桐ノ葉餅 ―欠片あつめ 春④―
ユルさんのナビゲートで
このままのんびりお散歩するんだ
と思ってたワタシは
【ユルさんのお散歩】を
甘く見ていたようだ
信号をいくつか渡って
ちょっと進んだ時
目の前に現れたのは大きな鳥居と
その下の巨大な坂
え?ホントに??これ登る?
“海が見える高台”のある公園が
まさか山だとは
誰も思わんじゃろて
案内役のユルさんは
『小学校の頃この坂で
よくボール遊びしよったんよねー』
と懐かしく思い出している
こんな急な坂でボールは危ないじゃろ
と突っ込みながら
小学生あるあるに笑い合う
一旦坂から意識を逸らそうと
周りを見ると左手に
“桐ノ葉餅”と書かれたのれんが見えた
間口付近だけで売っているのであろう
小さなお店
でも、桐ノ葉餅がなんなのかが
想像つかない
柏餅みたいなものかな?
と思いながら
『キリノハモチ?ってなぁに?』
と聞くと、
「あぁ、結構うまいよー、帰りに買おっか」
とユルさん
帰りに買うのは大賛成だけど
桐ノ葉餅自体の解説は無し
結局正体がわからない
しっかりしてるのに、
こういうとこちょっとズレてるんだよな
となんだか笑ってしまう
“食べたらわかるよ”
なんだろうなと
帰りの楽しみができたので
気を取り直して公園へ向かう
坂に差し掛かると
右手の小さな石段の上に
何かの像が見えた
『ユルさん、あれは誰?』
「ん?誰じゃろな、気にしたことなかった
行ってみるー?」
と言うのでぴょこぴょこと
石段を上がってみる
―軽装で地図を持ち
穏やかに微笑む武将らしき像―
「あぁ、景政じゃね
この公園は十輪田 景政に縁があるけん
有名よー」
と、さっきとは違い
今回はしっかりと解説をしてくれた
なんの差なんだろうと
また可笑しくなってきてしまう
脇道に入ったせいで
坂は見た目ほど大変ではなくなって
お目当ての展望台へ着いた
でも、残念な事に工事中
海も張り巡らされた幕の隙間から
少ししか見えなかった
ユルさんのお仕事場も見えるって言ってたから
密かにかなり期待していたんだけどな
「仕方ないからお家で食べよっか」
暑さですっかりコーヒーを
飲み終わっているユルさんが言う
そうしようかねって
森林浴をしながら歩きだし
本当に立派な公園だなーと感心する
途中でユルさんが
“いつもの”スポットを教えてくれる
「ここは前に花見の写真を送ったとこやね」
「こないだ友達と話し込みよったんはここよ」
ユルさんの生活が息づく場所に
ワタシも居られるのが
なんだかとても不思議
聖地巡礼ってこういう気分なのかな
帰りはもちろん坂を下るので
軽快な足取り
「転がってったら拾えないから
転ばんでよー」
とユルさん
ワタシはボールじゃないよって
突っ込みながらも気を付けて進む
坂の途中、木々の切れ間に海が見えた
さっき工事中だった方面だ
『あっち行ったらお仕事場?』
「おぉそうよー、
帰りもあっちじゃし見ていくー?」
やった!!
さっき潰えた希望の復活に
足取りは更に軽くなる
坂を下ってすぐの道を右へと曲がる
再びユルさんのナビゲートで
地元の人しか通らないであろう道を進む
かなり進んだとこで
「あ!」
とユルさんが声を上げた
「こっちに来てしまったから、
桐ノ葉餅買えんじゃったね」
と言われて
あ!とワタシも思い当たる
お仕事場が見れることに完全に浮かれていた
「まぁ、名物じゃからいつもあるけん
また今度じゃね」
“また今度”
自然に放たれた
次の約束
“今回だけじゃないよ”
それがユルさんにとって
当たり前
取るに足らない
小さな小さな未来の約束
“桐ノ葉餅”
“また今度”が来るまで
食べれる機会があっても
きっとワタシは食べないんだろうな
なんてふっと思いながら
また振り返って
優しく手招きしている彼に
走り寄る
