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占い師は答えを教えない〜第3話〜くまちゃん♡


晴れた日。
咲和子は張り切って店先の南天を剪定していた。

「こんにちは、相談にのってもらえるのはここですか?」
背後から、消え入りそうな小さな声がした。

そのかすれた小さな声に、咲和子は神経を全集中する。風邪?いや風邪ではない。疲労だ。芯まで凝り固まったような、究極の疲労。

「こんにちは。今日は気持ちのいい日ですね。ご紹介ですか?」
よく来たね〜!なぜかそう思った。
「はい、私、キャリさんと同じ職場です。」
「おおーかっこいいキャリさん、それはそれは。くまちゃんはキャリさんの部下になるのかな?ま、どうぞどうぞ。」

彼女をソファに促し、ぬるめのハーブティーを淹れた。ペパーミントの香りが室内に広がる。これは手強いな、咲和子は心の中で覚悟した。くまちゃんネーミングへのツッコミも無しか。

くまちゃんは、静かにボソボソと話し始めた。
「コロナ禍から家でパソコン作業が中心の仕事です。でも、最近、疲れて疲れて疲れて。」
ーーん?3回言ったぞ。

「くまちゃんは、あ、本名は伺いません。あだ名つけさせてもらってます。くまちゃんは何かリフレッシュしてるの?」
「くまちゃん、可愛いですね、ありがとうございます。私、趣味が無くてですね、休日も、週明けの仕事がスムーズにできるように、パソコンの中を整理してます。この度、契約期間終了のタイミングで仕事を辞めるか、ずっと答えが出ません。そろそろタイムリミットで。それで来ました。」
ーーあたしがくまちゃんの親なら『帰ってこい』って怒鳴るね。この疲労感。異常だ。

堅物くまちゃんに、咲和子はタメ口作戦で挑む。この砂壁を崩してみせよう。

聞くと
現在の仕事は契約職であり、契約期間満了後には退職も問題なく可能な状況にある。しかし、待遇も良く、上司からの勧めもあり、継続するか否かの判断に迷いが生じている、という相談だった。

「では、くまちゃんがお仕事を続けるか?終了にするか?タロットに聞いてみましょう。」
「はい、お願いします。」

カードをホワイトセージで浄化している間、くまちゃんを観察する。細い。青い。目が開いてない。家でするパソコンの仕事って、こんなに大変なのか?くまちゃんの、あまりの疲労色に、なぜか腹が立つ。

フォーカードスプレッドで、起こりうるトラブルと対応方法を見つける。いつになく咲和子は気合を入れた。

静まりかえった雰囲気の中、突然、シャッフル中に飛び出したカードは『HIEROPHANT(法王)正位置』だった。

「このカードは伝統とか社会的信頼を意味するよ。くまちゃんが、長年にわたり責任感を持って役割を果たしてきたこと、また周囲も信頼を得ていることを表すよ。」
ーーしっかし、自宅なのに本当にサボってないのね。この使命感?義務感?どこから来るんだ?

「並べる前に飛び出したってことは、結構重要なメッセージなんだ。」
くまちゃんは沈黙。元々無口なのかもしれない。

「はい、じゃ、くまちゃん、見ていこうか。」
「お、お願いします。」
くまちゃん、倒れそう、ヨボヨボ。若いのに。

「では、まず、過去を表すカードは・・・

JUSTICE (正義)のカード正位置。」
意味は義務と均衡。これ出る人、ほんと、クソが付く真面目。

「くまちゃんは、自分のノルマをしっかりこなし、仕事に対して真摯に取り組んできた、という意味になるよ。」
「ありがとうございます。」
ーーきちんとしてる。偉いぞ。

それにしても、
キャリさんとくまちゃんで同じカードが出るとは、一体どんな会社なんだろう。こんなにも真面目な2人が働いてくれる会社は、きっと安泰に違いない。それで契約社員だよ。どうなってんの。咲和子はまた、怒りが込み上げてきた。

「次は、現在を表すカード・・・

EMPEROR(皇帝)正位置。」
このカードは責任、統制、管理能力の意味。

「くまちゃんの現在は、強い責任感を持ち、全力投球していて、トップクラスの業績を出してるってさ。そうなの?。」
ーー仕事において、最高のカードだ。
「うーん、そんなことないと思います。私がやらないと誰もやらないから。」
ーーううっ。私がやらねば誰がやる精神。

義務感に縛られている思考の持ち主は、なかなか考え方が変わらない。まだまだ砂壁は厚い。世界中のみんな!オラに元気を分けてくれ!

「次、問題を表すカードは・・・

SUN逆位置。」
本来の輝きが曇っている、過去の栄光を引きずっている、というもの。

「くまちゃん、最近、お仕事で何か失敗でもしたの?」
「はい・・・今まで失敗したことなかったのに、初歩的ミスしました。それで眠れなくなって・・・」
「暗い部屋にいるとか、昼夜逆転してるとか?」
「夜中の方が集中できるんです。」

ーーおいおい大門未知子じゃあるまいし、失敗しない人なんかいない。夜中に仕事するなんて、くまちゃんは作家か?激しくツッコミを入れたいところだが、咲和子はぐっと抑えて解決法に力を注ぐ。元気玉の出番だ。

「さて、
結果・解決を表すカードはTEMPERANCE (節制)逆位置。」

循環不全の意味、最悪。流れが止まることは、生を放棄することに近い。

咲和子は意を決した。

「くまちゃん、これからどうなるか?のカードの意味、説明するね。」
「は、はい」

「まず疲労蓄積により血行不良、食生活の乱れにより、肌や髪も荒れて、体調不良になります。そして、流れるまま仕事をし、好きな家族には、ずさんな態度を取り、私生活がどんどん堕落します。水の流れが止まり、浄化されず、淀むイメージです。」
咲和子は、一気に大きめの声で、堅い敬語を使い、まくし立てるような強い言い方で、メデューサのごとく目を見開き、くまちゃんを真正面から凝視した。

くまちゃん石になった。

「それで
解決方法は、極度のリラクゼーション一択。」

石になったくまちゃんの目から、大粒の涙が溢れた。

咲和子は静かに続ける。イメージは聖母マリア。

「今日、くまちゃんは、78枚もあるカードの中、4枚だけ引きました。その4枚が大アルカナで構成され、飛び出したカードも大アルカナ。大アルカナというのは、物事の中心となるカードです。非常に崇高な構成です。この構成は、くまちゃんを表しています。さらにマイナス要素のカードが1枚もない。本当に真面目に、実直に生きてきた証です。」

涙を拭うくまちゃんに、自省録の章を贈る。

『自省録』第12巻第36章
〜君になんのちがいがあろう。〜万人に平等な取り扱いが与えられるのだ。〜人生においては、三幕でも一つの完全な劇になるのだ。〜だから満足して去って行くがよい

「物事の価値は長さではない。既に十分な役割を果たしてきた。さらに努力を積み増すことではなく、やり遂げた事実を受け入れることも大事だよ、と私は解釈してるよ。」

自省録第3巻1章
人生は一日一日と費やされて行き、あますところ次第に少なくなって行く。〜なぜならば、もうろくし始めると、〜自分自身をうまく用うること、義務のひとつひとつを明確に弁別すること

「自分を支えた義務感に縛られた時、それは執着へと変わる。義務と執着は別もの。自省録で『弁別すること』と書いてある。」

くまちゃんは何度も小さく頷いた。

プレゼントカードは法王。くまちゃんを表す、シャッフル中に飛び出したカードだ。

「この法王カードには『療養時間を取れる』の意味もあるの。足元に描かれた2本の鍵は、天国と地獄に通じているんだってさ。」

咲和子は心を込めて、くまちゃんが、次のステップへ進めるように、自省録の一言を書き記した。

人生は、みのり豊かなる穂のごとく

本当は、くまちゃんを抱きしめたかった。




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