空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで③
第三章
“禁書の魔女”
森を、沈黙が支配していた。
聖王国軍。
総勢およそ百。
重装騎士。
魔導兵。
神官。
国家レベルの戦力。
その全員が、
たった三人へ武器を向けている。
いや。
正確には。
一人の少女へ。
ルミアは震えていた。
ローブの裾を握る手が白い。
「……やめて」
「来ないで……」
白銀騎士が剣を抜く。
神聖銀製。
魔力封印刻印付き。
対魔導犯罪者専用武装。
「黙れ、“禁書の魔女”」
「貴様は既に国家反逆罪で処刑認定されている」
レインが眉をひそめた。
「……処刑?」
騎士は睨む。
「その女は禁忌魔法を扱う危険存在だ」
「既に一つの都市を崩壊させている」
ルミアが首を振る。
「違う……!」
「私はやってない……!」
だが。
誰も聞かない。
兵士達の目には恐怖しかなかった。
まるで怪物を見るように。
その瞬間。
レインの奥で、
何かが静かに燃えた。
……まただ。
また。
“決めつけ”。
“恐怖”。
“都合”。
昔の自分と同じ。
誰も真実なんて見ない。
見たいものだけを見る。
レインは前へ出た。
「その話」
「証拠は?」
騎士が鼻で笑う。
「必要ない」
「災厄因子持ちが存在するだけで危険だ」
その言葉に。
ゼルヴァが笑った。
「……クズだな」
騎士達が一斉に殺気立つ。
「貴様ァ!!」
だが。
ゼルヴァは剣を抜かなかった。
代わりに、
レインを見た。
“どうする?”
その視線。
試されていた。
王として。
レインは静かに、
ルミアを見る。
怯えている。
でも。
逃げないように、
必死に耐えている。
その目が。
昔の自分と重なった。
レインは手を差し出す。
「ルミア」
少女が震えながら顔を上げる。
「お前は」
「世界を壊したいのか?」
ルミアは即答した。
涙を浮かべながら。
「違う……!」
「私は……普通に生きたかっただけ……!」
その瞬間。
黒き玉座が、
空中へ現れる。
──ゴォォォォ……
空間が歪む。
兵士達がざわめいた。
「な、なんだ!?」
「魔法陣なしで空間召喚だと!?」
二つ目の席が、
紫に輝く。
脳内へ響く声。
《空席No.2》
《契約承認待機中》
《対象:ルミア》
《適合率98.2%》
レインは、
静かに告げた。
「なら」
「お前は、こっち側だ」
ルミアの瞳が揺れる。
「……え?」
「俺も」
「普通に生きたかった」
レインは笑った。
少しだけ。
寂しそうに。
「でも世界は許さなかった」
風が吹く。
紫電が舞う。
兵士達が後退る。
本能が理解していた。
“何かヤバい”。
騎士団長が剣を向ける。
「総員!!」
「魔導封鎖陣展開!!」
数十の魔法陣。
聖鎖術式。
巨大な白い結界が展開される。
空間封印。
召喚阻害。
王国最高位の対災厄術式。
だが。
ゼルヴァが吹き出した。
「ぷっ……」
「本気で止められると思ってんのか?」
次の瞬間。
レインが言った。
「座れ」
──バチィィィン!!!
世界が震えた。
ルミアの身体が、
光へ包まれる。
黒い椅子。
玉座。
二つ目の席。
少女は、
そこへ吸い込まれるように座った。
瞬間。
膨大な魔力が爆発する。
森が浮いた。
空が割れた。
兵士達が吹き飛ぶ。
「ぎゃああああ!!」
「結界が!!」
「砕ける!?」
白銀騎士が絶句する。
ルミアのローブが舞う。
銀髪が輝く。
瞳が紫へ変わる。
そして。
彼女の背後へ現れた。
巨大な魔導書。
古代禁書。
世界に七冊しか存在しない神話級魔導兵装。
《叡智の書グノーシス》
ルミア自身も、
理解していなかった。
身体に流れ込む力。
安心感。
“拒絶されない感覚”。
レインが、
初めてだった。
怖がらなかった人間。
利用しようとしなかった人間。
だから。
少女は泣きながら笑った。
「……うん」
「私、あなたの仲間になる」
その瞬間。
契約成立。
《空席No.2 着席完了》
《禁書の魔女 ルミア》
《王座所属認定》
世界が震えた。
空に巨大な紋章が浮かぶ。
王座の紋章。
それを見た白銀騎士の顔から、
血の気が引く。
「まさか……」
「“空席の王”……!?」
ゼルヴァが剣を担ぎながら笑う。
「ようやく理解したか」
「お前ら」
紫雷が走る。
空気が軋む。
そして。
レインは静かに告げた。
「仲間に手を出すなら」
「容赦しない」
その目は。
もう奴隷の目じゃなかった。
王の目だった。

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