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【短編小説】 めっちゃえろいね。

「ねぇ、めっちゃえろいね」

カナコは、じぃっと僕の瞳を見つめて言った。

「え?」
大学のカフェテリア。
穏やかな席に差し込む夕陽が、瞳に眩しい。

「ほら、めっちゃえろい。透けてるじゃん」
「透けてる?」

カナコの桜色のネイルが艶めいている。
指先が光を弾く。

「うん、ほら茶色に」

何か、茶色のもの身につけてたっけ。
今日の服装でも、茶色はないし。

僕は焦る。
透けてるって、何が?



「め、ちゃいろい」
「ん?」

カナコのシェルピアスが揺れる。
長い睫毛が、頬に陰を落としている。

じっと僕を見つめてくるから、
なんだかドギマギしてしまう。

「目、茶色い」

あ、なるほど。

「あぁ、もしかして僕の目?」
「うん」

夕陽が、カナコの黒髪を金色に縁取っている。
彼女の瞳は、漆黒だ。

「生まれつきで、色素が薄いみたいなんだ」
「ふふ。そうなんだ」

その笑顔はふわふわとして、
宙に溶ける綿菓子みたいだ。



「この前、水場で頭から水かぶってたよね」
「あぁ、サッカーして、あまりにも暑かったから」

あの日も、頭からずぶ濡れになって、
冷たい水に、生き返る気がしたっけ。

「ぶるぶる犬みたいに頭を振ってた」
「犬って」

カナコには、僕は何犬に見えてるんだろう。
彼女は、毛繕いするフラミンゴみたいだけど。

「水しぶきが、光に溶けて、キラキラしてたよ」

カナコは、髪の先をくるくると桜指で遊ぶ。
僕は目で追ってしまう。

「あの時も、目、茶色いって思ったんだ」
「外だと、余計茶色に見えるかもな」

カナコは、アイスコーヒーをひと口飲む。
ごくり、と喉が上下する。



「でもさ、困ってることもあって」
僕は、少しだけ眉を寄せた。
カナコは、ほんの少し目を見開く。

「困ってること?」

「ハーフ?って聞かれたりとか。
別にいいし、嬉しいんだけど、なんとなく、混ざっていく感じがして」

「ふぅん。どっちでもいいじゃない。
カザマは、カザマだよ」

カナコは揺るがない。
少し、空気が軽くなる。息がしやすい。
僕は胸いっぱいに空気を吸いこむ。

ついでだ。言ってやれ。

「じゃあさ、今度一緒に湖に行こうよ」
「湖?」
「そう、日本一大きな湖」

湖畔を並んで歩く。
フラミンゴみたいに、片足立ちのカナコの写真を撮る。
よろけたカナコの手を、つかまえる。

きっと、夕陽が綺麗だろう。
彼女を映して、さらに透き通る。

漆黒の瞳が、茶色と混じる。



「ふぅん、いいよ。
湖畔沿いに泊まろ?」

心臓が跳ねた。
“泊まる”というフレーズは、僕たちにはまだ少し遠い。

カナコは、楽しそうに笑った。

「ねぇ、め、ちゃいろいね」






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