|短編小説|ワクワクドライブ教習所 Back ( Reverse2)(第9話・スピンオフ第2話)(全11話)
薄暗い路地の前で辺りを気にしながら車庫の鍵をガチャガチャする私。
どこからどう見ても怪しさ満点だわ。
私が急ぐ理由はひとつ。
教習所に新しくやって来た子は、近日中に外装も内装も教習車仕様にリメイクされる。
そうなると持っていた「想い」も多少、環境変化の影響を受けてしまう。
(そう造られるのだから仕方ないのだけれど)
だからその前に、来た時のままの「ありのままのその子」を知りたい。
私が余計なことに首を突っ込みがちなのは分かっている。
でもあの子を今日初めて見たとき、その綺麗さだけではない「何か」に強く惹かれてしまった。
あの子は遠目に見ただけでも強く伝わってくる「何か」を持っている。
それが何なのか、この目で、この与えられた感覚で感じたい。
ガチャン
鍵が開いた。
誰にも見られていない事を確認して車庫内に入る。
電気をつけるわけにいかないから、スマホの灯りだけを頼りに進む。
車庫内の荷物にあちこちぶつかりながら、青い子が居る場所を探す。
奥へ進むと、シャッターの上の窓から外の灯りが差し込んでいる。
そこにあの子は居た。
うっすらと照らされた青い____
深い海のような
星空のような
宇宙のような
どこまでも落ちていけそうなほど青く輝くボディーのクルマが。
あの、青い子がそこに居た。
「 初めまして。やっと逢えたね。」
私は青い子を抱き抱えるように触れながら挨拶をした。
その瞬間、この子の思い出と想いが私に流れ込んできた。
最初の持ち主との思い出
辛い想い
大切にしてくれた人との出会い
幸せな想い
大切にしてくれた人との思い出
大切にしてくれた人の・・・・
あれ?
見えない・・・
そこから先は頑なに隠そうとしてる?
そしてこの子が抱えてる強い想いはきっとその隠そうとしている部分。
「どうして? 言いたくない?」
私は青い子を抱き、もたれるように身体を預けながら手で撫でた。
掌で撫でていると、左後ろのフェンダーに修理跡があることに気づいた。
「フフ。キミ、私と同じところに傷があるんだね。一緒だね。」
そこから特に強い想いが滲み出ているのが伝わってくる。
「言いたくなければムリに言わなくていいよ。」
もう長い間このチカラでたくさんのクルマの想いを聞いて来たけれど、吐き出すように自分の想いを吐露されることはあっても、隠そうとされることは一度も無かった。
(一体この子に、なにがあったんだろう・・・)
そのとき、誰かが車庫に入ってくる音がした。
『おーい。誰か居るのか?』
入り口の方から声がする。
(ヤバ・・・ どうしよ・・・)
『おっかしいなぁ、鍵閉めたと思ったんだが。誰か作業中か〜?』
(整備士の人だ・・・)
電気をつけられたりコッチに来られたりするとまずい。
そのとき私の脳裏にイメージが飛び込んできた。
(助手席のドア・・・ ロック開いてるの? ルームライトが切れてる。)
『念のために見とくか。 電気、電気・・・と。』
バチンッ
車庫内の全ての電気がついた。
私は寸前、咄嗟にドアを開け助手席の足下に入り込むことに成功していた。
(こ、こわ〜・・・)
音を立てないようにそ〜っとドアを閉める。
(助けてくれたのね。教えてくれた通りルームライトが切れてて、ドアを開けても大丈夫だったわ。ありがとう。)
そうこの子にお礼を伝えつつ、助手席の足下になるべく深く潜り込んで息を潜めた。
『おぉ。お前さん太陽光の下でも綺麗な塗装だったが、こうして蛍光灯の下でもやっぱり綺麗な色してるなぁ。勿体ねぇな〜塗り替えちまうの。』
整備士さんがテール辺りで話しているのが聞こえる。
(うう〜・・・誰もいませんから早く帰って・・・)
『ま、綺麗にリメイクしてやっからな。これからも頼むぜ。』
整備士さんはそう言うと、テールをポン、ポン、と叩いて帰って行った。
(フゥ〜、 あっぶな〜っ)
私はホッとして座席下に目をやると、車庫の電気が反射して何かが光ったのが見えた。
(あれ? 何かしら)
その瞬間、バチンッと電気が消された。
明暗のギャップで視界が一瞬闇に包まれる。
(わっ 見えない・・・ え〜と、たしかこの辺に・・・)
手探りで触ると、硬い金属のようなものを拾った。
視界が良くなるにつれ、それがキーホルダーだと分かった。
「かわいいキーホルダーね。キミのかな?」
そのとき、青い子の感情が大きく揺れたのが伝わってきた。
(ん? もしかしてこれが関係してる?)
私は助手席の足下から出ようと身を捩らせたが、ダッシュボードに頭をぶつけてしまった。
その拍子にダッシュボードが開き2度頭を叩かれた。
「い・・・イッタぁあ・・・ なんだ、ダッシュボードの中身、そのまんまじゃない。 ちょっと見せてね。」
スマホの光で照らすと、中には車検証や書類、端っこにCDのケースがあった。
私はCDのケースを手に取って表裏を眺める。
「日付と曲目が書いてあるわ・・・ って、10年も前の日付! あ、この曲懐かし〜。」
そのとき、再び青い子の感情が大きく揺れた。
(キーホルダーとCDに反応してるんだ・・・)
私はそれらを手にしたまま、助手席に座ってみた。
____その瞬間、私は別の時間に飛ばされた。
運転席には男の人
(あ、この人、この子を大事にしてくれた人だ)
ここに座ってたのは女の人
(誰かな。彼女さんかな。)
二人とも悲しそう
(男の人、かなりショックを受けてる)
女の人がキーホルダーを置いて降りてく
(もう戻らないつもりだ・・・)
それからも男の人は毎日悲しんで
キーホルダーもCDもそのまま
(それでここにあるのね・・・)
男の人は運転するのが怖くなっちゃったんだ
そして男の人はこの子に乗らなくなった
辛かった
悲しかった
あんなに大切にしてくれたのに
でもそれ以上に
この子はあの男の人を心配してる
悲しみを乗り越えて
いつかまた運転を好きに
クルマを好きになってほしい
例えそれが自分じゃなくてもいい
男の人に笑顔を取り戻してほしい____
そこまで「見た」ところで、私は現実の助手席に戻った。
気がつくと私は泣いていた。
なんて悲しいの・・・
みんなが悲しみに包まれて。
それなのにキミは・・・
最後の持ち主である男の人の幸せを願ってる。
どうしても伝えたかったのね。
『大丈夫。あなたは悲しみを乗り越えてまた運転する喜びを取り戻せる。あなたは素敵な人。自信をもって。』
私は誰もいない運転席に向かってそう語りかけた。この子の想いを借りて。
そして、この子の想いだけはなんとかしてその男の人に伝えたいと思った。
私は見つけたキーホルダーとCDを持って助手席から降りてドアを閉めた。
「このままだと処分されちゃうから、私に預けておいてね。」
そう言うと私は、月明かりで照らされた青い子をもう一度抱きしめながら決意した。
「私がその男の人に返して伝えてあげる。」
続く
