はみだし親衛隊員・日常回
📘 まえがき
リョウくんの「日常回」です。
“うさぎちゃん”への憧れと現実。そのギャップに怯えていた彼が、素のセンセイと出会って「幻滅」ではなく「確信」に変わる瞬間を描きました。
どうぞお楽しみください☕️
【本文】
世間の“うさぎちゃん騒動”が収束してから数日。
俺の心はいまだにざわついたままだった。
あの奇跡の存在。白いドレスの姐さん。
「かわいいは正義!」を地で行くような人。
……けど、本当に“現実”と同じ人間なのか? 俺はまだ信じ切れなかった。
もし――舞台の上と裏で全く違ったら?
もし――白いドレスの輝きが、ただの幻だったら?
心のどこかで、こうも思っていた。
「幻滅するくらいなら、このまま夢の中にいさせてくれ」と。
そんな俺に、チョコさんから声がかかった。
「次の木曜、姐さんの手料理会だ。お前も来るよな?」
……断れるはずもなかった。
*
当日、事務所のキッチンには、すでにタカさんが立っていた。
「おう、リョウ。来たな。今日は姐さんの得意料理だぞ」
鍋から立ちのぼる香りに、胸がざわつく。
ほどなくして現れたのは――白いドレスでも、スポットライトの下でもない。
山ほどのサンマの塩焼きを抱えた、小柄なメガネの男。
……かなりちっちゃくて、細い。
スッピンのはずなのに白くなめらかな肌。
ほんのりピンクに染まった頬。
仕草も表情もぜんぶ……
「うさぎちゃんだ…」と思ってしまった自分の心に驚いた。
「あ、リョウくんですね。はじめまして。卯月です」
にこっと笑って軽くお辞儀をされる。

「…ども」
思わず短く返してしまい、タカさんに小突かれる。
「コラ。お前から挨拶しろって」
「…さーせん」
「まぁまぁ。じゃあリョウくん、このお皿お願いできますか?」
耳に優しいアルトの声。
その瞬間、胸の奥がぐしゃぐしゃになった。
幻滅……? 違った。
机の上に並ぶ、サンマの塩焼き、おひたし、きんぴら、豚汁…そして――ほくほくの肉じゃが。
照りのあるじゃがいもと玉ねぎ、甘辛い煮汁の香り。
ひと口食べた瞬間、湯気と一緒に、懐かしい温もりが広がった。
姐さんが笑う。
「まだまだおかわり、ありますからね」
その言葉が不思議なくらい自然で、優しくて、温かかった。
舞台の上ではキラキラのアイドル。
でも、目の前では「家庭の匂い」をくれる人。
俺はずっと心配していた。
“幻”が壊れるんじゃないかと、ビクビクしていた。
けど違った。
俺が勝手に作った境界線なんて、最初からなかったんだ。
食卓を囲みながら、あの夜サイリウムを振った感覚が蘇る。
「……この人なら、守りてぇな」
心の奥で、ぽつりとつぶやいた。
そして気づいた。
心配は心配で終わり。
幻滅なんて、一つもなかったんだ。
🌙 ――end
📘 あとがき
「かわいいは正義!」と信じていたリョウくん。
でも本当は、その裏で「幻が壊れる」ことを恐れていた。
――そして、恐れていたものの正体は、温かさと優しさでした。
人情と手料理に勝るものはなし。
リョウくんが姐さんに心を捧げる理由が、またひとつ積み重なった回になりました。
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