【短編小説】 ボクサーパンツとブラジャー
外出から帰ると、
ベランダにボクサーパンツが落ちていた。
はて、これはわたしのだったかしら?
元彼の忘れもの?いやいや。
あまりに自然に、ふわっと落ちていたので、
一瞬錯覚しちゃったわ。
黒の光沢が艶めいている。
ベランダの左端。
隣のお部屋との境目に、ふわり。
たしか、右側のお部屋は女性の独り暮らしだったはず。
左側のお部屋は、
わたしと同い年くらいの男性。
えーーーっと、たぶん、左側のお隣さんよね?
風で飛んできたのかなぁ。
ベランダの間の仕切り、すっごく高さあるし、
洗濯物なんて、舞い込まないはずなんだけど。
うーーーん、どうしよう。
ベランダをぐるぐるしながら、考えて、
考えたけど、
「えぃっ!」
仕切りの脇から、手首のスナップを効かせて、
放り返しておいた。
◆
翌日。またボクサーパンツが落ちていた。
今度はネイビーのやつ。
使い込んでない、新しそうな生地。
「えっと……これは、ワザとかしら?」
二度もそうそう舞い込まないぞ。
あのボクサーパンツから、意志を感じる。
わたしは拾い上げる。
つるつるした生地が気持ちいい。
「えっ、洗ってあるやつよね?」
くんくん、と匂いを嗅いでみる。
柔軟剤の香り。
良かった、洗ってあるみたい。
◆
お隣さんと言えば、
たまにエレベーターで一緒になる。
先に乗って、「開」ボタンを押していたら
「ありがとう」
って、爽やかにお礼してくれたわ。
◆
「えぃっ!」
ボクサーパンツは返却して、
「えぃっ!」
わたしのブラジャーを投げ込んでおいた。
うふふ。どんな風に返ってくるかしら。
◆
ゆくえが気になっている。
ボクサーパンツ。
あの生地なら、夏場でも蒸れなさそうね。
ブラシャー。
手に取ってみたりしたかしら?
大きさを確かめたり?
ベッドでごろごろ。
左隣の物音を感じて、なんだか頬が熱くなる。
この壁を隔てた向こうに、
ボクサーパンツがある。
初夏の夜は寝苦しくて、
ブラジャーを外して、ベッドに放った。
◆
「こんにちは」
エレベーターでふたりきり。
柔軟剤の香りがする。
黒かな、紺かしら。
狭くて息が苦しい。
背中に感じる視線。
ピーン。
8階に到着する。
わたしは「開」を押す。
ふっと視線が合った。
「ありがとう。また、返しておきますね」
どくん!
ブラジャーの中が、急に踊った。
了

何故だろう
