にゃー太郎から、あんこちゃんへ
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
前回の「山の畑」のお話に登場した、
義母の使い――あんこちゃん。
実は、最初から「あんこちゃん」と呼んでいたわけではありません。
ワタシは当初、この猫ちゃんを、
「にゃー太郎」
と呼んでいました。
レディに対して「太郎」とは、ちょっと失礼ですよね。
今日は、そんな「あんこちゃん」との出会いから、別れまでのお話です。
ワタシは、何に対してもすぐにあだ名をつけてしまいます。
たとえば――
髪の毛を後ろでひとつに縛った男性には、
「ちょんちょりん」
競艇場に現れる、背の低い常連のおじいさんには、
「妖精」
自分の意に反し、いや本人の意思なのか、
金髪やメッシュの髪色にしている幼児には、
「英才教育」 (なんの英才教育だよ?)
動物には、オス・メス関係なく、
「ちゅん次郎」
「にゃー太郎」
金魚には、
「金二郎」
まあ、こんなあんばいです。
ですから、山の畑に現れた、まだ名前も知らない猫ちゃんにも、当然のように名前をつけました。
女の子だと分かっていたのに、
「にゃー太郎」
です。
本当の名前を知ったのは、しばらくしてからでした。
ある日、近所に住む一人暮らしの女性が、片手にサイダーの缶を持って、ワタシのところへやってきました。
80歳少し前くらいでしょうか。
「あの……いつもウチの猫がお邪魔して申し訳ございません」
「もし、邪魔でしたら追い払ってください」
そう言いながら、サイダーの缶を手渡してくれました。
「いいえ」
「いつもこの子には癒してもらっていますから、気にしないでください」
そう答えるワタシ。
それから、二人と一匹。
畑の前で、しばらく話をしました。
数年前に、ご主人に先立たれたこと。
もともとは東京近郊に暮らしていたけれど、ご主人の出生地である新潟県十日町に、どこか似た風景が気に入り、こちらへ移住してきたこと。
東京近郊には、お子さんたちがそれぞれ暮らしていて、ときどき様子を見に来てくれること。
いろいろなお話を伺いました。
ワタシ自身、新潟出身ということもあり、新潟の話にも花が咲きました。
そして、ようやく肝心の猫ちゃんの名前を尋ねました。
「この子、お名前はなんていうんですか?」
すると、
「娘が甘いものが好きなもので……」
「餡子の『あんこ』です」
「あとは『あこ』でも、どちらでもいいですよ」
とのこと。
この日を境に、
「にゃー太郎」から「あんこ」へ。
改名です。
家に帰って、そのことを家内に話すと、
「いい名前だね」
と笑って答えてくれました。
ところが――
一つのことに凝りだすと止まらないワタシ。
家内と休みが一緒の日でも、畑へ行ってしまいます。
しまいには、
「また彼女のところですか!」
「別に浮気するわけじゃないから、いいだろ」
「猫に嫉妬するなんて、おかしいですよね!」
……なんてことになりまして。
🕊️🧰ハトハコ
「オカシイの、アンタだよ」
🐶わんちゃん
「家庭サービスもしなきゃダメだよ」
🧸クリス
「同意」
ついには、ぬいぐるみたちからも顰蹙を買ってしまいました。
それからは、家内と休みが合う休日は、朝イチに畑へ行っても、1~2時間程度にとどめるようにしました。
それでも、楽しい時間はたくさんありました。
ジャガイモが採れると、あんこちゃんのおばあさんの家へ届ける。
すると、おばあさんが蒸かしたジャガイモをすぐに作ってくれて、一緒に食べる。
畑の前で、いろいろな話をする。
そして、
あんこちゃんを抱っこする。
本当に楽しい時間を、共有することができました。

そして、今から2年前の、ある日のことです。
いつものように畑へ行くと、
あんこちゃんの家の前に、見慣れない東京近郊ナンバーの車が止まっていました。
嫌な予感がしました。
その予感は、的中しました。
夕方になると、もう一台、トラックがやってきました。
「明日は仕事だから、一日畑にいるわけにはいかないな」
そう思い、その日は自宅へ帰りました。
数日後。
あんこちゃんは、もう畑へ来ることはありませんでした。
後日、あんこちゃんの家に、ワタシより少し若そうな女性が来ていました。
ワタシは尋ねました。
すると、その女性は、
「母がお世話になったそうで、その節はありがとうございました」
「高齢になった母を、離れた場所で一人暮らしさせておくのが心配で……」
「私の家に引っ越してもらいました」
と話してくれました。
そうだったのか。
あんこちゃんも、もうここには来ないんだ。
そう思った瞬間、いろいろなことが頭の中を駆け巡りました。
あんこちゃんの人懐っこい性格なら、どこへ行っても、きっとたくさんのお友達ができるだろうな。
この田舎なら、道端で昼寝をしていても、それほど危なくない。
でも――
都会の道路は、大丈夫かな。
ちゃんと車に気をつけるんだよ。
知らない人についていっちゃダメだよ。
ちゃんと、ご飯を食べるんだよ。
そんなことを考えているうちに、
ワタシは、知らない間に涙を流していました。
あんこちゃん。
最初は「にゃー太郎」なんて呼んで、ごめんね。
君が畑に来てくれるのが、本当に楽しみでした。
君を抱っこすると、なんだか心が落ち着きました。
畑仕事で疲れたときも、君がそばにいるだけで、もう少し頑張ろうと思えました。
そして今でも、山の畑へ行くと、
「ひょっとしたら、今日も来るんじゃないか」
そんな気がしてしまいます。
あんこちゃん。
元気で暮らしているかな。
新しいお家でも、誰かに抱っこしてもらっているかな。
お友達は、できたかな。
そして――
たまには、ワタシのことも思い出してくれているかな。
山の畑には、今日も風が吹いています。
あんこちゃんが昼寝をしていた場所を眺めながら、
ワタシは今日も畑仕事をしています。
にゃー太郎から、あんこちゃんへ。
名前は変わっても、
君と過ごした時間は、ずっと忘れないよ。

あんこちゃんがいなくなって、しばらくして――
山の畑に、今度は別の猫が現れるようになりました。
名前は、アムちゃん。
しかも、この子は現在も現役です。
どうやらワタシの畑には、
猫を呼び寄せる何かがあるらしい。
その「2代目アムちゃん」のお話は、また次に。
最後までお読みいただきありがとうございました。

