【全年齢BLショート】忘れなの花
全年齢BLショートショート集「忘れなの花」に掲載した短編です。※こちらの記事は改訂前バージョンです。実際の本では少し内容が違う箇所があります。
前半のみ無料掲載します。(後半は有料です)
「僕はね、最近死神が見えるんだよ」
ベッドに臥している少年はそう呟いた。
なんでも、もうすぐ迎えが来るんだと。どうしてそんなことを言うのか、いや、彼の命の刻限がもう間も無くだからだろう。
そんなこと言うなよ、そう言おうと思ったが言えない。言えないくらい、彼の体は骨ばっていて肉も薄く、到底健康な人間のものではない。
彼と俺は幼馴染だった。初めて出会ったのは小学校に上がる前のこと。俺が足を骨折して入院になった時、隣のベッドに彼がいた。点滴の管が腕から伸びているのを見た時、痛そうだなあと思っていた。そうすると隣の彼は、
「きみ、足骨折したの? 痛かった?」
そう俺に問いかけてきた。いやいや、明らかに点滴の方が痛いじゃん! と答えたら、慣れたから、なんの感情もない瞳で返された。
それから気になって、というか俺は入院中暇だったから隣の彼――尊(みこと)とずっとおしゃべりしていた。最初は事務的に返答していた尊だったが、徐々に笑みを浮かべるようになり、俺が退院する頃には仲良くなった。
「龍牙(りゅうが)は桜宮小学校に行くんだったよね、僕ももう少し元気になったら行くから……、だから、忘れないでね」
忘れるもんか、絶対同じクラスになろうな! と指切りで約束した1年後。尊は同じ小学校に遅れて入学してきた。病院内の学校で勉強したからそのまま2年生に、そして、同じクラスとなったんだ。何よりあの頃より元気そうで俺はとても嬉しかった。
この頃は、ただの友達だった。まだまだ体が弱かったから体育なんかはいつも見学だったけど、体を使わないあやとりとか、お絵描きとか、で遊んだ。6年生になる頃には俺の漫画を貸して一緒に読み合いっこしたっけ。
お互い小学校を卒業し、受験なんかすることもなく近くの中学校へ。俺は前々から興味のあった剣道部に入り、尊はお菓子作りをする部活へと入った。休み時間は相変わらずつるんでた俺たちだったが、ここの剣道部は大会に優勝するほどで練習がハードだった。放課後はクタクタで、休みの日も練習。一緒に遊ぶ時間も減ってしまった。
「龍牙、明日って遊べるかな?」
「あー、うん、最近は練習きつくないから、ダイジョブだぜ」
もうすぐ2年生への準備をする3学期。特に大会もない時期なので部活は割と穏やかな方だった。そういえば明日は土曜日か。寒いから尊を外へ連れ出すことは避けたい。俺の家で遊びたい、とのことだったので当日自宅で待ってることにした。
ゲームでも一緒に遊ぶか……カードを整理していた時インターホンが鳴る。玄関のドアを開けるとそこには尊が……なぜか手を後ろにして立っていた。
「おう、尊、寒いだろ早く中入れよ。ん、なんか持ってる?」
「あっえっと、はい、これ!」
渡されたのはケーキ屋さんでみるあの箱だった。
「おっ、ケーキ買ってきてくれたんだ、サンキュ! 早速食べようぜ!」
甘いものが好きな俺はケーキの箱片手に尊を家の中へ上がらせる。なぜか顔が赤い。
「どうした、熱ある?」
「寒かったから、かな。それより、早く食べよう?」
お茶とお皿一式を用意して、取り出したのはチョコレートケーキが二切れだった。待ちきれず、いただきまーす、と口に入れるとチョコ特有のほのかな苦味と甘さが口いっぱいに広がる。うん、うまい!
尊はというと、その俺の顔をじーっと見ていた。
「え、なに? クリームとかついてる?」
「ついてないよ、えっと、美味しいのかなって思って」
「うんうまいぜ! 早く尊も食べなよ!」
「えーっとね……」
なぜか歯切れの悪い尊。心なしかさっきよりも顔が赤い。訝しんだ俺だったが、なんか変なことしちゃったかなあと心配になった。が、杞憂のようだった。
「今日って、何の日か知ってる?」
「え、えーっと、2月の14日……あっ」
うん、と顔の赤い尊。そして白状した。
「このケーキ、僕が作ったんだ。龍牙にあげようって。美味しいって言ってくれて嬉しい。えへへ、ありがとうね」
いや、いやいやいや!?
「お礼言うのはこっち! なんだ今日バレンタインじゃねーか! しかもこれ尊が作ったのか!? スッゲー美味しいから店で買ってきたのかと思った!」
真の意味には気づかない。それを察したのか尊はそれ以上何も言わなかった。このあとはケーキを完食しゲームをして別れただけであった。
そして、また冬が来て春が過ぎ、俺たちは中学3年生。部活も引退し、高校受験が迫っていた。尊はそこそこ頭が良かったが、俺は剣道一筋で勉強はからきし。お互い進路は別々になりそうだと実感していた。それでも、休日会える時は会おうなって約束したんだ。俺は剣道が強い高校を特待で受験。尊は家から近い進学校。
学校が違っても、これからもずっと一緒だと思ってた。
尊が倒れるまでは。
高校に入ったら剣道で忙しくてなかなか会えなかった。中学の時以上にスパルタで、部活から帰ったら飯ってシャワー浴びてすぐ寝る生活。尊の事なんか、頭から抜けてた。高校の入学祝いで買ってもらったスマホも見る余裕すらない。空虚だった。そんな虚な心を埋めるかの如くますます剣道に打ち込んだ。
夏。部活から帰ってきたら、親が険しい顔で俺に話した。
「尊くん、入院したみたいなの。龍牙、お見舞いに行こう」
今の今まで尊のことを忘れていた、そのことと入院したという衝撃に頭を鈍器で殴られたようだ。俺は頭が真っ白のまま、尊が入院しているという大学病院へと向かった。
部屋は個室だった。一つだけあるベッドに、尊が横たわっていた。
尊、と声をかけると開口一番
「なんで、どうして来たの、龍牙」
拒絶するような言葉、しかしそれは震えていて今にも泣きそうだった。前に出会った時よりも弱々しい姿に、俺も泣きそうだった。
帰って、二度とこないで。そう顔を背けられ、俺はなす術がなかった。その時はもう、家に帰るしかなかった。あとでおばさんから謝られた。
それから、学校が終わったら部活をサボって毎日病院へと通った。でも尊は帰っての一点張りだった。俺が剣道にばかりかまけてたからか? だから俺のことが嫌いになった?
そう考えてばかりで、憂鬱を通り越して死にそうな思いに駆られた。部活の練習にも身が入らず、俺は剣道部をやめた。未練はなかった。
今日も、次の日も、その次の日も……俺は尊がいる病室へ通った。何も話さない尊。だがその体は確実に病魔に蝕まれているようだ、中学を卒業した時よりも元気がなく弱々しい。やつれていて、白い肌が青く見えた。
「尊、話してくれよ、お前に何があったのか。俺のこと……どう思ってるのか」
きっと返事は来ない、そう思っていたが尊はか細い声で答えてくれた。
「君はきっと、僕のことを友達だって思ってくれてるんでしょ? でもね、僕は違うんだ」
「え?」
「龍牙……君なんて、嫌いだよ」
嫌い。そう思われていることなんてわかってた。だけど実際に口に出して言われるとかなり衝撃が大きい、ショックだった。だけど……この胸の痛みは、友達と絶交した、って痛みとは違うような気がした。息が詰まって、脳みそが冷えていく感覚。何だ、何でだ。胸の中から絞り出した、そうか、って言葉は息が出ているばかりの静かな音だった。
病院から帰って、そこから1週間行かなかった。ずっと考えていた、尊のことを。彼は俺にとって大切な幼馴染で親友だ。
……本当に?
なぜか心の底でそんな声がする。本当に幼馴染の友達なのか? 尊以外の友達と喧嘩別れしたことはなかったが自然消滅したことはある。それに対しては何とも思わなかった、名前を聞いた時に、そういえばそんな奴もいたな、くらいにしか思わなかった。中学の時、クラスの女子から告白されたことがある。普通の男子なら喜んで承諾するはずだと思っていたが、どうしてだか尊の顔が浮かんで断った。その女の子からはなぜか、こうなることはわかってたけど、みたいな反応をされたっけ。
初めて会ったその時から、俺の人生にはいつも尊がいたんだ。
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