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【短編小説】 泣きますよ

ご依頼に応じて、いつでも泣くことを承ります。
どんな場面でも、どんな相手でも構いません。
お気軽に、ご相談ください。

料金は一時間あたり3,000円です。
深夜勤務は割増手当をいただきます。
お問い合わせはこちらまで。



あたしは泣き屋だ。
依頼に応じて、いつでも泣く。

お祖父さんのお葬式、
結婚式の友人席、
人気のない舞台の最前列。

声を殺して泣くこともできるし、
わざとらしく肩を震わせることもできる。
タイミングだって外さない。

いろんな依頼があるのよ。
人って面白いよね。

わざわざお金払ってまで、
泣いてほしいって思うんだから。



でもね、こんな泣き上戸な体質になったのは、
きっかけがあるの。

それは小学生の時の、終業式の合唱。

なぜかわからないけれど、
指揮者に指名された。

みんなの前で台に乗って、指揮するの。

……いや、やり方わかんないし。

教えてください。
って、今なら言える。

けどね、小学生のあたしは言えなかった。

ただ優等生だったあたし。
ただの内気な少女だったのよ。



本番の日。

なんか、みんなの前で右手を三角に振ってみたけれど、

え?これでいいの?
なんかズレてない?

歌と、自分の手と、
全部が少しずつ噛み合っていない気がした。

内心焦って、あたしはパニックで。

そしたらね、みんなの後ろ側に先生が立っていて、
必死にあたしに見えるように指揮してた。

こうするんだよって言ってるみたいに、
大袈裟な手振りで。

……それ、見習えってこと?
ほとんど教えてくれなかったくせに。

喉の奥が、ひりついた。
手が震えた。

もちろん指揮はズレてたし、
台から降りるとき、足がガクガク震えてた。



さて、今日もお仕事よ。
お葬式に出席するの。

泣いてくれって頼まれてる。
お亡くなりになった方の、親戚の方から。

ちゃんと泣ける。
どんな人でも、ちゃんと泣ける。

ご家族はいないのかしら、とか、
一瞬思ったけれど、

まぁあたしには関わりのないこと。

いつもの仕事をこなすだけ。

名前、そういえばまだ聞いてなかったな。
まぁいいか。行けばわかる。



終業式が終わって、あたしは校舎の裏に隠れた。

涙が溢れて止まらなかった。

指揮ができなかったからじゃない。

教えてもらえなかったのに、憐れまれたせいだ。
そして準備が足りなかった自分のせいだ。

ぐちゃぐちゃで、
どうしようもなくて、

それでも止め方なんて、誰も教えてくれなかった。

そういえば、ひとしきり泣いていると、
ずっと隣にいてくれた男の子がいたなぁ。

あれは誰だっけ。

同じクラスの、田中 隼人くん。

いつも無口で、何を考えてるか分からなかった。

けれど、このひとときは、
心配そうな温度が伝わってきて、

やけに暖かく感じたっけ。

何も言わずに、ポケットの飴玉をくれた。

ソーダの味がしゅわっと弾けて、
余計、涙は止まらなくなったけれど。



お葬式の日が来た。
逝去された方の名前を見る。

“田中 隼人”

線香の香りが、葬儀場を満たしている。

あの日の校舎裏が、
冷たい温度で眼裏に浮かび上がった。

ソーダがしゅわっと弾けた。
それは、あの日と違う味。







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