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1970年代へのタイムトラベル。リパックの風に吹かれて/2008年スペシャライズドプレスキャンプ体験記

文:吉本 司 写真:吉本 司、Specialized

もう18年も前のことなので詳細な記憶が薄れつつあります。それがあの特別な数日を、夢だったのではないかと錯覚させるのです。2008年、僕はMTBの発祥地とされる通称マウント・タム(タマルパイス山)のリパックレースのコースで、かつてゲーリー・フィッシャーやトム・リッチーがそうしたかもしれない、テールスライドをかましつつ下りコーナーを抜けたのです。これまで数々の海外試乗会へ足を運んだ吉本が中でも忘れがたい体験となったスペシャライズドのプレスローンチを回想します。


読者の皆さんは、安井さんが筆を振るう自転車への造けいが深まるような濃厚な記事を楽しんでいただいていることでしょう。でも、今回はごめんなさい、全くお勉強になるような内容じゃないんです。僕が過去に参加したスペシャライズドの国際試乗会での与太話。以前にこの時の話を安井さんにしたところ「それ面白いから、ぜひ書いてくださいよ」というので綴ってみたのです。皆さんの目を汚さない原稿だと良いのですが……。チョー暇な時にでも読んでみて下さい。

ルーベSL2の取材のはずが……

かれこれ30年ほど、自転車メディアの世界で仕事をさせてもらっています。メーカー主催の試乗会や自腹での取材を通じて、西欧から北米、アジアまで、あちこちへ足を運んできました。

やはり異国の地。日本の日常では決して味わえない、良くも悪くも鮮烈なエピソードが次々と飛び出してきます。

ミラノの空へ消えたまま二度と戻らなかったスーツケース。携帯電話もない時代、迎えが来ずに宿泊先も分からず途方に暮れたリスボンの空港。GPSサイコンのない時代、サンタクルーズの森で撮影に没頭するうちに一行に置いていかれ、数時間も迷子になった孤独な時間。目の前を走っていたジャーナリストが滑落し、ヘリで搬送される緊迫した光景……。

思い返せば枚挙にいとまがありません。しかし、2008年にアメリカ・カリフォルニア州で行われたスペシャライズドの国際試乗会。これに勝る思い出は、他にありません。20年近い歳月が流れ、細かい記憶は輪郭を失いつつありますが、あの日感じた胸の高鳴りは今も鮮明に残っています。

本題に入る前に、少しだけ前置きをさせてください。

読者の皆さんのなかには「吉本=ロードサイクリスト」というイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、僕の自転車人生の原点はMTBブームの真っ只中にありました。かつてのJシリーズ(現在のクップ・デュ・ジャポン)を走り、イエティをはじめとする車歴は20台を超えます。シクロクロスやグラベルロードも、流行以前から「土の自転車」として愛してきました。結局のところ、車輪が付いていれば何でも好きなのです。

僕がMTBに乗り始めた80年代末、バイクはまだフロントサスペンションもない「フルリジッド」が当たり前でした。世界初の量産型MTB『スタンプジャンパー』の誕生からわずか数年。どちらかといえばMTB創世記の残り香が漂う時代です。『ニューサイクリング』や『サイクルスポーツ』、そしてアウトドア誌『BE-PAL』。そこに綴られたMTB誕生の物語を、文字通り貪るように読み耽っていました。

そんな背景を持つ僕にとって、MTB発祥の地とされるサンフランシスコ州マリンカウンティ(マリン郡)のマウント・タム(タマルパイアス山)は、単なる地名を超えた特別な響きを持っています。

1970年代に入り、マリン郡のヒッピーたちは、30~40年代の実用車に太いバルーンタイヤを履かせた改造自転車「クランカー」に跨り、マウント・タムで曲がりくねった未舗装のファイアロード(山火事の際の緊急道路)を麓まで下るという遊びを始めるのです。

やがてこの遊びは「リパックレース」というタイムトライアルレースとして組織されるようになります。その地で砂塵にまみれたゲーリー・フィッシャー、チャールズ・ケリー、ジョー・ブリーズ、トム・リッチーといった面々は、まさにMTBの礎を築いた人々であり、僕にとって、雲の上の「神様」に等しい存在でした。

今回の試乗会に出発する前、そんな歴史の深淵に触れられるとは、微塵も想像していませんでした。本来の目的は、新型「ルーベSL2」の取材。それだけでも十分に有意義でしたが、スケジュールの偶然が重なり、ロードの翌週に開催されるMTBのローンチにも続けて参加することになったのです。それが、かけがえのない記憶の扉を開くことになりました。

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