ミストフォレスト・マーダーケース
誰がこんなところに棲むものか。
避暑地の長野県軽井沢で購入した中古物件。
「別荘って……ただの空き家じゃないか」
「まぁ、そう言わないでよ。二人きりになれるし」
都内で貿易商を営む私の愛人、雅に哀願されて、購入した。車を停めて、鍵を開ける。キィーときしむ扉を開き、足を踏み入れた直後、私たちは鼻を抑える。
「ヴっ」
「臭い」
部屋は湿気を吸い、至るところ、あちらこちら、カビカビルンルン💃
窓を開け、自然に囲まれた空気が部屋中に行き渡る。
「なんなんだよ、ココ?」
と、咳き込む私に二回り下の雅はちゃっかり、マスクを着用。
用意周到、手のひらの上で踊らされて、鼻を抑える私は土足で歩き回る。
「リフォームしないとね」
「当たり前だ。言われなくても、わかってるよ」
私の態度を世間一般の尺度で器の小さい男の特徴。
しかしそれは金のない、権力のない人間に限られる。実業家の私に雅はぞっこん。
それを裏付けるように、私の腕をつかみ、
「ね? しよっか?」
「バカ言え。こんなカビ臭いとこで抱けるか!」
「そりゃ……抱けないよね」
雅は私を試すのはいつものこと。
だから、私も彼女を試す。
「抱く前に、キスしようか?」
「いいよ」
数日後、雅の遺体が軽井沢から離れた、諏訪湖の畔で見つかった。首が変な方向に折れて、眼球は二つとも取り除かれていた。
それと子宮が切除されていた。きれいさっぱり、犯行は別の場所で行われた可能性が高いと、警察は発表。
「やっぱり、都会がいいよね」
私は都内に戻った。カビ臭い中古物件は手放した。
足がつかないように、独自のルートで。
スマホが着信。アイツからの着信。
「たちんぼで買った女はカネにがめついな。後腐れが悪いから、手狭がよかった。また、よろしく」
(了)
