[ショートショート]せりふ三題噺 合皮シーグラス将棋
私は、少し離れたところの砂利が目立つ広い空き地にショッピングモールが建つとのことで、どういった仕上がりなのかと気になって外に出た。
自転車スタンドを蹴り上げて、南風へと向っていった。久々に動かしたからか、ゴムタイヤがアスファルトに食い込み、ハンドルが取られた。
合皮のカバンが前のカゴでシェイクするのを見つめ、信号へと視線を移した。
私は、「イイや。」と口ずさみ、目的地ですることが一つ増えたぐらいに思った。
太もものうち、膝の方の筋肉が痙攣した時に、ガラス戸に2枚の畳が横並びで立てかけてある建物があった。
奥に光は見えなかった。
その建物が気になって、自転車を旋回させるとゴムタイヤが縁石に引っかかり、ブレーキを握った拍子にペダルが右の脛に激突した。
上の犬歯で下唇を噛む。午後4時前、紐付きの白い巾着袋をランドセルに引っかけた小学生が「大丈夫ですかぁ?」としゃべりかけてきた。
「うん。だから、あ、ほら、行って。」と手信号で払いのけた。
間延びした返事が返ってきて、走っていった。白い巾着袋がなんとか道に落ちずにしがみついて帰宅できるのを願った。
「散漫…」と呟いた。「無念…」と言いたかったけど、私には似合わない。凹凸が目立つ細い手首で刀は握れないと思うからだ。
右足をさすりながら近づくと、そこは空き家だった。店先から歩道が狭くなるため、サドルから左へ身体を逸れると脚に力が入らなくなっていた。
咄嗟の危険察知で車の通行状況を確認した。右から左へと視線を動かすと、右手の人差し指の第二関節を口に入れてねぶっている女性と目が合った。
左手にはシーグラスのように透明度のあるビーズを3か4つ持っていて、擦り奏でていた。
「今その奥は、調べない方がいいよ。」
タメ口だった。私の方が背が高かったので、近寄って、耳元で答えた。
「なんで?」
「今日は、伝説の最中なんだから。」
「宗教?」
「違う。将棋クラブ。入部希望?」
「いやいや」と、吐息混じりの声が出て、気味悪がられているのではないかどうかが心配で、話を聞くことに徹してみた。
「あー、ご入り用だったんすね。」
「見てく?」
「そっすね。」
彼女は左手のものをズボンのポケットに入れた後、「静かによ。今やってんだから。」とガラス戸の前で振り向いて、畳をどかして中へと入っていった。
どっが先に潰れそうかと考えたら、そらこっちの方だろうと、身を屈んで足早に入った。
カバンはカゴにもたれたまま、前輪がペダルを小突いた。
ガラス戸を閉めた手を脇で拭いた。
ポケットからのバイブレーションが伝わる。
今のでちょうど、あの時から300回だ。
カバンからブブブと重なる音がした。
セリフ「調べないほうが良いよ。」
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