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【短編小説】 ボクサーパンツとブラジャー

外出から帰ると、
ベランダにボクサーパンツが落ちていた。

はて、これはわたしのだったかしら?
元彼の忘れもの?いやいや。

あまりに自然に、ふわっと落ちていたので、
一瞬錯覚しちゃったわ。

黒の光沢が艶めいている。
ベランダの左端。
隣のお部屋との境目に、ふわり。

たしか、右側のお部屋は女性の独り暮らしだったはず。
左側のお部屋は、
わたしと同い年くらいの男性。

えーーーっと、たぶん、左側のお隣さんよね?
風で飛んできたのかなぁ。
ベランダの間の仕切り、すっごく高さあるし、
洗濯物なんて、舞い込まないはずなんだけど。

うーーーん、どうしよう。

ベランダをぐるぐるしながら、考えて、
考えたけど、

「えぃっ!」

仕切りの脇から、手首のスナップを効かせて、
放り返しておいた。

翌日。またボクサーパンツが落ちていた。
今度はネイビーのやつ。
使い込んでない、新しそうな生地。

「えっと……これは、ワザとかしら?」

二度もそうそう舞い込まないぞ。
あのボクサーパンツから、意志を感じる。

わたしは拾い上げる。
つるつるした生地が気持ちいい。

「えっ、洗ってあるやつよね?」

くんくん、と匂いを嗅いでみる。
柔軟剤の香り。
良かった、洗ってあるみたい。

お隣さんと言えば、
たまにエレベーターで一緒になる。

先に乗って、「開」ボタンを押していたら
「ありがとう」
って、爽やかにお礼してくれたわ。

「えぃっ!」
ボクサーパンツは返却して、

「えぃっ!」
わたしのブラジャーを投げ込んでおいた。

うふふ。どんな風に返ってくるかしら。

ゆくえが気になっている。

ボクサーパンツ。
あの生地なら、夏場でも蒸れなさそうね。

ブラシャー。
手に取ってみたりしたかしら?
大きさを確かめたり?

ベッドでごろごろ。
左隣の物音を感じて、なんだか頬が熱くなる。

この壁を隔てた向こうに、
ボクサーパンツがある。

初夏の夜は寝苦しくて、
ブラジャーを外して、ベッドに放った。

「こんにちは」

エレベーターでふたりきり。
柔軟剤の香りがする。
黒かな、紺かしら。

狭くて息が苦しい。
背中に感じる視線。

ピーン。

8階に到着する。
わたしは「開」を押す。

ふっと視線が合った。

「ありがとう。また、返しておきますね」

どくん!
ブラジャーの中が、急に踊った。


たまに洗濯物が行方不明になるのは、
何故だろう






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