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南のイメージ

青い空、エメラルドの海、真っ白なビーチにヤシの木🌴 ビートのきいた音楽、ダンスのあふれるカラフルな街、暖かい人たち……、それとも、気候災害、発展途上、不安定な社会? 「南」という言葉には様々なイメージが重なります。

 アルゼンチンタンゴにおける「sur」のイメージは、というと、固有名詞 Sur もしくは 定冠詞つき el sur で、今はもう失われてしまったタンゴ生誕の地、みたいな感じでしょうか。

 タンゴ生誕の地とされているボカ地区La Bocaがブエノスアイレス市の南端にあるため「南」と符牒されるわけです。このイメージを持ったタンゴには、アニバル・トロイロの名曲『Sur』などがあります。(このあたり、noteで米阪隆広さんが詳しく書かれています)

  また、ボカに隣接したサン・テルモ地区には様々な人を魅了してきた「Bar Sur」があります。ウォン・カーワァイ監督の映画『ブエノスアイレス』では主人公の一人がドアマンとして働く怪しげな「タンゴバー」という設定で使われましたが、実際はもっと文人バーっぽい雰囲気の社交場であったようです。特に1970年代、このバーは大都会のボヘミアンな雰囲気にあふれ、詩人・小説家・劇作家、TVプロデューサー、音楽家、俳優など、様々な人たちが集いました。音楽とダンスに隠れがちですが、タンゴでは詩の力も大きく、このバーでもタンゴ音楽と詩の朗読のコラボなど、様々なイベントが行われたそうです。

 大都市ブエノスアイレスの中にこんな所があったのか、と思うような少し入り込んだ一画にあり、店内に一歩入ると白黒チェッカーの床タイルと年季の入った木のカウンターが目に飛び込んできて、ちょっとタイムトラベルした気分になります。

 1988年のフェルナンド・ソラナス監督の映画『スール/その先は……愛』の中で、バーから出てきたロベルト・ゴジェネチェがネストル・マルコーニのバンドネオンで『最後の酔い(La última curda)』を歌うという、そこだけでも見る価値充分なくらいのシーンがとられたのもここです。

 この映画の音楽は、なんとアストル・ピアソラが担当で、名曲『Volveo al sur(南へかえるよ)』もこの映画のために作曲されました。ゴジェネチェがしわがれ声で独り言のように歌うこの曲、(ソラナス監督には失礼かもしれませんが)音楽だけでもう十分なイメージ喚起力。でも、初めて聞いた時は、メジャーな観光地のボカより、もっとずっと南の、寒くて、大きな空の広がった場所のイメージが浮かびました。南へ、あの草原pampasすらも越えて南極へと伸びる大地。南へ帰る……究極の孤独を求めて? それとも心機一転人生やり直し? 何にせよ、アルゼンチン、大きいですよね……。
©2024 Rico Unno, CC BY-ND


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