見出し画像

誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”①②③

① プロローグ


教室という、逃げ場のない箱

朝のチャイムが鳴る少し前。
教室の扉に手をかけた瞬間、カイは一度だけ呼吸を止めた。

空気が、重い。

湿気のある重さではない。
音のない圧迫感。

――今日は、来る。

席へ向かう途中、背中に突き刺さる視線を感じる。
見られている。
確実に。

「……あ」

誰かの小さな声。
それが合図だった。

「なぁ」

後ろから、聞き覚えのある声がする。

「まだ、生きてたんだ?」

一瞬、時間が止まったように感じた。

次の瞬間、
教室のあちこちで、笑いが漏れる。

机が、軽く蹴られる。
ガタン、という音。

カイは、何も言わなかった。

心臓が早く打つ。
指先が、少しだけ震える。

(……数えるな)

言葉を数え始めると、
一つひとつが心に突き刺さる。

だから、数えない。
感じない。

黒板を見る。
チョークの音を聞く。

「先生、こいつ無視してまーす」

笑い声。

先生は一度こちらを見るが、
すぐに視線を逸らした。

「……授業を続けるぞ」

それで、終わり。

(……今日も、そうか)

昼休み。
立ち上がろうとすると、鞄が床に落ちる。

「わざとじゃないって」

謝罪はない。
悪気もない顔。

放課後。
誰もいなくなった教室で、カイは一人、窓の外を見ていた。

夕焼けが、やけにきれいだった。

「……もう、いい」

声に出したとき、
涙は出なかった。

怖さもなかった。

終わらせたかったのは、人生じゃない。

耐え続ける自分を、
ここで終わらせたかっただけだ。


② 光の部屋で、初めて深呼吸をした


──暖かい。

それが、最初に感じたことだった。

次に気づいたのは、
胸が苦しくないということ。

息を吸う。
吐く。

(……普通に、呼吸できる)

目を開けると、
淡く輝く小さな部屋が広がっていた。

白でも黒でもない。
柔らかな光が、壁から滲み出ているような空間。

「……ここ、どこだ」

声が出る。
ちゃんと、自分の声だ。

身体を起こす。
驚くほど軽い。

いつもなら、
関節の奥が軋む感覚があった。

それが、ない。

「……死んだ、よな」

そう思った瞬間。

《ステータスを開きます》

声が、頭の中に直接響いた。

「……誰だ?」

返事はない。

視界の前に、半透明の文字が浮かぶ。



名前:カイ
レベル:1/∞

筋力・敏捷・耐久・魔力・知力・精神
すべて:+100



「……∞?」

意味が分からない。
けれど、直感で分かる。

(上限が、ない)

《理由:精神耐久値が規定値を大幅に超過》

精神耐久。

耐えてきた日々。
飲み込んだ言葉。
泣かなかった夜。

それが、ここでは“強さ”になるらしい。

「……皮肉だな」

《初期祝福アイテムを付与します》

足元に、小さな袋が現れる。
中には、豆のようなものが一粒。

「……これ、食べるのか」

《祝福の種です》

《摂取すると、祝福が定着します》

「……まぁ、いいか」

どうせ、もう一度死ぬだけだ。

豆を口に含んだ瞬間、
身体が光に包まれる。

熱い。
でも、怖くない。

胸の奥が、じんわりと温かい。

(……ここにいても、いい)

初めて、そう思えた。


③ 真紅の翼と、主従契約の証


部屋には、ひとつだけ扉があった。
壁には何かが書いてある。
ま……お……う……封………?

開けた瞬間、
空気が変わる。

広い。
天井の見えない空間。

石と魔法陣で構成された、ダンジョン。

中央には、巨大なクリスタルが浮かんでいる。

近づいた、そのとき。

「……来たか、人間」

空間を震わせる声。

真紅の翼を持つ少女が、宙に浮かんでいた。

「我を解放しに来た愚か者よ」

「ここで、死ね」

殺気が、肌を刺す。

普通なら、足がすくむ。

だが、カイは動かなかった。

(……この感じ)

(学校で、何度も味わった)

「……その言い方、やめた方がいい」

「は?」

少女の眉が、ぴくりと動く。

「威圧しても、
 相手は何も分からない」

「……我を誰だと思っている」

「魔王、だろ」

「……なぜ、怖がらぬ」

「怖がらせようとしてる人って、
 本当は、すごく寂しいことが多いから」

沈黙。

少女の瞳が、わずかに揺れた。

「……貴様」

「……はは」

「はははははっ!!」

突然、大笑い。

「数千年だぞ!
 我にそんなことを言った人間は!」

「……気に入った」

「人間、我を外へ連れ出せ」

条件が出される。

世界を壊さない。
力を乱用しない。

その代わり、主従契約。

「……いいよ」

「条件がある」

「何だ?」

「名前」

少女は、目を見開いた。

「主従なら、名前が必要だろ」

真紅の翼。
燃え残る炎。

「……レイヴァ」

「燃え残っても、空を飛ぶ翼」

少女は、静かに目を閉じた。

「……良い名だ」

「我は今日から、レイヴァと名乗ろう」

少女が拳を差し出す。

「契約だ」

カイも、拳を合わせる。

瞬間、熱が走る。

右拳に、
真紅の翼の紋章が刻まれた。

「……これが、主従の証だ」

「逃げるなよ?」

「逃げない」

「ひとりにしないって、決めたから」

レイヴァは、少しだけ笑った。

こうして。

誰にも救われなかった少年と、
名を得た元魔王は、主従となった。



読者のみなさまへ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この物語は
「壊れなかった心が、誰かと出会い、歩き出す話」です。

もし
続きを読みたい
この世界を、もう少し見てみたい
と感じていただけたら、
• 👍 スキ
• ⭐ フォロー
• 💬 コメント
• ☕ チップ(応援)

で応援していただけると、とても励みになります。

あなたの反応が、
この物語の続きを動かします。

いいなと思ったら応援しよう!

ひら🎈 🌟ぜひ応援お願いします🌟 もっとがんばります(ง •̀_•́)ง

この記事が参加している募集