× × ×
長峰と会話する豊島浩二(26)。
豊島「ええ、確かに昨日、この部屋に来まし
た。私、弁護士ですので弁護士の資料を持
って来て欲しいと柴山に頼まれてたので」
長峰「弁護士の資料?」
豊島「今度の漫画の次回作は弁護士を主人公
にした話を描くと彼が言ってました。それ
で弁護士に関する資料が必要だからと」
長峰「来た時間は?」
豊島「午後二時半頃でした。でも、呼び鈴を
鳴らしても応答がなかったから留守だと思
って持って来た資料を郵便受けに入れて帰
りました」
長峰「豊島さんと柴山さんはどういうご関係
で?」
豊島「彼とは高校時代の同級生です」
長峰「柴山さんとは昔から仲が良かったんで
すか?」
豊島「まあ、同じ野球部でしたので親しくさ
せて貰ってました」
腕時計を見る豊島。
豊島「あのう、そろそろ失礼してもよろしい
でしょうか? この後、用事がありますの
で」
長峰「ええ、今日の所は構いませんよ。一応
連絡先を教えて下さい。またお話を伺うか
もしれませんので」
名刺を長峰に差し出す豊島。
豊島「それでしたら事務所の方に連絡して下
さい」
長峰「分かりました」
名刺を手にしている豊島の右手の甲に
貼られている絆創膏を目にする長峰。
長峰「その右手の甲の絆創膏は?」
豊島「ああ、近所の野良猫に引っ搔かれたん
です」
〇探偵社エスポワール・外観
日差しで明るく照らされているエスポ
ワール。
〇同・応接室
テーブルの上に置かれている受信機で
会話を盗み聞きする四人。
豊島の声「昔から猫が嫌いで」
みちか「つまり、整理すると本橋さん、松井
さん、豊島さんの順に訪れた。柴山さんに
直接会ったのは本橋さんだけで松井さんと
豊島さんは会ってない。あの三人の誰が犯
人でもおかしくないってことだね」
やよい「でも、あの三人の中に犯人がいたと
してもどうやって部屋を密室にしたのかを
解き明かさないと」
ひなこ「それにしても驚いたよ。あの時、盗
聴器を用意してたなんて」
〇(回想)ジュレ・柴山の部屋・リビング
長峰の背後に立つやよい。
やよい「背中にゴミが付いてますよ」
長峰「ああ、すまない」
長峰の背広の裏に小型盗聴器を取り
付けるやよい。
〇探偵社エスポワール・応接室
笑うひなこ。
ひなこ「こんなこともあろうかと思って用意
してたの」
みちか「普通は思わないよ」
きらり「でも、今ので事件のおおよその流れ
が分かった。後は真相を一本の線に繋げる
だけ」
真剣な眼差しになるきらり。
〈完〉
第2話:名探偵出動
第3話:初の推理ショー
