Parkinson病②
Lancet Neurology 2020;19:452-461からの神reviewですね。
治療戦略の考える上で参考になります。
パーキンソン病の薬物療法開始:いつ開始すべきか、なぜ必要か、どのように行うか
はじめに
パーキンソン病(PD)の薬物治療をいつ開始するか、どの薬剤で開始するかは古くから議論のある問題です。従来、レボドパ治療の長期使用による運動合併症(ジスキネジアや薬効時間の短縮によるウェアリングオフ現象など)の懸念から、治療開始をできるだけ遅らせたり、レボドパ以外の薬剤で凌ぐ「レボドパ先送り戦略(レボドパ・sparing)」が採られることもありました。
しかし近年のエビデンスによれば、ドパミン作動薬やMAO-B阻害薬によるレボドパ先送り戦略は必ずしも患者に有利ではなく、症状が日常生活に支障をきたす時点で適時に治療を開始することの重要性が示唆されています。Lancet Neurology誌2020年のレビューをもとに、早期治療開始の是非、疾患修飾効果(病態進行抑制)の有無、レボドパと他薬剤の比較、有効性と副作用プロファイル、運動合併症のリスク、現在の臨床慣行とエビデンスの乖離、ガイドライン上の推奨、そして将来の展望について詳しく解説します。
疾患修飾効果は期待できるか?
PDにおける究極の目標は、進行そのものを遅らせる「疾患修飾療法」の確立です。疾患修飾効果とは、単なる対症療法ではなく病態そのものの進行を変化させることと定義されます。
残念ながら、これまで行われた大規模臨床試験はいずれも明確な疾患進行抑制効果を示せていません。たとえば、初期の代表的試験であるDATATOP試験(ドーパミン分解酵素阻害薬であるセレギリン[デプレニル]と抗酸化剤トコフェロールの検討)は、プラセボ対照で神経保護効果を検証しましたが、症状進行に有意な差を示しませんでした。また、その後もミノサイクリン(抗アポトーシス作用)、トコフェロール(抗酸化作用)、リルゾール(グルタミン酸拮抗薬)、神経栄養因子誘導薬、ユビデカレノン(CoQ10)など多様な機序の候補薬が試験されましたが、いずれも疾患進行を有意に変えることはできなかったのです。
一部には有望に思われた結果もありましたが、長期的追跡で効果が持続しなかった例もあります。例えばMAO-B阻害薬ラサギリンを用いたADAGIO試験では、1mg投与群で遅延開始群に対する有利な結果が報告されたものの、2mg群では同様の効果が見られず、その後の自然経過追跡でも早期開始の長期的利益は確認できませんでした。総じて現在までのところ、既存の抗パーキンソン薬(レボドパ、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬)で明確な疾患修飾効果が示されたものはありません。したがって、こうした薬剤を早期から使う意義はあくまで運動症状を改善して生活の質(QOL)と機能を維持することであり、病変の進行抑制を期待して用いるべきではないとされています。
レボドパについても、「ドーパミン補充そのものが神経細胞に有害で病態を進行させるのでは」という懸念が過去にありました。レボドパが酸化ストレスを介してαシヌクレインの有害な蓄積やミトコンドリア機能障害を促進する可能性が指摘され、このレボドパ毒性仮説を検証するため2004年にELLDOPA試験(Earlier vs Later Levodopa Therapy in PD試験)が行われました。初期PD患者361名を対象に、プラセボ群とレボドパ150/300/600mg/日各群に振り分け40週間治療後、2〜4週間の薬剤休薬期間を設けて症状の差異を見るデザインです。その結果、レボドパ群はプラセボ群ほど症状が悪化せず、一見するとレボドパが疾患進行を抑制したかのような所見が得られました。しかし一方で、ドーパミントランスポーター(DAT)シンチグラフィによる神経終末の指標では、レボドパ群で有意な低下(=ドーパミン神経終末の減少傾向)が示され、レボドパ投与がドーパミン神経の変性を加速させた可能性も否定できない結果でした。このように臨床評価とバイオマーカー評価の結果が食い違ったため、ELLDOPA試験はレボドパの疾患修飾効果について明確な結論を出せませんでした。
最近になって実施されたLEAP試験(Levodopa in Early Parkinson’s Disease試験)は、レボドパの疾患修飾効果を改めて厳密に検証する試みでした。この試験では発症2年以内でまだ治療が必要なほどの症状がない患者445名を対象に、「レボドパ100mgを1日3回、即時開始群」と「プラセボで40週間様子を見てから同じレボドパ治療を開始する遅延開始群」にランダム化し、最終的に両群とも80週間時点で同じ治療を受けた上で症状の差を見る遅延開始プロトコルが採用されました。主要評価項目は運動症状の重症度(UPDRSスコア)で、副次評価として日常生活機能(ALDSスケール)や生活の質(PDQ-39)も検討されています。
40週間時点までは予想通りレボドパ先行開始群のほうが運動症状は軽く、22週時点のPDQ-39(QOL指標)でも先行開始群のほうが有意に良好でした。実際、プラセボ群の約21%は40週間を待たず22週時点で障害が出現したため治療開始に移行しており、症状が乏しくても早期治療で患者の主観的QOLが向上し得ることを示す所見と言えます。しかし80週終了時点では、運動症状の重さもADLもQOLも早期開始群と遅延開始群で差がなくなり、レボドパによる疾患進行抑制効果は示されませんでした。また運動合併症(ジスキネジアやエンドオブドースの症状変動)の発生率・重症度も両群で差がなかったことから、レボドパ早期使用によって合併症リスクが高まるという懸念も否定的な結果となっています。このLEAP試験の結果、レボドパに神経毒性があるのではとの懸念はかなり払拭され、少なくともレボドパを遅らせても病勢進行自体は変わらないことが明確になりました。
以上を踏まえると、現在使用可能な治療薬でPDの神経変性を抑制できるエビデンスはなく、治療開始を不必要に遅らせる意義は乏しいと言えます。むしろ症状がある程度進行した段階で治療を控えることは、患者の機能低下期間を延ばすだけで得られる利点はありません。疾患修飾療法の開発は今後の課題として残されていますが、それまでの間は「目の前の症状を適切にコントロールし患者の生活の質を保つ」ことが治療の第一目的となります。
早期治療開始 vs 経過観察: そのメリットとデメリット
では症状が比較的軽微なうちから治療を開始すべきか、それとも患者が不自由を感じるまで待つべきか——。この問いに関しては、前述のLEAP試験の結果が一つの指針を与えています。すなわち「早期に治療を開始しても病気の進行自体は変えられないが、症状がある期間を減らし患者の短期的な状態を改善できる」ということです。
症状がごく軽度の場合、多くの医師と患者は当面は経過観察(wait-and-watch戦略)に安心感を持つのが実情です。確かに早期治療を開始しても長期予後(例えば死亡や認知症発症まで含めた転帰)が改善するというエビデンスは現在のところありません。しかしその一方で、治療を遅らせることによる短期的なQOL低下のリスクも無視できません。比較的小規模な研究ですが、早期治療開始で有意にQOLが向上したとする報告もあれば、治療介入群でUPDRSの運動症状スコアがプラセボ群より大きく改善したにもかかわらず患者報告のQOL(PDQ-39)が両群で差がなかったとする結果もあり、早期介入のQOLへの影響については一貫しない所見もみられます。この点についても今後さらなる検証が必要ですが、少なくとも「症状が本人にとってつらいのに治療を我慢させる」ことには合理的根拠がなくなってきています。
レビューの著者らは、「症状が日常生活上問題となり始めたら、レボドパを少量から開始し、効果が得られる最小用量まで漸増する」ことを基本戦略とし、軽度症状であれば非薬物療法(運動療法等)も組み合わせつつケースバイケースで判断するとしています。英国NICEガイドライン(2017年改訂)においても「運動症状がQOLに影響を及ぼし始めた早期PD患者にはレボドパ投与を提案する」との推奨が示されており、早期からレボドパを忌避するべきでないという方向にコンセンサスが移行しつつあります。
治療開始を遅らせる最大の動機は「レボドパを長く使うといずれ運動合併症が出るので、それを先延ばししたい」という考えでした。しかし近年の知見からは、この考えにも再考が迫られています。特に興味深い所見として、レボドパ治療を遅らせても合併症発現までの時間は稼げない可能性が示されています。イタリアとガーナという医療事情の異なる二つの地域の患者を比較検討した研究では、ガーナでは平均4.2年間治療を遅らせた(イタリアでは2.4年で開始)にもかかわらず、両地域でレボドパ開始後のジスキネジアやウェアリングオフが出現するまでの疾患経過期間自体は差がなかったと報告されました。すなわち運動合併症の出現時期は「レボドパ治療期間」ではなく「疾患そのものの経過期間とレボドパ投与量」に相関するという結論です。この結果は、レボドパの開始を遅らせても「合併症のない追加の時間」を実質的に稼げるわけではないことを示唆しています。
実際、長期の観察では初期にジスキネジアが全く出現しなかった患者群は、その代わり治療強度が低いために長期的な障害度が高く残存してしまったという皮肉な結果も報告されています。著者らはこれを「見かけ上のパラドックス」と表現していますが、ジスキネジアなどの合併症が極めて少ない患者は裏を返せば低用量で抑えており症状を十分コントロールできていない可能性が高いという指摘です。「運動合併症がない」こと自体が必ずしも良い状態を意味せず、症状コントロール不良や治療不足の反映かもしれないという点は重要です。以上より、患者の生活に支障が出るようであれば治療開始をためらうべきでないと言えるでしょう。「薬を遅らせるメリット」より「治療しないデメリット」が上回る段階では、適切に薬物療法を開始すべきです。

初期治療薬の選択: レボドパ・ドパミンアゴニスト・MAO-B阻害薬の比較
パーキンソン病の薬物療法には大きくレボドパ(ドーパミン前駆体)、ドパミン受容体作動薬(以下ドパミンアゴニスト)、MAO-B阻害薬の3系統があります。このうちレボドパ(カルビドパやベンセラジドと配合される)は50年以上にわたり「ゴールドスタンダード」として最も有効な対症療法であることが知られています。一方、レボドパには長期使用で高頻度に運動合併症を生じる性質があり、それが「レボドパを後回しにして他薬でつなぐ」戦略の主な理由でした。では実際の臨床試験で、初期治療としてどの薬剤を用いるかによって長期予後に差が出るか検証された結果を見てみましょう。
最も信頼性の高いエビデンスとして、イギリスで行われた大規模臨床試験PD MED試験が挙げられます。PD MEDは初期パーキンソン病患者を対象に、初期治療を「レボドパ」「ドパミンアゴニスト」「MAO-B阻害薬」の3群に無作為割付して経過観察した実用的デザインの試験です。治療割付後も症状に応じてレボドパの追加や他治療への切替えを許容する、日常診療に近い“プラグマティック”な方法論が特徴で、英国の91施設から合計1620名が登録されました。
中間解析として中央値3年間(最大9年)のフォローアップ成績が報告されており、その結果はレボドパ初期治療群が他の治療群よりも運動機能・QOLの指標で有意によいというものでした。具体的には、患者による自己評価QOLであるPDQ-39の「運動能力」ドメインおよび合計スコア、EQ-5D(汎用QOL指標)の健康指数、Hoehn & Yahr重症度ステージのいずれもレボドパ群が優れていたのです。統計学的には小差ではあるものの有意差がついており、レボドパ群の患者は他の群よりも移動能力や日常生活の質がわずかに良好でした。
興味深いことに、そうした差がついたにもかかわらずレボドパ群で早期からジスキネジアが多く発生していました(レボドパ群のジスキネジア発現ハザード比1.52、95%信頼区間1.16–2.00)。一方でエンドオブドースの症状変動(ウェアリングオフ)の発生率は3群間で差がなく(HR 1.11, 95%CI 0.90–1.37)、レボドパ群のQOL上昇効果はこの早期ジスキネジア発現という代償を受けてもなお勝っていたことになります。もっとも、QOL指標の数ポイント差は患者が自覚できる最小差(minimum clinically important difference)の範囲内には入らず、ごく軽度の差ではありました。しかし統計的な優位性が経時的にも持続したことから、わずかな差が積み重なった長期転帰(例えば要介護化や認知症発症リスク)の差に結びつく可能性もあり、PD MED試験は現在も追跡継続中です(最終解析結果の公表が待たれています)。
なおPD MED試験には60歳未満の比較的若年発症患者の参加が少なかったという注意点があります。若年発症はレボドパ長期使用に伴うジスキネジア発現リスクが高い要因であり(後述)、そのような患者群では結果が異なる可能性も考慮する必要があります。しかしPD MEDの参加患者層では初期治療としてレボドパを用いるほうが総合的なアウトカムが良好であることが示されたと言えます。
過去にも初期治療法の比較試験はいくつか行われており、その長期追跡結果が報告されています(表3)。代表的なものとして、CALM-PD試験(プラミペキソール vs レボドパ)、056試験(ロピニロール vs レボドパ)、PDRG-UK試験(ブルモクリプチン vs レボドパ vs レボドパ+セレギリン)があります。いずれの試験でも追跡初期にはレボドパ群でジスキネジアの発生率が高く、プラミペキソール群やロピニロール群ではそれより遅れてジスキネジアが出現するという差は認められました。しかし総合的な運動機能やADL、QOLに長期的な差はなく、年月が経てば結局すべての群でレボドパが必要になるため最終的な症状コントロールや合併症プロファイルは収束することが示されています。
例えばCALM-PDの6年追跡では両群でUPDRSスコアやQOLは同等で、ジスキネジアはレボドパ群に多いものの重度のジスキネジアは両群ともごく一部(3~4%)の患者にしか起こりませんでした。一方、眠気や浮腫といった非運動系の副作用はプラミペキソール初期群で有意に多く認められています。056試験でも10年追跡で運動症状スコアやQOLは差がなく、ロピニロール群でジスキネジア発症が少ない傾向はあったものの(OR 0.3)、最終的な機能状態に優劣はみられませんでした。PDRG-UK試験ではレボドパ+セレギリン併用群が死亡率増加により中止となった経緯がありますが、ブルモクリプチン群とレボドパ群の長期予後を比較すると、運動機能はレボドパ群でやや良好であった一方で(身体機能スコア差で有利)ジスキネジア発生率や認知症発症率・死亡率には差がみられませんでした。
以上のエビデンスを総合すると、初期治療としてレボドパを用いた場合は短期的に症状改善効果が高くQOLも向上しやすい反面、数年以内にジスキネジア等の合併症が先行して出現する傾向があります。しかし長期的に見れば数年早くそれら合併症が出現しても臨床転帰に大きなマイナスはなく、むしろ治療を控えていた期間分だけ未治療の障害を余分に背負う結果になると考えられます。一方、ドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬で開始すればレボドパ誘発のジスキネジア発症を遅らせることは可能ですが、その間の症状コントロールはレボドパより不十分であり、代償として他の副作用リスクが増すことが問題となります。

このため近年では「レボドパを初期から怖がりすぎない」ことが強調されてきています。実際、PD MED試験の成果も踏まえ英国NICEガイドラインでは上述のように初期治療としてレボドパ推奨に舵を切っており、エビデンスはレボドパ初期治療を支持する方向にあります。
とはいえ、すべての患者で一律にレボドパ開始が最適とも限りません。若年発症患者では10年以上の長期療法に伴い運動合併症が早期から現れやすいため、その点を考慮した戦略も必要です。実際、ジスキネジア出現の最大のリスク因子は「発症年齢が若いこと」であり、例えば40歳前後で発症したような患者ではレボドパ開始をできるだけ先送りし、ドパミンアゴニストなどで症状をしのぐ判断も一部では行われています。著者らも「若年発症はレボドパによる運動合併症のリスクが高い重要な因子なので、ドパミンアゴニストで開始することも選択肢になり得る」と言及しています。しかし同時に、「その場合でもアゴニストの効果がレボドパより劣ること、長期的な重大な合併症(衝動制御障害など)があることを念頭に置き、慎重に経過をフォローすべき」とも述べています。
若年患者では就労や家庭環境などQOLの優先度も様々であり、レボドパ開始による合併症リスクと症状緩和のバランスを個別に判断する必要があるでしょう。MAO-B阻害薬については、レボドパやアゴニストと比較して効果はマイルドですが副作用が少なく使いやすいため、症状がごく軽微な初期に単剤で様子を見る選択肢として用いられることがあります。しかし疾患修飾効果は期待できない点を踏まえれば、あくまで症状緩和目的の一時的措置と位置付けられます。結局のところ、「ほとんどの患者で初期治療はレボドパが効果と安全性のバランスに優れる」というのが著者らの総合した見解です。ドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬は初期治療の第一選択ではなく、レボドパ開始後の補助療法として位置づけるのが妥当とされています。
エビデンスと臨床現場のギャップ
興味深いことに、上述のようなエビデンスが蓄積されつつあるにもかかわらず、実臨床での処方パターンは必ずしもそれに追随していません。著者らが紹介している米国のParkinson Progression Markers Initiative (PPMI) 登録データによれば、未治療で登録された初期PD患者424名のうち、実際に最初の治療としてレボドパを選択されたのは34%に過ぎず、残りの61%はレボドパを避けてドパミンアゴニスト(45%)やMAO-B阻害薬(その他16%程度)から開始されていました。また米国パーキンソン財団のデータベース調査(Quality Improvement Initiative)でも、2010年から2017年の間に初回治療でアゴニストを用いた患者の割合は約39%と高率で、7年間でほとんど変化がなかったことが報告されています。
このようなエビデンスとプラクティスの乖離が生じる理由として、患者側の不安(「レボドパは最後の手段に残したい」等)や医師側の知識不足、そして製薬企業によるプロモーションの影響が指摘されています。事実、ドパミンアゴニストは1990年代以降新薬が次々と登場し、「若年のうちはできるだけレボドパを使わないで」というメッセージが長らく発信されてきた経緯があります。現在では前述のようにエビデンスが更新されていますので、患者教育・医師教育を通じて徐々に適切な治療選択に修正していく必要があるでしょう。特に高齢発症の患者や合併症リスクの低い患者にまでドパミンアゴニストを安易に第一選択とするのは再考すべきです。「レボドパは副作用が強い薬」という過度な恐れは払拭し、エビデンスに基づいた初期治療戦略を立てることが重要です。
運動合併症のリスク:ジスキネジアと運動症状フラクチュエーション
レボドパ療法の欠点として知られるジスキネジア(異常な不随意運動)とウェアリングオフやオン・オフ現象(薬効時間の短縮や効果の不安定化)は、患者のQOLに大きな影響を与え得る合併症です。ここではそのリスク因子と、初期治療戦略との関係について整理します。
ジスキネジアの最大の危険因子は若年発症であり、若いほど長期にわたり高用量のレボドパ曝露を受けるため発症率が高まります。実際、5年という比較的短期のうちにジスキネジアが生じる割合は、発症年齢が若い患者ほど高率になることが知られています。その他のリスク因子として女性や低体重も指摘されており、これらはレボドパの薬物動態(体重当たり用量や代謝)による影響が示唆されます。またレボドパ投与量そのものもジスキネジア発現と相関し、高用量で急速な用量増加や血中濃度の急峻な変動(パルス状投与)はリスクを高めます。逆にCR製剤の活用や少量頻回投与、持続皮下投与のように持続的にドーパミン受容体刺激を与える方法(continuous dopaminergic stimulation)は、理論的にはジスキネジアリスクを下げ得ると考えられます。
ジスキネジアは通常、発症から数年経過しレボドパ総量が増えてくると出現し始め、多くの場合ピークドーズ時(血中濃度が最高の時)に現れることが多いです。初期治療をドパミンアゴニストで行えば、レボドパ導入を遅らせジスキネジア発現も遅らせることが可能ですが、上述したように発現を「予防」できるわけではなく時間の問題であり、むしろ症状コントロール不足によるデメリットが上回ります。実際に、イタリアとガーナのコホート比較では治療導入を平均1.8年遅らせたガーナ群でもジスキネジア発現までの疾患期間はイタリア群と変わらなかったこと、レボドパ療法の遅延開始は合併症のない期間を稼がなかったことが示されました。このことから、ジスキネジア発現時期は病勢進行そのものに依存すると考えられ、合併症を理由に治療を遅らせる意義は小さいといえます。
むしろ、合併症が出るまでレボドパを増量しないままでいると、その間患者は十分な「オン状態」(症状がほとんどない良い状態)を経験できず、高い障害レベルのまま経過するリスクがあります。前述の図(Figure)にもある通り、長年ジスキネジアが出ない患者は一見優秀に見えて、実際には「治療効果が不十分なまま障害度が高く推移した」可能性があるのです。したがって、運動合併症だけにとらわれて治療強度を下げすぎることは避けるべきでしょう。
もう一つの重要な運動合併症であるウェアリングオフ現象(薬効時間短縮による効果切れ)やオン・オフの不安定化についても、同様の点が言えます。ウェアリングオフは主に病気の進行(ドーパミン神経細胞の減少)による薬剤効果持続時間の短縮によって生じるもので、発症からの経過年数が長いほど出現しやすいことが知られています。しばしば「レボドパを開始して〇年経つと症状の谷が出てくる」という言い方をしますが、実際にはレボドパ治療の長さというより、病状が進展して内因性ドーパミンのbuffer機構が失われた時期に起こると考えるのが適切です。ある研究では治療開始を遅らせても運動合併症出現までの期間は変わらなかったことから、運動症状の日内変動は累積レボドパ暴露量ではなく疾患期間に相関するとの結論が出ています。また、ドパミンアゴニストなど効果がマイルドな薬剤では劇的な「オン状態」を感じにくく、服薬効果の波が不明瞭なため患者がオフを自覚しにくいという一面もあります。レボドパではしっかり症状が取れるぶん効果切れもはっきり実感されますが、逆に言えば非レボドパ薬で合併症がないのは単に効果が不十分なだけかもしれないのです。この「合併症のなさ=治療効果不足」というパラドックスは、我々医療者も念頭に置いておく必要があります。
以上より、レボドパ誘発の運動合併症は確かに厄介ではあるものの、適切な用量調節と新しい製剤の活用によってある程度コントロール可能であり、それらを恐れて治療を遅らせすぎることの弊害のほうが大きいと考えられます。幸い近年はレボドパの徐放製剤やポンプ療法、アポモルヒネ皮下注持続注入療法、更には経皮パッチ製剤など持続的刺激を与える治療法が進歩しており、将来的に運動合併症を遅らせる手段として期待されています(後述)。
薬剤ごとの副作用プロファイル
各クラスの薬剤は有効性だけでなく副作用プロファイルも大きく異なります。初期治療薬を選択する際には、この非運動症状の副作用も考慮しなくてはなりません。主な薬剤クラスごとに特徴的な副作用と注意点を整理します。
レボドパ(+脱炭酸酵素阻害剤): 幸いレボドパ製剤は忍容性が高く重大な内臓障害などは非常に少ない薬剤です。他のドーパミン作動薬と比較しても副作用で治療中止に至る割合は最も低いことがPD MED試験でも示されています。PD MEDにおいて7年時点で副作用または効果不十分を理由に治療中止となった患者の割合は、レボドパ群でわずか7%、これに対しMAO-B阻害薬群72%、ドパミンアゴニスト群50%にも上りました。レボドパの主な副作用は、治療初期に見られる消化器症状(悪心・嘔吐)と起立性低血圧、傾眠などです。悪心に関しては末梢性のドーパミン作用によるものなので、カルビドパ/ベンセラジド配合により大幅に軽減されます。必要に応じて消化管運動促進薬(ドンペリドン等)の併用で対処可能です。精神症状(幻覚・妄想・せん妄)は、レボドパ単剤では初期には比較的まれですが、進行期や高齢者では起こり得ます。とはいえ、初期治療としてのレボドパでは認知症のない患者に精神症状を生じる頻度はドパミンアゴニストよりかなり低いことがPD MED試験の離脱理由分析から示唆されます。実際、認知機能低下や幻覚・妄想など中枢神経系の副作用による治療中止は、レボドパ群で1%に過ぎず、アゴニスト群12%、MAO-B阻害薬群9%に比べ極めて少ないという報告でした。このため認知症のない患者であれば、レボドパによる精神症状を過度に心配する必要はありません(もちろん個人差はあり注意深いモニタリングは必要です)。なお、レボドパの長期的副作用であるジスキネジアやウェアリングオフについては既に詳述した通りです。
ドパミン受容体作動薬(非エルゴット系): ドパミンアゴニスト(プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチンなど)の副作用はレボドパとはかなり異なります。消化器症状(悪心・嘔吐)やめまいはレボドパより頻度が高く、初回投与時から注意が必要です。これはこれらの薬剤が強力なドパミン受容体刺激作用を持つためで、初期には少量から漸増し、就寝前服用等で乗り切ることもあります。傾眠・強い眠気もアゴニストに特徴的な副作用で、日中の耐えがたい眠気や突発的な睡眠発作が起こることがあります。実際、一部の症例では運転中に突然眠り込むといった深刻なエピソードも報告されています。ただしドーパミン作動薬全般で見れば、眠気のリスクは一定程度レボドパにも共通するとの報告もあり、個人差も大きい副作用です。起立性低血圧も全てのドーパミン系薬剤で注意すべき副作用ですが、特にアゴニストでは強く現れることがあります。浮腫(足のむくみ)も比較的頻繁に見られ、例えばプラミペキソールを早期PD患者に使った臨床試験(PROUD試験)では10%の患者に下腿浮腫が生じたとの報告があります。浮腫は数ヶ月の投与後に出現することが多く、利尿薬では改善せずアゴニスト中止で改善するため、場合によっては治療継続困難となります。さらに注意すべきは精神症状で、幻覚・錯乱は高齢者や認知機能の低下した患者ではレボドパ以上に誘発されやすい傾向があります。実際、PD MED試験では前述の通り幻覚・妄想・抑うつなど中枢副作用による中止がアゴニスト群でレボドパ群の約10倍に上っています。これら精神症状は用量依存的に生じるため、慎重な漸増と必要時の減量が重要です。
ドパミンアゴニスト特有の問題として近年重視されるのが衝動制御障害(ICD)です。これは病的賭博、病的買い物、過食、病的性欲亢進などの行動嗜癖のことで、軽度のものからDSM基準を満たす重度のものまで幅があります。PD患者ではドパミンアゴニスト使用者の方がレボドパ単独使用者よりもリスクが一貫して高い(おおむね3~4倍)ことが多数の研究で示されています。特に若年男性で個人または家族に衝動制御障害や嗜癖の素因がある場合、さらに気分障害を抱えている場合にリスクが高まることが分かっています。日本人を含む多施設縦断研究では、発症5年以内のPD患者306名中で5年間の累積ICD発症率が46%に達し、アゴニスト使用と強く関連したとの報告もあります。発症リスクは治療暴露期間に比例して増加し、平均治療3年でICD様症状の累積発現率25%との観察研究もあります。注意すべきは、軽症のICDは患者が隠したがるため見逃されやすいことです。ICDはアゴニストの減量で軽減することもありますが、用量を下げただけでは不十分で最終的に中止しないと改善しないケースも多々あります。
さらに問題なのは、いざアゴニストを中止しようとすると「離脱症候群(DAWS)」が生じる恐れがある点です。ドパミンアゴニスト離脱症候群(DAWS)では、薬剤減量中止時に重篤な精神症状(不安、焦燥、易刺激性など)や自律神経症状(発汗、起立不能など)が現れ、レボドパ投与では改善しないのが特徴です。症状は一種の禁断症状に近く、再度アゴニストを投与しないと解消しないこともあります。報告によれば、アゴニスト中止患者の15~20%にDAWSが生じたとのコホート研究もあり、特にICDを併発していた患者で高率だったとされます。ICDがなくともDAWSが生じる例もあり、高用量のドーパミン剤を使用していた患者や、運動症状が軽度だった患者は起こしやすい可能性があります。DAWSを回避する確実な方法はまだ明らかでありませんが、アゴニスト中止はできれば徐々に長期間かけて行うことが推奨されます。以上のように、ドパミンアゴニストは非運動系の副作用負担が大きく、漫然と使うと患者に深刻な影響を及ぼしうる薬剤です。特にICDは患者本人から言い出さないことも多いため、家族にも変化を聞くなどモニタリングが肝要です。なお、エルゴット系アゴニスト(ブロモクリプチン、ペルゴリド、カベルゴリン)は心臓弁膜症や線維症(胸膜・後腹膜)など稀だが重大な線維化合併症のため現在ほとんど使用されなくなりました。
MAO-B阻害薬(セレギリン、ラサギリンなど): MAO-B阻害薬はレボドパやアゴニストに比べ作用がマイルドで副作用も少ない薬です。主な副作用として不眠や軽度の消化器症状、頭痛などがありますが、多くの患者で問題なく内服可能です。セレギリンはアンフェタミン様代謝物を生じるため不眠傾向がありますが、午前中に服用することで対処できます。重要な注意点は併用禁忌・相互作用で、非選択的MAO阻害薬は多くの薬剤との相互作用が強いため使用困難でした。しかし選択的MAO-B阻害薬で通常用量を守れば、一般に抗うつ薬などとの併用も重篤なセロトニン症候群はごく稀と考えられています。実際、ラサギリンの臨床試験(ADAGIOなど)でもSSRI等との併用下でセロトニン症候群は報告されていません。したがって過度に併用を避ける必要はありませんが、念のため高用量や非選択的MAO阻害作用のある薬剤との併用は避ける、また複数の抗うつ薬との多剤併用は慎重にする、といった配慮は必要でしょう。なお、MAO-B阻害薬は単剤では効果が限定的なため、最終的には多くの患者でレボドパ追加が必要となります。その際に相互作用でレボドパの効果が増強されるため(セレギリンで5~10%、ラサギリンで10%程度のレボドパ節約効果といわれる)、レボドパの減量を検討します。
以上、各薬剤クラスの副作用をまとめると、レボドパは初期治療での忍容性が高く、ドパミンアゴニストは効果に比して副作用負担が大きいことが分かります。エビデンスに基づく推奨でも「副作用の総数および忍容性の低さからの服薬中止率は、レボドパよりドパミンアゴニストの方が高い」と結論づけられており、実臨床でも慎重な適応判断が求められます。具体的には、認知機能低下や精神症状の素因がある患者ではできるだけアゴニストは避ける、若年患者でやむなく導入する際もICDやDAWSに関する十分な説明とモニタリングを行う、といった対策が必要でしょう。また女性や軽量な患者では浮腫や低血圧、高齢者では幻覚や傾眠といった副作用に特に注意して処方することが大切です。副作用が問題になった場合には遠慮なく減量・中止を検討し、別クラスの薬剤への切り替えを行います(PD MED試験でも臨機応変な切替えは許容され、最終的に多くの患者でレボドパが併用されています)。
臨床的提言とガイドラインの示唆
以上の知見から導かれる初期治療の指針は次のようにまとめられます。
症状が日常生活に支障をきたし始めたら、適切な時期に薬物療法を開始する(無症状やごく軽症であれば経過観察も容認するが、患者が明らかに困っている症状を放置しない)。
初期治療の第一選択薬はレボドパとするのが原則。レボドパ・カルビドパ(またはベンセラジド)配合剤を少量から開始し、必要最低限の有効量まで漸増する。レボドパは他の経口薬剤より効果が高くQOL改善に優れるためであり、特に高齢発症患者ではまずレボドパから開始する。
若年発症患者では、レボドパ長期使用によるジスキネジア発現リスクを考慮しつつ、患者の就労状況・価値観なども踏まえ個別に薬剤選択を検討する。患者がレボドパ治療に心理的抵抗が強い場合や、妊娠希望など特別な事情がある場合にはドパミンアゴニストから開始する選択肢もあるが、その際にはICDのリスクや効果不十分の可能性について十分説明する。開始後もICD症状の聞き取りや精神症状のモニタリングを厳重に行い、問題があれば漸減中止も含め速やかに対処する。
MAO-B阻害薬単剤は効果がマイルドなため初期の軽度な症状に限った補助的選択肢とする。症状が進行して十分な効果が得られなくなった段階でレボドパに切り替える。MAO-B阻害薬は副作用が少なく高齢者にも比較的安全だが、相互作用に注意し抗うつ薬等の併用状況を確認する。
パーキンソン病治療は患者ごとに症状の出方(振戦型・すくみ足優位型・非運動症状の程度など)が異なるため、初期治療のアプローチも画一的でなくてよい。例えば振戦が主症状の場合、抗コリン薬が有効なこともありますし、非運動症状(抑うつなど)が強い場合にはそれらへの対処も優先されるべきです。今後、こうした臨床的表現型の違いによる最適治療戦略も研究が進むことが望まれます。
上記のような提言は各国のガイドラインにも反映され始めています。前述したNICEガイドライン2017年版では「症状がQOLに影響するならレボドパを第一選択に」と明記されました。一方で米国などではなお「若年者にはドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬を考慮」との言及が残るものもあります。日本神経学会のガイドライン(2018年改訂)でも、65歳未満ではレボドパ以外の薬剤も考慮するとしつつ、レボドパの有効性と運動合併症のバランスを踏まえて個別に判断するよう述べられています。重要なことは、エビデンスは刻々と更新されているという点です。今回概説したLancet Neurologyのレビューもそれまでの通念をアップデートする内容でした。臨床医は最新の知見を踏まえ、患者と十分に話し合った上で治療戦略を立てることが求められます。
