第3話
新手の象の魔物が迫る中、ダンは病魔に取り憑かれ、膝をついてしまっていた。リムとナオは、一斉に彼の元へと飛び出した。
「ナオちゃん! 私があの魔物をなんとかするから、ナオちゃんは、ダンのおっさんの病魔を倒しちゃって!」
「は、はい! 分かりました!」
リムは魔物の元へ向かい、ナオはダンの元へと駆け寄った。リムは鎌を出現させ、魔物の前へ立ちはだかった。
「うぅ〜……。生き物の相手はあんまりしたくないんだよね〜……。病魔は別だけど」
死神時代のトラウマで、リムは命を奪うことに抵抗を持っていた。怪異のような存在の病魔以外とは、戦った経験がないのだ。
「どれくらい手加減すればいいのか分からないけど!」
リムは魔物の命を奪わないように、致命傷にならないような攻撃を仕掛ける。しかし、威力を弱めすぎた攻撃は、魔物の勢いを止めることは出来なかった。
「くぅっ! ナオちゃん、早く病魔を倒して!」
魔物に手こずるリムは、鎌で牽制しながらもナオの方の様子を窺う。ナオは剣を構えたまま、戦う様子もなく立ち尽くしていた。
「おいおーい! ナオちゃん何やってんの!? 病魔専門の組織の人なんでしょ!? 早く倒しちゃってよ!」
「す、すみません……! 実はあたし、アガり症なんです……! こういう本番にとっても弱いんですぅ!!」
「はぁー!? そんなこと言ってる場合か!?」
病魔の前で立ち尽くすナオ。病魔はその様子に気付き、ナオを攻撃対象として認識した。カボチャの下から太い根を生やし、ナオに向かって勢いよく伸ばした。
「うあっ!!」
ナオは咄嗟に剣で受け止めるが、力強い根の威力で後方へ吹き飛ばされた。ナオが手こずる中、ダンの体調はみるみる悪化していく。
「ぐぬぅ〜! あんな病魔、私なら一発で倒せるのに! でも、今この魔物のそばを離れる訳にはいかないし〜!」
魔物を食い止めながら、リムはもどかしそうな表情を浮かべていた。吹き飛ばされたナオは、剣を支えにしてなんとか立ち上がっていた。
「ナオちゃん! しっかりしろぉ! 今、病魔を倒せるのはあんたしかいないんだよ! 全責任は今、ナオちゃんの手の中にある!」
「やめてください〜! そういうのが一番プレッシャーになるんですよぉ〜!」
「ぐぬぬ〜! ヘタレな奴め〜!!」
リムは憤りながらも、自身も魔物を仕留められずにいた。ジワジワと迫り続ける魔物に、その表情は焦りの色を滲ませ始めている。
「うぅ……! ヘルス先輩、すみません……! やっぱり、あたしには無理です……!」
ナオは目に涙を浮かべ、戦意を喪失する寸前になっていた。そんなナオの姿を見ていたダンは力を振り絞り、ゆっくりと口を開いた。
「剣士の娘よ……。プレッシャーに押し潰されることは、恥ずかしいことではない……。私も、この街を守る中、何度も逃げ出したいと思っていた……」
「ダ、ダンさんが……!?」
「だが、私には、頑張る姿を見せたい女性がいた……。ふっ……。情けないが、私は自分の見栄のために戦っていたのだ……」
「それって、ベルさんのことですか……?」
恥ずかしげにダンは頷いた。ダンが語った言葉は、少しずつ、ナオの手に力を宿らせていく。
「人を守るためだとか、自分がなんとかしなければとか、そんなこと、二の次で良い。まずは、自分のために剣を振れ」
「自分の……ために……!」
ナオの目に炎が宿る。自分のため、その気持ちを燃え上がらせ、プレッシャーを跳ね除けようと精神を集中させる。
「あたしも! ヘルス先輩のために!! ヘルス先輩のようになりたい!!」
敵意を見せるナオに、カボチャの病魔は再び根を伸ばす。迫る根を見ても、今のナオは動じることはない。
「執刀!」
ナオは根を斬り裂きながら、病魔に急接近する。病魔は、カボチャの頭の先端から、大粒のタネを撒き散らす。
「ふっ! はっ!」
残像を残しながら、ナオは高速でタネを避け続ける。病魔はさらに、根とタネの同時攻撃を仕掛けた。
「相手の動きが、全部見える……!」
ナオは病魔の攻撃を見切っていた。不規則に襲い掛かる根とタネを、難なく回避しながら、病魔の至近距離まで接近していた。
「やるじゃん、ナオちゃん! じゃあ、私も頑張るか!」
リムは自身の影を操り、鎌に覆い被せていく。巨大な漆黒の鎌を作り上げ、腰を落として構える。
「漆黒の構え。鎌だけに!」
「”漆黒鎌威太刀“!!」
巨大な鎌は魔物の顔面を斬り裂いた。しかし、傷はついていない。漆黒の鎌から、闇のエネルギーを流し込まれた魔物は、目眩を起こし怯んでいた。
「ナオちゃん! 今のうちに決めちゃえ!」
「はいっ!!」
高速移動で残像を起こし、ナオの姿は2人に増えた。2人のナオは剣を構え、一気に病魔に斬り掛かる。
「“セカンド・オピニオン”!!」
「ガボォアアアアッ!!」
2人のナオに斬り裂かれ、病魔は細微塵に飛び散っていた。残像は消え、ナオは元の1人へと戻っていた。
「ふぅ……。執刀終了……」
「よくやった。あとは、任せてくれ」
病魔が倒れ、ダンは力強く立ち上がった。肩を回しながら、巨大な魔物の元へと歩み寄る。
「死神の娘。選手交代だ」
「まったく、待ちくたびれたっつーの」
リムはダンと入れ替わるように、後ろへと下がった。ダンは、強烈な威圧感を発しながら、魔物の前に立ちはだかる。その迫力に、魔物は後ずさっていた。
ダンは両腕に力を込め、その筋肉は数倍の大きさに膨れ上がっていた。そして、その拳を後ろへ引いた。
「うおりゃあああああッ!!」
ダンが拳を突き出す。凄まじい風圧が起こり、魔物に体に、巨大な拳の形が浮かび上がっていた。その風圧に耐えられず、岩山のように大きな魔物の体は浮かび上がり始める。
「ブオオオオオオッ!?」
メキメキと嫌な音を響かせながら、魔物は遥か彼方へと吹き飛んでいた。リムとナオは、目を丸くしながらその様子を呆然と眺めていた。
「キャー! やっぱり、本調子のダン様はカッコいいのですー!」
ただ1人、ベルを除いては。
病魔を倒し、健康を取り戻したダンが魔物を撃退したあと、リムたちはベルの家でひとときの休息を味わっていた。
「リムさん、ナオさん! 本当に、ありがとうございましたのです!」
「えへへー! いやいや礼には及びません〜。もっと感謝してください!」
「図々しいですよ、リムさん……」
「本当に感謝している。君たちのお陰で、私は力を取り戻した。いくらお礼を言っても、足りないくらいだ」
その言葉を聞き、リムはニヤリと笑った。今がチャンスと言わんばかりに、身を乗り出す。
「じゃあ! 門を通してくれますよね!」
「それは駄目だ」
「今のは許してくれる流れでしょうがー!?」
リムの絶叫が響き渡り、思わず、ナオとベルたちは吹き出してしまっていた。
