⑥誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”
世界が、僕たちを見つけた日
ダンジョンの外に出た瞬間、
僕は思わず、立ち止まった。
「……空」
広い。
高い。
現実で見ていた空よりも、ずっと近く感じる。
風が、ちゃんと匂いを運んでくる。
土の匂い。
草の匂い。
(……生きてる、な)
そんな言葉が、頭をよぎった。
隣を見ると、レイヴァが立っている。
真紅の翼は畳まれ、
フードの奥で静かに揺れていた。
「……外だな」
声は落ち着いているが、
視線は忙しなく動いている。
「怖い?」
そう聞くと、
レイヴァは一瞬だけ、口を閉ざした。
「……否定はせん」
正直な答えだった。
数千年、閉じ込められていた場所から出る。
怖くないわけがない。
「でも」
レイヴァは、空を見上げる。
「それ以上に……うるさいな」
「うるさい?」
「ああ。
世界が、騒いでいる」
その言葉の意味は、
すぐに分かった。
《警告》
《世界干渉レベル、上昇》
《未登録個体を確認》
《対象:カイ/随伴:不明存在》
頭の中に、
あの“声”が響いた。
(……来たか)
正直、驚きはなかった。
(そりゃ、そうだよな)
無限の成長上限。
元魔王との契約。
異常だらけだ。
「……世界に、見つかったみたいだ」
そう言うと、
レイヴァは小さく笑った。
「遅すぎるくらいだ」
「我の存在を感知できぬほど、
この世界は鈍っていたのだろう」
強がりだ。
でも、レイヴァらしい。
しばらく歩くと、
街道が見えてきた。
人影がある。
胸の奥が、きゅっと縮む。
(……また、だ)
知らない人たち。
知らない世界。
また、
見られる側になる。
無意識に、
拳を握っていた。
そのとき、
右拳の紋章が、かすかに熱を帯びる。
真紅の翼。
「……大丈夫か」
レイヴァが、低く声をかけてきた。
「顔色が、変わっている」
「……ちょっと、思い出しただけ」
何を、とは言わなかった。
言わなくても、
彼女は察したようだった。
「……人間に、良い記憶はないか」
「うん」
即答だった。
否定する理由が、なかった。
「だが」
レイヴァは、少しだけ歩幅を縮める。
「今は、我がいる」
「それに」
視線が、僕の拳に落ちる。
「逃げるな、と言ったのは
我ではなく、お前だ」
……ずるい。
そんな言い方をされたら、
笑うしかない。
「……逃げないよ」
「今度は」
街に入ると、
視線が集まる。
珍しい服装。
隠しきれていない違和感。
(……慣れてる)
視線を浴びるのは、
もう、慣れてる。
でも。
以前と、決定的に違うことがひとつある。
(……ひとりじゃない)
隣に、
レイヴァがいる。
ただそれだけで、
胸の奥の重さが違った。
だが――
その瞬間だった。
背筋が、凍る。
空気が、張りつめる。
《確認》
《観測不能因子を再検知》
《世界補正を開始》
(……まずい)
レイヴァも、即座に気づいた。
「来るな」
「世界側の……使いだ」
遠くで、
空間が歪む。
人々は、まだ気づいていない。
だが、
確実に“何か”がこちらを見ている。
「……ねぇ、レイヴァ」
「何だ」
「僕たちさ」
少しだけ、息を吸う。
「最初から、
歓迎されてなかったみたいだね」
レイヴァは、
楽しそうに口角を上げた。
「当然だ」
「異物とは、
いつの世も嫌われる」
そして、
静かに言った。
「だが、カイ」
「選んだのは、我らだ」
空間の歪みが、
こちらへ近づく。
世界は、
はっきりと敵意を示し始めた。
それでも。
僕は、
一歩前に出た。
(……今度は)
(耐えるだけじゃ、終わらせない)
読者のみなさまへ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は
⑥ 外の世界と、世界側の敵意
を描きました。
もし
「この先が気になる」
「二人がどうなるのか見届けたい」
と感じていただけたら、
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