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魔笛:断片2026.2.12

いつからか始まって、いつ終わるともわからない乱痴気騒ぎは、いつもヘラブナ釣りの小さな池を見おろす棗の生家がその舞台だった。

薄暗い青の孤独に染まったようなあの海べりの安アパートは、磯臭さがこびり付いて朽ちかけた小舟で、黒い波々のあわいを揺らめき漂っていた。その小舟に乗って慢性的な舟酔いを起こしながら、海の上を流れていく幻の木々の呻きや、その樹皮に滴る静脈血の赤を見つけて、それを画布に余さず記録することが、やむにやまれぬ彼女の仕事だっただろう。

それに疲れて確かな陸を踏みしめようと、池の上の生家にしばらく戻ったはずが、葉嗣や、父親との絡みで関わるようになったフィクサーφを相手に、シェリー酒を浴びて前後不覚に陥るなど、やはり棗は気が触れているのだ。

ある晩などは死にかけた。
坂に囲まれた四ツ辻の擂り鉢の底に向けて、池を右手に見ながらノーブレーキで下り坂を降り抜け、その向こうは上り坂になるから、自転車は自然に止まるわよ、と笑いながら棗は葉嗣を誘惑した。自分は荷台に乗るから二人で奈落へ向けて出発ということらしい。葉嗣はそんな馬鹿なことをと思いながら、それでも自身のうちにもその衝動を自覚して敢行した。

月がばかにでかく見えた。風のなかに、それまでは毛嫌いしていたフルートの音が、身体を痺れさせるほど甘美に聴こえたその直後、左から来た白いクーペを避けようとハンドルを切って、自転車は転倒したのだった。

池の上の庭に咲くたくさんの薔薇と風と紛うフルート。この光景を眺めるためにおれは生きていたんだとそのとき葉嗣は思った。





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