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【短編小説】 青い夏

この季節が来ると、必ずかける曲がある。
ボーカルが若くして命を断った
ロックバンドの曲。

透明なメロディーが流れ出すと、
星空と、秘密めいた横顔が浮かんでくる。

ハスキーなボーカルに、
メロディがすっと馴染んで、
何度もリピートする。

青くて遠い、夏の音。

若宮さんという人は、
いつもほんのり遠くを見ている。

静かなのに、無邪気。
線が細いのに、体育会系。

5歳歳上の上司。
今までに居なかったタイプの男性。

だからわたしは定義出来ない。
三角形でも、丸でもない、
曖昧な空気のような人。

その年の夏。
茹だるような暑さを避けて、
部署の四人で、キャンプに行った。

若宮さんのランドクルーザーで、
荷物とあたし達を運ぶ。

「若宮さん、カッケー」
「ユウスケさん、ちょっと声大きいですよ」

「サラちゃん、声でかいの好きでしょ?」
「なんでそうなるんですか」

佐倉くんが騒ぐと、
後輩の天野さんがたしなめる。

佐倉くんはわたしの同期、天野さんは1年後輩だ。

カーステレオから、透明なギターリフと
ハスキーな声が流れてきた。

「曲名なんでしたっけ?懐かしいなぁ〜!」
佐倉くんが鼻歌を歌う。

君のすべてを知りたくなくて
聞かないまま、時が過ぎる
知らないままの今ならば
定義したくて考えるから

君のすべてを知りたくなくて
横顔だけをただ焼きつける
笑顔のゆくえが向かった先が
ぼくだけなんだと思いたいから

春ほど甘酸っぱくなくて
秋ほどしっとりしていない
青くて遠い夏だから
青くて遠い夏だから

「僕の学生時代に流行った歌。
鷺崎さぎさきさん、知ってる?」

ふいに若宮さんが、わたしに話題を振った。
ドギマギしながら、答えを探す。

「青い夏」

バックミラー越しの笑顔が、
地球を回って、わたしに届く。

しんとした山の奥は、
夜が更けるにつれて異世界になる。
空から星が降ってくるみたいだ。

パチパチ、とBBQの火が爆ぜている。
肉が焼けた後の匂いが残っている。

「鷺崎さん、顔真っ赤」

普段飲まないお酒のせいで、
若宮さんが何重にも見える。

佐倉くんと天野さんは、
近くの展望台へ星を見に行った。

空気は澄み、
ふたつの気配だけが、いまこの場所にある。

「わらし、若宮さんのこと、知りたくないんです」

膝を抱えて、顔を傾ける。
手の中の缶チューハイが、汗をかいている。

目に映るのは、若宮さんの横顔だけ。
目尻の皺と、すっとした鼻筋。

「あぁ、こら。飲みすぎだろ。
呂律、回ってないよ?」

若宮さんの声が、
ハスキーなボーカルと重なる。

「知りたくにゃいから、教えらいでください」
あぁ、わたしは何を言ってるんだろう。

若宮さんは、ふっと息を吐いた。

「残念、知って欲しいのに」

イタズラっぽい瞳が輝いて、
地球の音が、ひとつに静まる。

パチパチ、と火が爆ぜて、影絵の唇が近づいていく。
青くて遠い、夏の始まり。

夏が来るたび思い出す。
カーステレオから流れるメロディー。

……懐かしいね?

ボーカルが、青い夏を、
ただひたすらに叫んでいる。

アルコール、肉の焼ける匂い。
眼裏に火が爆ぜる。

青い夏、エンドレスリピート。






久しぶりにコングラ貼ってみる

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