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【短編小説】モナリザの前の青年 #風まかせ文芸部

 私はルーヴル。
 幾千の人々が私の回廊を歩き、目を見張り、ため息を洩らしてゆく。

 大広間では、ドラクロワの《民衆を導く自由の女神》が旗を掲げ、熱を失わぬ炎を振りかざしている。
 階段の踊り場では、ミロのヴィーナスが永遠の姿で静かに立ち、人々の視線を受け止め続けている。
 そして別室には、ベッリーニが描いた《青年の肖像》が静かに微笑みを絶やさず、時の流れを封じ込めている。

 だが、そのすべてを過ぎてたどり着くのは――モナリザ。
 小さな絵の前に人々は押し寄せ、幾重もの視線が重なる。
 だが私は知っている。群れがふっと途切れる一瞬があることを。

 その時、彼が現れる。
 青年はまるで《青年の肖像》から抜け出してきたかのように立ち、熱を帯びた瞳でモナリザを見上げる。
 愛する者に再会したような眼差し。
 絵の中の肖像が肉体を得て、彼女に歩み寄ったように。

 私は二百年の間、数えきれぬほどの視線を受け止めてきた。
 しかし、彼のまなざしほど真実を宿した光を私は知らない。

 彼は何者か――私は語ることができない。
 ただ、モナリザの前にだけ現れ、そして霧のように消える。

 それは芸術が生む幻なのか、あるいは彼女が招き寄せた恋人なのか。
 私にすら、その答えはわからないのだ。


風まかせ文芸部さんのお題「芸術」
参加させていただきますっ✨

モナリザの実物を見たとき、思いのほか小さくて驚いたワタシです。
このイラストよりだいぶ小さな絵ですよね。


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