中学受験理科は12歳で終わらない|木ノ下翔の4つの物語④

中学受験が終わると、

「受験で覚えた理科の知識は、その後も役に立つのでしょうか」

と聞かれることがあります。

植物の分類、水溶液の性質、月の満ち欠け、てこや滑車の計算。

入試が終われば、細かな知識の一部は忘れるかもしれません。

私は、それ自体を大きな問題だとは思っていません。

人は使わない知識を忘れます。必要になれば、もう一度調べればよいものもあります。

しかし、中学受験理科で身につけた考え方まで、受験終了と同時に不要になるわけではありません。

中学受験理科は、現実を単純にしたモデルです

中学受験理科では、複雑な自然現象を小学生でも考えられる形まで単純にします。

てこの問題では、棒の重さや支点の摩擦を考えないことがあります。

電気回路では、導線や電流計の抵抗を細かく扱わないことがあります。

熱の問題では、外へ逃げる熱を考えずに計算することがあります。

現実には、棒にも重さがあり、摩擦もあり、導線にも抵抗があり、熱も完全には閉じ込められません。

ただ、最初からすべてを考えると、何が本質なのかが分からなくなります。

そこで、一部の条件をいったん取り除き、現象の中心にある関係を見る。

私は中学受験理科を、現実を理解するために極限まで分かりやすくした最初のモデルだと考えています。

単純化は、現実を無視することではありません

複雑な現象を理解するとき、人はまず重要な要素だけを取り出します。

そのモデルで基本的な関係を理解する。

次に、取り除いていた条件を一つずつ戻す。

どの条件を加えると、結果がどう変わるのかを考える。

すべてを一度に扱うのではなく、「まず何を残し、何をいったん無視するのか」を決める。

中学受験理科では、その最初の練習をしています。

中学・高校では、条件を加えていきます

中学や高校へ進むと、小学生のときに単純化していた現象へ、さらに多くの要素を加えます。

物質の変化は、粒子や原子・分子で説明する。

電気では、電流だけでなく電圧や抵抗の関係を詳しく扱う。

力の問題では、複数の力の向きや大きさをより正確に考える。

生物では、細胞、遺伝、生態系へ進む。

小学校で学んだことを捨てて、まったく別の理科を始めるわけではありません。

小学生のときに作った単純なモデルへ、新しい要素や説明を加えていくのです。

中学・高校理科は、中学受験理科を否定するものではなく、その続きをより精密に学ぶものです。

公式を忘れたら終わり、ではありません

受験勉強では、公式や解法を覚えることが必要です。

ただし、公式だけを覚える学習には弱点があります。

忘れると何もできない。
問題の形を変えられると、使う公式が分からない。
中学や高校で記号が増えると、別の内容に見える。

だから私は、公式を教えるときも「どの量とどの量が関係しているのか」を考えます。

一方を2倍にすると、もう一方はどうなるのか。
何を同じ条件として比べているのか。
どの条件を変え、どれを変えていないのか。

関係そのものを理解していれば、公式の表現が変わっても考え直せます。

細かな解法を忘れても、土台は残ります。

初見問題で使う力は、その後にも残ります

見たことのない実験や題材では、知識を思い出すだけでは解けません。

何が書かれているかを見る。
図や表が何を表すか認識する。
知っていることとつなげる。
条件を整理する。
結果を予測する。
予測と実験結果を比べる。

この流れは、中学受験が終わった後にも使います。

中学・高校の実験でも、大学で研究するときにも、大人になって新しい情報の正しさを判断するときにも使います。

すぐ答えを探すのではなく、「この情報から何が言えるのか」「まだ分からないことは何か」を分けて考える。

この姿勢は、12歳で賞味期限が切れるものではありません。

間違った予測にも意味があります

理科では、まだ答えが分からない状態で仮説を立てます。

この条件を変えたら、どうなるか。
この考え方が正しいなら、どんな結果になるか。

そして、実験結果と比べます。

予測と違っていれば、仮説や条件を見直します。

間違った予測にも意味があります。

なぜ違ったのかを考えることで、見落としていた条件が分かるからです。

受験勉強では正解か不正解かに意識が向きますが、本来の理科では、予測と結果のずれから次に何を考えるかが重要です。

事実と推測を分ける

実験結果から確実に言えることと、結果から考えられそうなことは同じではありません。

一つの実験だけで断定できるのか。
別の条件でも同じ結果になるのか。
比較する対象は適切か。
変えた条件は本当に一つだけか。

これは実験問題だけの話ではありません。

数字やグラフを見たとき。
ニュースで科学的な主張を見たとき。
健康や環境に関する情報を見たとき。

何が事実で、どこからが解釈なのかを区別する必要があります。

中学受験理科の実験考察は、その基礎的な練習にもなっています。

受験のために学び、その先にも残す

中学受験には合格という目標があります。

覚えるべきことは覚える。
典型問題は速く解けるようにする。
過去問を分析する。
取る問題と、深追いしない問題を判断する。

そこは曖昧にしません。

しかし、受験で点を取ることと、その後にも残る学びをつくることは両立できます。

現象の理由を考える。
条件を整理する。
仮説を立てる。
結果を見て考え直す。
知らない問題を、知っている形まで単純にする。

これらは入試でも得点につながり、その後の理科学習にもつながります。

中学受験理科は、12歳で終わる科目ではありません。

より複雑な世界を理解するための、最初のモデルです。

ホームページ版はこちらです。

https://学問のすすめ.jp/kinoshita/science-after-entrance-exam/

木ノ下翔を知る4つの文章
https://学問のすすめ.jp/kinoshita/

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