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第3話 王太子との初対面「女に間違われたジャンヌ・ダルク」

 城の大広間に足を踏み入れたとたん、俺は目を丸くした。
 高い天井、金糸のタペストリー、煌びやかなシャンデリア。
 田舎の教会しか知らない俺にとって、すべてが別世界だった。

「さあ、聖女ジャンヌよ」
 神父様が満足げに頷く。
「殿下を見抜くのです」

「いやだから俺、聖女じゃないし男だって!」

 俺の叫びなど、誰一人として耳に入れてくれない。
 大広間の中央に、数人の立派な衣装をまとった男たちが並んでいた。
 王太子殿下――シャルルは、その中に紛れているらしい。



 心臓が嫌な音を立てた。
 どう見ても、誰が王太子かなんて分からない。
 全員が堂々としていて、貴族らしい顔つきで……。

「神の声を聞き、正しき者を選ぶのです」
 神父様が厳かに告げる。

「だから神の声なんて聞いたことないんだって!!」

 頭を抱えながら、必死に影武者たちを観察した。
 よく見ると、一人だけ――視線が違う。
 他の男たちは前を向いたまま微動だにしないのに、その人物だけが俺をじっと見ていた。

 強い光を湛えた瞳。けれど、どこか怯えるような揺らぎもある。
 自分が試されていることを隠そうとしながら、どうしても隠しきれない目。

 ――あれだ。



「……あんたが王太子だろ?」

 俺が指差すと、広間は一気にざわめいた。
 当の本人は驚いたように目を見開き、そして小さく息を吐いた。

「……見抜かれてしまったか」

 王太子――シャルルは、静かに列を離れて歩み出る。
 高慢そうに顎を上げてはいたが、その声にはどこか安堵が滲んでいた。

「紛い物の聖女では、なかったな」

 堂々と見せながら、その内にはどこか繊細な揺らぎも見える。




 シャルルは俺の前まで来ると、手を差し伸べた。

「これからは世のそばを離れるでない。ジャンヌ、そなたは世の聖女だ」

「はあ!? いやだから俺は男で――」

「黙れ。世が選んだのだ。他の誰にも渡さぬ」

 断言する声。まるで命令のような響き。
 俺は赤面しながら手を振り払おうとしたが、周囲から感嘆の声が上がった。

「殿下のお心が聖女様に!」
「神の御業だ……!」

 ――いやいやいやいや!! 何でそうなる!?

 俺のツッコミは、相変わらず誰にも届かない。



 そのとき、ふと気づいた。
 シャルルの視線が、ずっと俺の顔に留まっている。

 マントの裾を揺らしながら、彼は俺の金髪を見つめた。
 ステンドグラスの光に照らされた黒髪がきらめき、紫の瞳が反射して煌めく。

 ――なんだよ、その目は。

 彼の表情は強がっているはずなのに、どこか見惚れているようで。
 繊細さと迷いを含んだ瞳が、俺を射抜いていた。

 胸の奥がざわついた。
 困惑と、居心地の悪さと、説明できない熱が入り混じって。

「……世は確信した。そなたこそが、神の遣わした聖女だ」

「いやいやいやぁぁぁ!!」

 俺の絶叫が、大広間の天井にむなしく響いた。

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