第7話 運命の再開「女に間違われたジャンヌ・ダルク」
オルレアンの勝利の報せは、たちまちフランス全土に広がった。
村々でも街角でも、人々は口々に「聖女ジャンヌ」の名を囁き合う。
「神が遣わした乙女が現れたのだ」
「彼女こそ、王を導く存在だ」
いやいやいや! 俺は乙女でもなければ神の遣いでもねぇ!
けれど道を歩けば、老若男女がひざまずいて祈ってくる。
「聖女様、祝福を!」
「お恵みを!」
「いや、俺に跪くなって!」
必死に手を振るが、逆に群衆はさらに感涙する。
――完全に“聖女フィルター”がかかってやがる。
⸻
その頃、王太子シャルルは意気揚々としていた。
「世を王とする戴冠式を、ランスで執り行うのだ!」
臣下たちがざわめく。だがシャルルは迷いなく続けた。
「聖女ジャンヌが導いた勝利だ。戴冠も彼女の旗と共に行う」
「おいおい……俺を巻き込むなよ!」
内心で絶叫する俺をよそに、宮廷は熱気に包まれていく。
⸻
ランスへの道行きが始まった。
沿道には群衆が押し寄せ、旗を掲げる俺に歓声を送る。
「聖女様! 聖女様!」
「いやいやいや! ただの田舎の兄ちゃんだから!」
叫びたくても言えない。喉まで出かかった声を飲み込み、引きつった笑顔を浮かべる。
そんな中――俺の目に飛び込んできたのは、一人の少女だった。
⸻
人混みの中で、ふと光が差したように。
ピンク色の髪が陽光に透け、エメラルドグリーンの瞳がこちらを見つめていた。
両手には白い花束。
彼女の姿だけが、世界から切り取られたように鮮やかに映る。
(……マルグリット?)
幼い頃、一度だけ出会った少女。
神秘的な微笑みと、少し頼りない仕草が、強烈に心に残っていた。
その彼女が、今ここに――。
⸻
「……また会えたね」
群衆に紛れながら、確かにそう口が動いた……気がした。
胸が、痛いほどに跳ねた。
旗を掲げる手が震え、思わず視線を逸らす。
(や、やばい……心臓が爆発する……!)
俺は必死に深呼吸した。
聖女だの神の使いだのと祭り上げられているこの俺が、健全に女の子に惹かれている――。
それが妙に可笑しくて、そして、何よりも救いに思えた。

⸻
夜営の焚き火。
ギョームが黙々と剣を磨きながら言った。
「ランスに着けば、戴冠式です。覚悟は」
「俺に言うな! 主役はシャルルだろ!」
つい声を荒げた俺を、ギョームは真っ直ぐな瞳で見つめた。
「……人々はジャンヌ様を信じています。その重みを、忘れないでください」
「……っ」
焚き火の赤が、彼の横顔を照らしていた。
心強いはずなのに、胸の奥が重く沈んでいく。

⸻
行進の終着地、ランスの城壁が見えてきた。
月明かりの下で、シャルルは誇らしげに言い放つ。
「世の戴冠の日が、ついに来る!」
群衆の熱狂。
その陰で俺は、心臓の高鳴りと重圧の狭間で揺れていた。
――運命は、もう逃げられないところまで来ている。
⸻
