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面接対策は食卓から始まった②——家庭でも学校でもない、第三の場所をつくるまで

「なぜ、そう思うの?」
10年前、私は息子にそう問いかけ続けた。
前編では、夕食後の食卓で重ねた面接練習の日々をたどった。あの時間は、今の仕事へと続く一本の線になっていた。

後編では、そこから私がどう「親子就活」という活動にたどり着いたのか。そして、家庭でも学校でもない第三の場所について綴っていきたい。

第5章 親だからこそ、難しいことがある

2021年、フリーランスとして活動を始めて間もない頃。キャリアコンサルタント仲間から、息子さんの就職活動を支援してほしいと依頼を受けた。

彼女自身も、自己理解支援の方法を知っているプロである。それでも、「親としての思いが入ってしまう。第三者として関わってほしい」と話していた。

我が子を心配するあまり、本人が答えを出す前に助言してしまうこともある。子どもの側も、親を安心させようとして、本音とは少し違う答えを返すことがある。

私は息子さんと対話を重ね、これまでの経験や現在の思い、これからどのように働きたいのかを一緒に整理していった。やがて志望先から内定をいただき、今も同じ職場で働いている。

その後、弟さんの就職活動も任せていただき、お母様からはとても感謝していただいた。

親だからできることがあり、少し離れた第三者だからこそできることもある。 私は親御さんの代わりではなく、本人が周囲の期待から少し離れ、自分の気持ちを整理できる場所をつくったのだと思う。

自己理解支援の方法を知っているプロでさえ、我が子への支援は難しい。
一般のご家庭が悩むのは、むしろ当然のことなのかもしれない。


第6章 高校・大学でこぼれ落ちる時間

高校の面接指導では、1コマの中で20名ほどの生徒を見ることもある。 入室の仕方、身だしなみ、姿勢、声の大きさ、回答の構成。 準備してきた生徒と、ほとんど準備できていない生徒は、比較的すぐにわかる。

けれど、一人ひとりがこれまで何を経験し、何を大切にしているのかまで深く聞くには、時間があまりにも足りない。

大学のキャリアセンターでも、就職活動が本格化してから初めて、自分の強みや価値観を考え始める学生は少なくない。

短期間で自己分析を行い、企業を探し、エントリーシートを書き、面接の準備をする。 どうしても「まず内定を取ること」がゴールになりやすい。

学校の先生方も、キャリアセンターの職員も、外部講師も、誰も手を抜いているわけではない。教科を教えること、求人情報を届けること、応募書類を整えること、本人の経験や価値観を引き出すこと。それぞれ役割も専門性も違う。

先生方は教科指導だけでなく、生活指導、進路指導、保護者対応まで担っている。学校が外部講師を必要とするのも、自然なことだ。
それでも、本人が立ち止まり、 「自分は何を大切にしたいのか」 「どのような働き方を望んでいるのか」 と考える時間は、構造の隙間からこぼれ落ちやすい。

仕方がないと言ってしまえば、それまでだ。 けれど、自分のことを十分に知らないまま就職先を選べば、入社後に違和感を抱え、ミスマッチにつながることもある。

この時期に自分と向き合わないのは、あまりにももったいないと思う。

高校での面接指導を終えて。同級生でもある教頭先生と記念に。

第7章 私が支援しているのは、答えではなく物語

私が学生と向き合うとき、エントリーシートの文章だけを整えることは、ほとんどない。

もちろん、限られた1コマの中では、そこまで時間をかけられない場合もある。 それでも、可能な限り、その人の過去、現在、未来をつなぐようにしている。

過去には、何に心が動き、どんな経験から何を学んだのか。
現在は、何に取り組み、どのような価値観を大切にしているのか。
未来は、その経験や価値観を、どの仕事で、誰のために生かしたいのか。

一つひとつをつないでいくと、その人という人間が、少しずつ立体的に浮かび上がってくる。

私が学生と一緒につくっているのは、面接用の模範解答ではない。
過去・現在・未来をつなぐ、その人自身の物語だ。

会社説明会や職場見学は、企業を知るために欠かせない。
けれど、自分がどのようなことに喜びを感じ、どんな環境なら力を発揮できるのかがわからなければ、企業の事業や職種と自分を結びつけることはできない。

まず、自分を知る。 そのうえで、相手を知り、接点を探す。

これは、就職活動だけでなく、その後のキャリアを考えるうえでも大切な土台になる。

では、こうした自己理解を、家庭の中でも少しずつ育てることはできないだろうか。 難しい理論を学ばなくても、対話の中でできることはある。

「最近、いちばん印象に残ったことは?」
「なぜ、それが気になったの?」
「その経験を、これからどう生かしたい?」

経験を振り返り、そこにある価値観を探り、未来へつなげる。
毎日でなくてもいい。食事中に一つだけでもいい。

正解を求めず、子どもが黙ったときにも、すぐに親が答えを埋めない。
それだけでも、自己理解の入り口になる。

ただし、親子だからこそ話しにくいことがあるのも事実だ。 家庭だけですべてを解決しようとしなくてもいい。


第8章 食卓から、第三の場所へ

大学生と保護者を対象に開催した、親子就活イベントの様子。


これまで私は、大学生とその保護者を対象に、親子就活イベントを開催してきた。

「今の就活が、自分たちの時代と違いすぎてわからない」
「本人に聞いても、あまり話してくれません」
「口を出すとけんかになってしまう」

そんなお悩みが、次々に寄せられた。 学生向けの自己分析ワークだけでなく、親御さんとの質疑応答も好評だった。

その反応を通じて、親子就活について安心して相談できる場所が、まだ十分にないことをあらためて感じた。

その後、高校生と保護者を対象にした機会もつくった。

進学塾様との共同企画で開催した、高校生・保護者向けイベントの様子。
当日の内容と参加者の感想は、過去記事でご紹介しています。
高校3年生から寄せられた感想。
掲載許可をいただいています。

就職活動が始まってから慌てて自分を知るのではなく、進学や将来を考える段階から、自分の経験や価値観に向き合う。 その大切さを、より強く感じるようになった。

キャリア教育は、就職活動の直前だけに行うものではないと思う。
中学生や高校生のうちから、

「自分は何に心が動くのか」
「どんなことに夢中になれるのか」
「これから、どのような人になりたいのか」

と考える機会があれば、その後の進路選択の土台になる。

需要があるなら、これからは中学生とその保護者にも届けていきたい。

家庭だけに任せるのでも、学校だけに背負わせるのでもない。
学校や地域、外部の専門家が、それぞれの役割を生かしながら補い合う仕組みが必要だと感じている。

私は、大切なご家族や学校の代わりにはなれない。
けれど、親にも先生にも言いにくいことを、利害関係のない第三者だからこそ話せることがある。

親御さんもまた、我が子への不安や戸惑いを、責められることなく話せる場所を必要としている。

私が育てていきたいのは、家庭でも学校でもない第三の場所。
親子それぞれの思いを整理し、必要なところでつなぎ直す、世代間の架け橋だ。

息子との食卓から始まった対話を、大学生へ、高校生へ、そしていつか中学生へ。 本当は、こうした活動をもっと続けたい。

これからの人生で、「ライフワーク」として育てていきたいと思っている。


おわりに|実は、この前後編も一つの物語だった

ここまで読んでくださった方は、もうお気づきかもしれない。
この前後編そのものが、私が学生たちと行っている「過去・現在・未来をつなぐ」キャリアストーリーの、一つの形だった。

息子と向き合った食卓という「過去」。
高校生や大学生の支援に携わっている「現在」。
そして、家庭と学校の間にある第三の場所で、世代間の架け橋になりたいという「未来」。

学生たちに問いかけてきたことを、今回は自分自身にも問い直してみた。

かつての私は、進路や働き方に迷っても、誰にも相談できなかった。
あの頃の私が欲しかったのは、正解を教える人ではなく、自分の言葉が出てくるまで待ってくれる、信頼できる大人だったのだと思う。

10年前、息子のために始めた面接対策は、今では私の仕事となり、これからも伝え続けたいテーマになった。

若者が、自分の人生を自分の言葉で選べるように。
親子が、互いの思いを見失わずに進めるように。

私はこれからも、少し離れた第三者として、
出来上がった地図ではなく、「地図の読み方」を伝えていきたい。


※この記事は、「note創作大賞2026」応募作品です。
連載「面接対策は食卓から始まった」第2回。
前編はこちら▽


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