【エッセイ】 酸っぱいコーヒーを、夏の初めに。
朝。
しとしと雨が、上がろうとしていた。
小さな鞄と、晴雨兼用の日傘を掴んで外に出る。
まだ湿気を含んだ大気がじわり。
蝉の声もじわり。
耳を澄ますと、
幼稚園で走り回る子どものように
まだあどけなく小さい。
これから大人になり、やがて力尽きるまで
彼らは鳴くんだろうな。
人間たちに眉をひそめられつつも、
儚い命を精一杯に。
そう思うと、
今年も付き合ってやろうかという
気になってくるから不思議だ。
彼らがぽとりと地面に横たわる時までの
短いお付き合い。
◆
用事のついでに、
初めて訪れたカフェに入った。
ミントグリーンの扉が、
幼気な顔で手招きしてたから。
「いらっしゃいませ〜」
冷房の風に、滲んでいた汗もひいていく。
カウンター三席。小さなテーブルが二席。
いくつかのコーヒーメニューと、
カウンター下に並ぶクロワッサン。
わぁ、どれも美味しそうで迷う……。
「メープルとベーコンのクロワッサンを、
コーヒーセットでお願いします」
「コーヒーの種類は、どちらになさいますか?」
店員さんも親しげに聞いてくれる。
うん、場所みしり?が、少し和らぐ。
ひとりで経営されてるのかな?
店内はほぼ満席で、パタパタ忙しそう。
「酸味があるのが気になります!」
「この中なら、エチオピアが一番浅煎りでオススメですよ」
「じゃあそれを、お願いします」
味を想像する時間も、味わうひとときだ。
◆
頑張り過ぎの栓を抜くため、
気合いを入れてきた。
分かってる。矛盾してる(笑)
わたしはいつもそう。
ほどほどに、適当に、
と言われてもその方が難しい。
頑張っているほうが、
適当でいられるんだから、仕方なくない?
◆
旅行のガイドブックを開く。
久しぶりに遠出の旅行を計画してる。
初の北海道。全てがキラキラして見える。
札幌、小樽、函館……。
オススメスポットはどこかしら?
詳しい方是非教えてください😊
◆
「はい、どうぞ〜」
席に運ばれてきたアイスコーヒーと、
クロワッサン。
店内は静かで明るく、ジャズが流れている。
男性がひとり店に入ってきた。
「今日は何になさいますか?」
あ、常連さん。
男性は、後から店に来た女性に「あ、どうも」
と声をかける。
別の席では親子連れの子どもが、
我が家で寛ぐふうに、足をブラブラさせている。
わたし、ここにいていいのかしら?
少しだけ、足元が落ち着かない。
けれど、
窓辺でひとり本を読んでいる女性もいるし、
ここの空気はきれいだ。
たぶん、大丈夫。
◆
居心地のいい雰囲気って、
きっと全てがマリアージュして出来ている。
ひとびとの雰囲気、内装、音、
そして何より、味。
さてさて、どんなお味かしら?
アイスコーヒーを口に含むと、
わ、酸っぱい!声は出さなかったけれど、
想像以上の酸味がした。
ゴクゴク。
え〜、何これ爽やか!うま!!
初めましての酸味は、
やがてスッキリとした味わいに変わり、
ほのかな甘みすら感じてくる。
酸っぱいコーヒー、ハマりそう。
◆
クロワッサンを頬張ると、
サクッと音がして、メープルの甘さとベーコンの塩気が絶妙にマッチしている。
「しあわせ〜」
幸せって、意外と簡単に手に入るのね。
あ、わたしが単純なだけ?(笑)
「ご馳走さまでしたー」
ミントグリーンの扉は、
また来てもいいけど?って顔をして
わたしを見送っている。
気が向いたら来てやってもいいけど?
わたしは彼に目配せする。
日傘越しに太陽が照りつけてきたけれど、
口の中は、爽やかに甘酸っぱい。
了

余計にガチガチになりません?(笑)

