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【エッセイ】 酸っぱいコーヒーを、夏の初めに。

朝。
しとしと雨が、上がろうとしていた。
小さな鞄と、晴雨兼用の日傘を掴んで外に出る。

まだ湿気を含んだ大気がじわり。
蝉の声もじわり。

耳を澄ますと、
幼稚園で走り回る子どものように
まだあどけなく小さい。

これから大人になり、やがて力尽きるまで
彼らは鳴くんだろうな。

人間たちに眉をひそめられつつも、
儚い命を精一杯に。

そう思うと、
今年も付き合ってやろうかという
気になってくるから不思議だ。

彼らがぽとりと地面に横たわる時までの
短いお付き合い。

用事のついでに、
初めて訪れたカフェに入った。

ミントグリーンの扉が、
幼気いたいけな顔で手招きしてたから。

「いらっしゃいませ〜」
冷房の風に、滲んでいた汗もひいていく。

カウンター三席。小さなテーブルが二席。

いくつかのコーヒーメニューと、
カウンター下に並ぶクロワッサン。

わぁ、どれも美味しそうで迷う……。

「メープルとベーコンのクロワッサンを、
コーヒーセットでお願いします」

「コーヒーの種類は、どちらになさいますか?」

店員さんも親しげに聞いてくれる。
うん、場所みしり?が、少し和らぐ。

ひとりで経営されてるのかな?
店内はほぼ満席で、パタパタ忙しそう。

「酸味があるのが気になります!」
「この中なら、エチオピアが一番浅煎りでオススメですよ」

「じゃあそれを、お願いします」

味を想像する時間も、味わうひとときだ。

頑張り過ぎの栓を抜くため、
気合いを入れてきた。

分かってる。矛盾してる(笑)
わたしはいつもそう。

ほどほどに、適当に、
と言われてもその方が難しい。

頑張っているほうが、
適当でいられるんだから、仕方なくない?



旅行のガイドブックを開く。
久しぶりに遠出の旅行を計画してる。
初の北海道。全てがキラキラして見える。

札幌、小樽、函館……。
オススメスポットはどこかしら?
詳しい方是非教えてください😊

「はい、どうぞ〜」

席に運ばれてきたアイスコーヒーと、
クロワッサン。

店内は静かで明るく、ジャズが流れている。

男性がひとり店に入ってきた。
「今日は何になさいますか?」

あ、常連さん。
男性は、後から店に来た女性に「あ、どうも」
と声をかける。

別の席では親子連れの子どもが、
我が家で寛ぐふうに、足をブラブラさせている。

わたし、ここにいていいのかしら?
少しだけ、足元が落ち着かない。

けれど、
窓辺でひとり本を読んでいる女性もいるし、
ここの空気はきれいだ。

たぶん、大丈夫。

居心地のいい雰囲気って、
きっと全てがマリアージュして出来ている。

ひとびとの雰囲気、内装、音、
そして何より、味。

さてさて、どんなお味かしら?

アイスコーヒーを口に含むと、
わ、酸っぱい!声は出さなかったけれど、
想像以上の酸味がした。

ゴクゴク。
え〜、何これ爽やか!うま!!

初めましての酸味は、
やがてスッキリとした味わいに変わり、
ほのかな甘みすら感じてくる。

酸っぱいコーヒー、ハマりそう。

クロワッサンを頬張ると、
サクッと音がして、メープルの甘さとベーコンの塩気が絶妙にマッチしている。

「しあわせ〜」

幸せって、意外と簡単に手に入るのね。
あ、わたしが単純なだけ?(笑)

「ご馳走さまでしたー」

ミントグリーンの扉は、
また来てもいいけど?って顔をして
わたしを見送っている。

気が向いたら来てやってもいいけど?
わたしは彼に目配せする。

日傘越しに太陽が照りつけてきたけれど、
口の中は、爽やかに甘酸っぱい。



肩の力を抜いてって言われると、
余計にガチガチになりません?(笑)



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