似たり寄ったり

伊達政宗の父、伊達輝宗は若くして、家督を継いだ。
しかし、困ったことがある。
それは家老、中野宗時は御家を牛耳っていた。

伊達政宗の祖父、晴宗の側近から、伊達の筆頭家老に躍進した中野は非常に野心が強く、しばしば、輝宗を軽んじる言動が多かった。

「大蒜、大蒜、ギョウジャニンニク」

中野は政務に多忙をきわめる一方、米沢城(山形県米沢市)から一里離れた山道で山菜を収穫する細身の侍が一人。

中野の家臣         遠藤基信もとのぶ


中野の家臣。
もとは岩代(福島県)の寺で生まれた坊主上がり。

生まれた時代が乱世で、これ幸い。
頭を丸めず諸国を巡り、見聞を広めた遠藤はいつしか中野の家臣に取り立てられた。

遠藤がせっせと収穫するのは

ギョウジャニンニク

名前の通り、行者が精をつけるため、食べていたら、修行どころじゃなくなり、絶倫になる山菜。

「よし、これくらいでよいか?」

遠藤は背負った竹籠にギョウジャニンニクを目一杯と、積み込んだ。

中野にギョウジャニンニクの収穫を命じられた遠藤は雑用ばかり任される。

とはいえ、不満はない。
遠藤にとって、中野は悪態をつく家老にあらず。

「権臣、常陸介(中野)なくば、伊達は潰える」

その昔、輝宗の父、晴宗が内乱を収束させた。
中野は晴宗の補佐を務めて、傾いた伊達家を再建した功績がある。

そのため、中野の専横を悪く思う者は伊達の一門衆。
輝宗の弟たち、叔父たちはとりわけ。

「妬み、羨み、僻み、丸かいて、ちょん」

と、遠藤は木の枝で◯を描き、ひと休み。

権力者は何かにつけて、妬まれる。
今も昔も。

経歴詐称の坊主上がりと揶揄された遠藤を取り立てた恩義を感じて中野の命に従い、雑用に励む。

「人は変わらぬ。欲を持たば、欲にまみれる」

遠藤はうつらうつら。
気づいたら、眠りこけてしまう。

「しまった!」

遠藤は目を覚ますと、辺り一面は闇に包まれていた。
行き先はわからず、灯りもないので途方に暮れる。

その時、遠くの方でかがり火が見えてきた。
遠藤はひとまず、歩きだした。助けを求めて。

「ややっ、これは?」

と、平伏する遠藤の前にいたのは伊達の若殿、輝宗。

「お前はたしか、常陸介の家来であったな?」

「仰せの通り。遠藤基信にございます」

伊達輝宗


精悍な顔つきの輝宗は遠藤を立ち上がらせて、竹籠に入ったギョウジャニンニクを一束、取り上げる。

「山菜か?」

「左様にございます」

輝宗はギョウジャニンニクの匂いを嗅ぎ、強烈な臭いに鼻をつまみ、家臣は警戒する。

「旨いのか?」

「は、我が殿の好物にございまして」


と、遠藤が答えた直後、輝宗はニヤリと笑う。

「されば、すべて、わしがもらいうけてよいな」

「ええ……えっ?」


輝宗は遠藤をこの日から家臣に加えた。
ただし、中野の家臣でありながら。二人の主君をもつ遠藤は心が揺らぐ。

「ギョウジャニンニクを常陸介に食わせる前にわしに食わせろ」

「えー、あぁ……あ、承知しました」


それから間もなく、中野は失脚した。
謀反の疑いにより、伊達を追われた。
後任に命じられたのが……

「遠藤基信にございます」

輝宗の女房役を務める遠藤は諸国を巡る見聞を広めた甲斐あって、伊達の宿老に大躍進。

「牛耳るでないぞ」

「あ、ははっ。承知しました」


後年、輝宗が敵の畠山義継に拉致されて、殺害されたのち、遠藤は殉死を遂げている。

(了)