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⑪誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”

見ていた人


夜明け前の空気は、冷たい。

焚き火の灰を足でならしながら、
僕は街道の先を見ていた。

街に戻る理由は、ない。
戻っても、
居場所は増えない。

それが、分かっていた。

「……次は、どうする」

レイヴァが、静かに聞いてくる。

問い詰める声じゃない。
答えを急かす声でもない。

“選ぶ余地がある”問い方だ。

「……歩く」

それしか、思いつかなかった。

「どこへ?」

「まだ、分からない」

それでも、
嘘じゃない。

歩くことだけは、
選べる。



朝の街道を進むと、
荷車の音が聞こえた。

前方から、
ゆっくりと近づいてくる。

老人と、若い女性。
親子だろうか。

僕たちを見ると、
一瞬だけ足を止めた。

(……来るな)

無意識に、
そう思ってしまう。

拒絶される前提が、
身体に染みついている。

だが。

「……あの」

声が、かかった。

若い女性だった。

「昨日、街で……」

言葉を、探している。

逃げ道は、いくらでもあった。
無視して、歩き去ることもできた。

でも。

「……見てました」

その一言が、
足を止めさせた。

「あなたが、
 あの人をかばったところ」

胸の奥が、
きゅっと縮む。

(……見られてた)

「変だって、
 思う人もいると思います」

「でも……」

彼女は、
一度、深く息を吸った。

「間違ってるって、
 思わなかった」

言葉が、
まっすぐだった。

飾りも、
正義感もない。

ただ、
見たことを言っている。

「……名前は?」

そう聞くと、
彼女は少し驚いて、
それから答えた。

「ミレアです」

「行商を、手伝ってます」

老人が、
黙って頷く。

レイヴァが、
僕の後ろで動かない。

(……任せてくれてる)



「……助けるつもりは、ないです」

ミレアは、
正直だった。

「あなたたちが
 危険かどうか、
 私には分からない」

「でも」

視線が、
僕の拳に落ちる。

「少なくとも、
 黙って誰かを
 見捨てる人じゃない」

その言葉に、
胸の奥が、少しだけ温かくなる。

(……そんなふうに、
 見られたこと、なかった)

「もし」

彼女は、
言葉を選びながら続けた。

「行くあてがないなら……
 今日だけ、
 一緒に来ませんか」

「荷運びくらいなら、
 手伝ってもらえるし」

……今日だけ。

それが、
逆にありがたかった。

永遠の約束じゃない。
居場所を“与える”でもない。

ただ、
隣を歩く提案。

「……いいの?」

「ええ」

ミレアは、
少しだけ笑った。

「見てた人間として、
 それくらいは」



荷車の横を歩きながら、
僕は気づいていた。

心臓の音が、
いつもより、うるさい。

(……緊張してる)

怖いわけじゃない。
でも、
慣れていない。

“拒絶されない時間”に。

「……カイ」

レイヴァが、
小さく言う。

「何?」

「これは、
 奇跡ではない」

「お前が、
 立った結果だ」

……そうか。

昨日、
声を出した。

力じゃなく、
言葉で。

それを、
見ていた人がいた。

ただ、それだけ。

でも。

それだけで、
世界は少し違って見える。



昼前。

街道沿いの小さな休憩所で、
荷を下ろす。

ミレアが、
水を差し出してくれた。

「……ありがとう」

自然に、
そう言えた。

(……言えた)

自分でも、
少し驚く。

「無理しないでください」

「無理してる顔、
 してますから」

……鋭い。

でも、
嫌じゃなかった。

(……こういうのが)

(……“味方”なんだろうな)

レイヴァが、
遠くを見ながら言う。

「小さな火は、
 すぐに消える」

「だが」

「闇の中では、
 それだけで十分だ」

僕は、
頷いた。



世界は、
まだ敵だ。

居場所は、
簡単には増えない。

でも。

見ている人は、いる。

それを、
忘れなければいい。



読者のみなさまへ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この章では
最初の“味方”が生まれる瞬間を描きました。
大きな力ではなく、
小さな選択が、物語を前に進めます。

もし
「この先が気になる」
「この関係がどう広がるのか見たい」
と感じていただけたら、
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