《灰の王と神なき世界①》
《灰と光の彼方へ》
目を覚ました時、蒼い空があった。
地面は冷たく、空気は澄んでいた。だが、そこは明らかに“いつもの場所”ではなかった。
「……ここは……どこだ?」
記憶ははっきりしていた。
社畜として日々を擦り減らし、深夜残業の帰り道、信号無視のトラックに――
「って、まさか……」
目の前に広がる森、宙に浮かぶステータスウィンドウ。
まるでゲームのようなその世界に、彼――**篠崎蓮(しのざき れん)**は転生していた。
⸻
この世界の名はオルヴァリア。
魔法があり、剣があり、そして“冒険者”と呼ばれる者たちが存在する世界。
レンは、己の素質を試すため、冒険者ギルドに足を踏み入れる。
「君、見たところ新人か? なら、いいパーティーを紹介しよう」
そうして出会った仲間たち――
• 不器用だが実直な剣士:ガルド
• 知識豊富な魔法使い:リーネ
• 口は悪いが腕の立つ弓使い:キース
彼らとの日々は、少しずつレンの心を癒やしていく。
だが――
「悪いな、レン……ここでお前には“死んで”もらう」
信じていた仲間に、背後から剣を突き立てられた瞬間、レンの中の何かが弾けた。
⸻
裏切り、絶望、そして……覚醒。
「この世界を壊してやる――お前たちごと、な」
復讐の炎を胸に、レンは一人、闇の中を進む。
だが彼を待っていたのは、想像を超える真実と、新たな“仲間”との出会いだった――
第二章:深淵より目覚めるもの
痛みはなかった。
代わりに、冷たい闇が全身を包み込んでいた。
(……あいつら、俺を“捨てた”のか)
ギルドのパーティー制度では、“信頼”がすべてだった。
それを裏切られたということは、この世界での生存権をも奪われたに等しい。
「ふざけるな……!」
レンが目を開けると、そこは洞窟のような場所だった。
天井からぽつぽつと滴る水音。地面は黒く濡れ、壁には奇妙な紋様が浮かんでいる。
「……ようこそ、選ばれし者よ」
その声は、頭の中に直接響いてきた。
目の前に現れたのは、黒いローブを纏った謎の人物。顔はフードで隠されていた。
「誰だ……!」
「我は“深淵の書庫”の番人。この地に堕ちし者に、力と知を授ける存在だ」
レンは、ローブの人物が差し出した本を見た。それは、闇に染まった魔導書だった。
「これを手にした時、お前は人としての道を捨てることになる。それでも、復讐を望むか?」
レンは、ほんの一瞬だけ迷った。
ガルドの笑顔。リーネの優しさ。キースの軽口――それらすべてが嘘だった。偽りだった。
「……俺は、全部取り戻す。嘘も、絆も、全部……本物に変えてやる!」
彼の手が魔導書に触れた瞬間、全身に黒い紋様が刻まれ、凄まじい熱が走る。
その身に刻まれたのは、失われた禁忌魔法――“灰の王(ロード・オブ・アッシュ)”。
⸻
レンは死んだ。そして、灰の王が生まれた。
彼の復讐は、ただの報復ではない。
裏切りの真実を暴き、世界の闇を穿つための“戦争”の始まりだった。
だが、レンはまだ知らない。
あの裏切りは、ある“計画”の一部であり、彼自身がその核心に選ばれていたということを――
第三章:炎の剣と偽りの誓い
「……あいつ、もう起きることはねぇよな?」
焚き火の炎が、剣士ガルドの顔を照らす。
彼の隣には、リーネが無言で座っていた。いつもの穏やかな表情は消え、どこか遠くを見つめている。
「……本当に、これで良かったの?」
「リーネ、お前も分かってるだろ。あいつが“選ばれし器”だったんだ。だから、俺たちは――」
キースが苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
「だったら最初から言えってんだよ、クソが。『協力すれば報酬は倍』だと? こんなやり方、ただの……ただの処分じゃねぇか!」
彼らは“レンを裏切った”。
だがそれは、ただの私利私欲ではなかった。
⸻
一ヶ月前。
彼らはギルド本部から“密命”を受けていた。
「転生者・篠崎蓮の監視、及び状況に応じて“排除”せよ」
転生者――この世界に“外側”から来た者。
希少であり、強大であり、そして“世界を壊す可能性を持つ存在”。
ギルドはそれを恐れていた。過去、実際に一人の転生者によって王国が滅びたことがある。
リーネはその記録を知っていた。そして……
「レンの中に、同じ“兆し”を感じた」と、小さく呟く。
「笑ってたよ……仲間と笑うその裏で、彼の魔力は増してた。あれは、制御できるものじゃない。いつか……暴走する」
「じゃあ、俺たちは処刑人ってわけか……クソったれな話だな……!」
焚き火がはじける音が、沈黙の中に響いた。
⸻
その時――
「……誰が、暴走すると言った?」
突如、冷たい声が木々の奥から響いた。
三人の背筋が凍りつく。
声の主は、確かに“死んだはずの男”だった。
「レン……!?」
だが、そこに立っていたのは、もう“かつてのレン”ではなかった。
彼の瞳は深い灰色に染まり、周囲の空気さえも歪めるような“魔力の渦”が彼の周囲に渦巻いていた。
「今から、お前たちに選ばせてやる」
レンの背後に、黒き魔導書がふわりと浮かぶ。
「死ぬか――地獄に落ちて、俺の“同胞”になるかだ」
つづく

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《灰の王と神なき世界》
事故に巻き込まれた青年・レンは、神々が支配する異世界〈ノルディア〉に転生する。 だがそこは、祝福に頼る人々が腐敗し、神は沈黙し、理想とは程…
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