斉藤ななこ 2026 05/01 物語
DRIFT断片ログ #03
「OFFSETの針」
メインが終わったあと、
ドアはまだ開いていた。
入れる夜と、入れない夜がある。
今日は、入れた。
ぽん。
手の甲に、いつもの印。
まだ少し湿ってる。
ブースの奥、
誰かがレコードを触ってる。
顔はよく見えない。
でも、わかる人はわかるらしい。
「今日、来てるっぽいよ」
誰かが小さく言う。
針が落ちる。
カチ、って音が、
音楽になる前に聞こえた。
少し遅れて、低音。
空気が動く。
耳じゃなくて、
皮膚で聞く感じ。
横で、くまが目を閉じてる。
でかい体が、少しだけ揺れる。
誰も騒がない。
名前も呼ばない。
ここでは、ただのDJらしい。
外では違うらしいけど、
それはここには関係ない。
うさぎは、手の甲の匂いを少し嗅ぐ。
インク。汗。あと、少しだけ熱。
同じ夜のはずなのに、
さっきまでと、音が違う。
断片
音は、データじゃないらしい。
でも、説明はされない。
log:03
状態:after
音:直接
DRIFT断片ログ #04
「電話と掲示板」
レディっとに、スレが立ってた。
【DRIFT】OFFSET 来る?
レスは伸びてるけど、
答えはどこにもない。
「たぶん来る」
「前もそう書いてあった」
「電話したやついる?」
うさぎは書こうとして、やめた。
書き込み欄、出てこない。
ログが足りないらしい。
カルマも。
よくわかんない。
端末を閉じる。
少し考えてから、
公衆電話に入る。
ダイヤル、回す。
「DRIFTです」
「今日、来ますか?」
少し間。
「……どうだろうね」
それだけ。
外に出る。
街はうるさい。
広告も、音も、多すぎる。
でも、あのドアの前だけ、
少し静かになる。
行くしかないらしい。
来るかどうかは、
行ってみないとわからない。
断片
知ってる人ほど、
何も知らないふりをする。
log:04
信頼度:低
確認方法:直接
DRIFT断片ログ #05
「針の温度」
公衆電話を出た瞬間、
夜の湿度が少し重かった。
街はうるさい。
ネオンが揺れてる。
でも、あの路地だけ、
音が少ない。
手の甲を見る。
スタンプは、まだ湿ってる。
少しだけ、匂いが変わってきてる。
黒いドア。
今日は、入れる日らしい。
横に、ぬいぐるみがある。
首、ちょっと取れかけてる。
誰のかは、わからない。
中に入る。
空気が違う。
低音が、下から来る。
足の裏から、上がってくる。
さっきと違う。
深い。
ブースの奥、
顔は見えない。
でも、いる。
針を落とすときだけ、
少し光る。
気のせいかもしれない。
いつもの席に座る。
三番目。
隣に、あの人。
狐のやつ。
煙草と、メンソール。
「針、熱いね」
小さい声。
返さない。
スタンプを触る。
まだ、あったかい。
音が変わるたび、
少し遅れる。
なんか、遅い。
後ろで誰かが言う。
「……今年、早いらしい」
何がかは、言わない。
壁に、少し砂がある。
前もあった気がする。
増えた気もする。
わからない。
ここでは、誰も気にしない。
目を閉じる。
低音が、入ってくる。
さっきの声、思い出す。
「……どうだろうね」
何回か、繰り返す。
来るかどうかは、わからない。
でも。
来てるかどうかも、
たぶん同じ。
ここにいるのが、
本当にそうなのか、
わからないまま。
断片
名前は、あんまり意味がないらしい。
log:05
状態:during
音:遅れ気味
温度:少し上
