🌸外伝②「御曹司の初恋」
紗良の誕生日パーティに呼ばれた。
俺─桐原遊馬は気の利いたプレゼントを片手に、ガーデンパーティの会場へ足を運んだ。
あいつは妹みたいなもんだ。行動力があって、ただのお嬢様じゃない。そういうところが気に入っている。
――ところが、ガーデンの入口で目を疑った。
「……おい、なんか育ってないか?」
出迎えたのは、前に会った双子。黒百合と白百合。
前回は十二歳くらいの見た目だったのに、背が伸び、雰囲気まで大人びて見える。
黒百合が鋭い瞳で俺を見上げる。
「何を勘違いしている。俺たちはずっと俺たちだ」
白百合は苦笑して肩をすくめた。
「成長なんてしませんよ。ただ、見え方が変わることはあるかもしれませんね」
紗良が慌てて割って入る。
「もう、遊馬さん! 変なこと言わないでください!」
俺は笑いながら肩を竦めた。
「まぁいいか。深くは聞かないけどな……ほんと不思議なやつらだ」
⸻
広間に入ると、彼女がいた。
眼鏡をかけた女性――莉奈。小説家だと紹介された。
控えめな雰囲気なのに、不思議と金木犀みたいな甘やかな香りを漂わせていた。
「小説を書いてるんですか?」
「はい。人と人との“境界”について。曖昧さや揺らぎを描きたいんです」
予想以上にしっかりした芯を感じて、俺は思わず引き込まれた。
「面白いな。俺も仕事柄、人と人の距離には敏感だからね」
気づけば会話が弾んでいた。
彼女は穏やかだけど、話すほどに強さがにじみ出る。……悪くない。そう思っていた、その時。
莉奈が机の角にぶつかり、眼鏡が外れて落ちた。
「大丈夫ですか」
俺は反射的に拾い、手渡した。
次の瞬間、心臓が跳ねた。
眼鏡の奥に隠されていた素顔。澄んだ瞳、柔らかい光をまとった顔立ち。
あまりの美しさに息を呑んだ。
「……綺麗だ」
思わず漏らした声に、莉奈は驚いて視線を逸らす。
横で黒百合がぼそりと呟いた。
「遊馬でも、そういう顔をするんだな」
「……黙ってろ」
軽く返したつもりなのに、耳まで熱くなるのが分かった。
胸の奥で何かが音を立てて崩れていく。
――これまでのどんな女とも違う。
俺は、その瞬間、恋に落ちていた。

