【短編小説】 泣きますよ
ご依頼に応じて、いつでも泣くことを承ります。
どんな場面でも、どんな相手でも構いません。
お気軽に、ご相談ください。
料金は一時間あたり3,000円です。
深夜勤務は割増手当をいただきます。
お問い合わせはこちらまで。
◆
あたしは泣き屋だ。
依頼に応じて、いつでも泣く。
お祖父さんのお葬式、
結婚式の友人席、
人気のない舞台の最前列。
声を殺して泣くこともできるし、
わざとらしく肩を震わせることもできる。
タイミングだって外さない。
いろんな依頼があるのよ。
人って面白いよね。
わざわざお金払ってまで、
泣いてほしいって思うんだから。
◆
でもね、こんな泣き上戸な体質になったのは、
きっかけがあるの。
それは小学生の時の、終業式の合唱。
なぜかわからないけれど、
指揮者に指名された。
みんなの前で台に乗って、指揮するの。
……いや、やり方わかんないし。
教えてください。
って、今なら言える。
けどね、小学生のあたしは言えなかった。
ただ優等生だったあたし。
ただの内気な少女だったのよ。
◆
本番の日。
なんか、みんなの前で右手を三角に振ってみたけれど、
え?これでいいの?
なんかズレてない?
歌と、自分の手と、
全部が少しずつ噛み合っていない気がした。
内心焦って、あたしはパニックで。
そしたらね、みんなの後ろ側に先生が立っていて、
必死にあたしに見えるように指揮してた。
こうするんだよって言ってるみたいに、
大袈裟な手振りで。
……それ、見習えってこと?
ほとんど教えてくれなかったくせに。
喉の奥が、ひりついた。
手が震えた。
もちろん指揮はズレてたし、
台から降りるとき、足がガクガク震えてた。
◆
さて、今日もお仕事よ。
お葬式に出席するの。
泣いてくれって頼まれてる。
お亡くなりになった方の、親戚の方から。
ちゃんと泣ける。
どんな人でも、ちゃんと泣ける。
ご家族はいないのかしら、とか、
一瞬思ったけれど、
まぁあたしには関わりのないこと。
いつもの仕事をこなすだけ。
名前、そういえばまだ聞いてなかったな。
まぁいいか。行けばわかる。
◆
終業式が終わって、あたしは校舎の裏に隠れた。
涙が溢れて止まらなかった。
指揮ができなかったからじゃない。
教えてもらえなかったのに、憐れまれたせいだ。
そして準備が足りなかった自分のせいだ。
ぐちゃぐちゃで、
どうしようもなくて、
それでも止め方なんて、誰も教えてくれなかった。
そういえば、ひとしきり泣いていると、
ずっと隣にいてくれた男の子がいたなぁ。
あれは誰だっけ。
同じクラスの、田中 隼人くん。
いつも無口で、何を考えてるか分からなかった。
けれど、このひとときは、
心配そうな温度が伝わってきて、
やけに暖かく感じたっけ。
何も言わずに、ポケットの飴玉をくれた。
ソーダの味がしゅわっと弾けて、
余計、涙は止まらなくなったけれど。
◆
お葬式の日が来た。
逝去された方の名前を見る。
“田中 隼人”
線香の香りが、葬儀場を満たしている。
あの日の校舎裏が、
冷たい温度で眼裏に浮かび上がった。
ソーダがしゅわっと弾けた。
それは、あの日と違う味。
了



