|短編小説|ワクワクドライブ教習所 Back ( Rebirth )(第11話・全完結話)(全11話)
まずい・・・
非常にまずい。
神様お願いですから今、今このときだけでいいので、この先の信号オール青でお願いします。
僕はいま焦っている。
デートの約束をした彼女との待ち合わせに遅れているからだ。
彼女に内緒で買ったクルマに乗って、待ち合わせ場所で待機。
彼女が来たらサプラ〜イズ!!
なにこれ〜!キャ〜♫素敵!!
・・・となる予定だったのだが。
このままではプランBに変更しなくてはならない。
赤信号で止まりながらそんなことを考えていた。
ようやくあと少しのところまで来た。
次の信号を左に曲がれば待ち合わせ場所の駅ロータリー。
目と鼻の先。
そして信号はやはり赤。
あわよくば彼女も待ち合わせ時間に遅れていたら・・・
なんて淡い期待を抱きながらここから見えているロータリーの方へ目をやる。
既に到着している彼女の背中が見えた。
はい、プランBで。
駅のロータリーに入ると、待っている彼女が近づいてきた。
バレないように、と言ってもバレるはずなどないのだが、僕は彼女の後ろ姿を通過して少し先にクルマを停めた。
静かにドアを閉めて急いでダッシュ。
駅のホームの方ばかりキョロキョロ探している彼女がいる。
人を待つ姿もなんて可愛いのだろう。
僕はこのままずっと眺めていたい気持ちをグッと堪えて、声をかける。
「舞さん!」
そう。
あの日____
僕がワクワクドライブ教習所で指導員の土来舞さんと出逢い、自分を取り戻せた日。
あの日以来、僕たちは付き合い始めたのだった。
そして舞さんはあの日の出来事の責任を取らされるかたちで解雇されるはずだったが、僕たちの後に教習所に戻ってきた舞さんの同僚、え〜とたしか名前は・・・大羽さん? が、舞さんを庇って上層部に掛け合ってくれたとか何とか(詳細はよく知らないのだが)で、奇跡的に謹慎処分で済んだのだ。
舞さんはクルマの気持ちが分かる事にちょっと疲れた、とも言っていたが、僕は舞さんのおかげでクルマを運転する喜びや人生の楽しさ、幸せな気持ちを取り戻すことができたので、舞さんが今の仕事で少しでも幸せな気持ちになれるのなら、それはそれで僕にとってもやはり嬉しいのである。
僕は舞さんの笑顔が大好きだ___
えっ?といった感じでこちらを振り向く舞さん。
『もう。何かあったのかなって心配したよ〜。メッセージくれたらいいのに。』
待たされたことに怒るどころか、真っ直ぐ僕の目を見ながら僕の心配をしてくれる舞さん。
(好きだ。)
「遅れてしまってすみません。ちょっとスマホをいじれない状況で。」
険悪な雰囲気にならなかった安堵感や、彼女に会えた嬉しさ、サプライズへのカウントダウンなどが諸々混ざった怪しいニヤけ顔で僕は謝った。
『うん。あれ?そういえばそっちから来たの?』
「あ、はい。そうなんです。ちょっとコッチへ来てくれませんか?」
『でも、電車乗るなら反対方向・・・』
「今日は電車に乗りません。」
僕は半ば強引に舞さんの手を握って歩き出す。
素直について来てくれる舞さん。
(好きだ。好きだ。)
『今日はどこ行こうか?』
僕は無言のまま、ピカピカの青いクルマの前で止まる。
笑顔のまま頭の上にハテナが浮かんでいる舞さん。ようやくクルマの存在に気付く。
『??? わぁ・・・キレイな青い子。こんなところに停めて、大丈夫かな。ドライバーさん居ないのかな。』
「ここに居ますよ。」
僕はリモコンでロックを解除して、助手席のドアを開けた。
「どうぞ。」
舞さんはまん丸の瞳でこちらを見て固まっている。
・・・あれ?
お気に召さなかった・・・かな・・・
『えっ えっ えええ!すごい! 素敵!! ちよっ、どうしたの!? え〜っ!!』
倍のリアクションで返ってきた。
こういう人だ。
「えっへん。ついに買ったんです。」
『素敵な青い子!教習所に来てくれたときに言ってた夢、叶ったね!やったね!!』
数ヶ月前に言った事を覚えていてくれただけでなく、まるで自分の事のように喜んでくれる舞さん。
(好きだ!好きだ!!)
(大好きだーーー!!)
彼女を助手席に乗せてドアを閉め、舞さんの後ろ姿を気にしながら僕も運転席に乗ろうとしたとき、教習所で初めて舞さんに出逢ったときのことを思い出した。
あのときもこうしてドキドキしながら運転席に回って・・・
まさかもう一度こうして、彼女を助手席に乗せてドライブする日が来るなんて。
僕は幸せを噛み締めながらハンドルを握った。
『じゃーん!はい。私からもプレゼント♫』
思い出に浸っていた僕はサプライズの「お返し」に驚いた。
「え? な、なんですか?」
『開〜けて〜みてっ』
そっと包を開けると、中にはクルマのキーとCDが入っていた。
僕には、いや僕たちには見覚えのあるものだった。
「これってもしかして・・・」
『うん。あの子のキー。お役目を果たしてくれた後、とっておいたの。それと「私たちの」思い出のCD。』
あの日、舞さんと僕を最後まで乗せて教習所まで帰ってくれた教習車___
僕が初めて買った青いクルマ。
そのキーと、教習中に聴いた、僕が作ったCD。
「舞さん・・・すごく嬉しいです。ありがとう。」
僕はそう言って、新しい車のキーホルダーにその鍵を付けた。
(おかえり。また会えたね。)
僕は心の中でそう呟いた。
「あ。でもCDはその・・・このクルマにCDのプレイヤーがなくて・・・」
『えへへ。私、そのCDの曲をスマホのプレイリストにしてあるから、聴こ?』
完璧か。
完璧すぎんか。僕の彼女。
舞さんはスマホをクルマのプレイヤーに接続して曲を再生してくれた。
ディスプレイに表示されたプレイリスト名は「海と青の思い出」だった。
知ってる曲が再生される。
あの日の光景が今でも鮮明に思い出される。
「舞さん、これから海、行きませんか?」
舞さんの笑顔の瞳に、更にキラキラが宿る。
『それじゃ、私が案内してあげる♫』
「また道に迷っちゃいますよ〜」
僕は笑った。
『そんなこと、ありませんよ〜 だっ』
いい大人がこちらにイ〜ってしてる。
イ〜って。
「ま、そのときはプランBですね。」
『なあに?プランBって。』
キョトンとしてる彼女。
「プランBだって、悪くないですよ。」
僕たちは走り出した___
ワクワクドライブ教習所 全話完
