【短編小説】 めっちゃえろいね。
「ねぇ、めっちゃえろいね」
カナコは、じぃっと僕の瞳を見つめて言った。
「え?」
大学のカフェテリア。
穏やかな席に差し込む夕陽が、瞳に眩しい。
「ほら、めっちゃえろい。透けてるじゃん」
「透けてる?」
カナコの桜色のネイルが艶めいている。
指先が光を弾く。
「うん、ほら茶色に」
何か、茶色のもの身につけてたっけ。
今日の服装でも、茶色はないし。
僕は焦る。
透けてるって、何が?
◆
「め、ちゃいろい」
「ん?」
カナコのシェルピアスが揺れる。
長い睫毛が、頬に陰を落としている。
じっと僕を見つめてくるから、
なんだかドギマギしてしまう。
「目、茶色い」
あ、なるほど。
「あぁ、もしかして僕の目?」
「うん」
夕陽が、カナコの黒髪を金色に縁取っている。
彼女の瞳は、漆黒だ。
「生まれつきで、色素が薄いみたいなんだ」
「ふふ。そうなんだ」
その笑顔はふわふわとして、
宙に溶ける綿菓子みたいだ。
◆
「この前、水場で頭から水かぶってたよね」
「あぁ、サッカーして、あまりにも暑かったから」
あの日も、頭からずぶ濡れになって、
冷たい水に、生き返る気がしたっけ。
「ぶるぶる犬みたいに頭を振ってた」
「犬って」
カナコには、僕は何犬に見えてるんだろう。
彼女は、毛繕いするフラミンゴみたいだけど。
「水しぶきが、光に溶けて、キラキラしてたよ」
カナコは、髪の先をくるくると桜指で遊ぶ。
僕は目で追ってしまう。
「あの時も、目、茶色いって思ったんだ」
「外だと、余計茶色に見えるかもな」
カナコは、アイスコーヒーをひと口飲む。
ごくり、と喉が上下する。
◆
「でもさ、困ってることもあって」
僕は、少しだけ眉を寄せた。
カナコは、ほんの少し目を見開く。
「困ってること?」
「ハーフ?って聞かれたりとか。
別にいいし、嬉しいんだけど、なんとなく、混ざっていく感じがして」
「ふぅん。どっちでもいいじゃない。
カザマは、カザマだよ」
カナコは揺るがない。
少し、空気が軽くなる。息がしやすい。
僕は胸いっぱいに空気を吸いこむ。
ついでだ。言ってやれ。
「じゃあさ、今度一緒に湖に行こうよ」
「湖?」
「そう、日本一大きな湖」
湖畔を並んで歩く。
フラミンゴみたいに、片足立ちのカナコの写真を撮る。
よろけたカナコの手を、つかまえる。
きっと、夕陽が綺麗だろう。
彼女を映して、さらに透き通る。
漆黒の瞳が、茶色と混じる。
◆
「ふぅん、いいよ。
湖畔沿いに泊まろ?」
心臓が跳ねた。
“泊まる”というフレーズは、僕たちにはまだ少し遠い。
カナコは、楽しそうに笑った。
「ねぇ、め、ちゃいろいね」
了


