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青い春がやってくる。――清明のころに思うこと

二十四節気では、4月5日から4月19日ころを「清明(せいめい)」という。この言葉に出会うと、
春が少しだけ、凛としたものに見える。

桜が咲くとか、風がやわらぐとか、
そういう目に見える変化だけではなくて、
空気の奥に、すうっと光が差し込むような感覚がある。

二十四節気とは、
一年を二十四の季節に分けて、
自然の移ろいや暮らしの節目をあらわしたもの。

立春、春分、夏至、秋分、冬至――
名前だけなら知っているものもあるけれど、
ひとつひとつに目を向けてみると、
季節は思っていたよりもずっと細やかで、
やさしく名前をつけられてきたのだと気づく。

私は二十四節気にまつわる本を何冊か持っていて、
季節の変わり目になると、ときどき開いてみる。
そのうちの一冊が、
俵万智さんの『花と短歌でめぐる 二十四節気 花のこよみ』で。

花とことばで季節をたどるその本は、
暦を読むというより、
季節の気配をそっと手のひらに乗せて見つめるような一冊。

清明は、「清浄明潔(せいじょうめいけつ)」を略したものだという。
清らかで、明るく、潔い。
まるで、春そのものに背筋をのばさせるような名前。

春はやさしい季節だと思われがちだけれど、
ほんとうは、少しこわい季節でもある。

新しいことが始まりそうで、
何かが変わってしまいそうで、
置いていかれたくない気持ちと、
それでもまだこのままでいたい気持ちが、
胸の中でそっとせめぎ合う。

そんな春を、昔の中国では「青」であらわしたという。
春は青。夏は朱。秋は白。冬は玄(黒)。

その話を知ったとき、
「青春」という言葉が、急にまぶしく感じられた。

青春というと、若いころだけのものみたいに聞こえる。
けれど、本当はそうではないのかもしれない。

何かに心を揺らしたり、
まだうまく言葉にならない気持ちを抱えたり、
期待して、傷つくのがこわくて、
それでもまた、誰かや何かを好きになってしまう。

そんな青さを持っているあいだ、
人の心はきっと、ずっと春の途中にいる。

俵万智さんのこの一首も、
私のなかではそんな「青い春」の気配とつながっている。

ガーベラの首を両手でもちあげておまえ一番好きなのは誰

『花と短歌でめぐる 二十四節気 花のこよみ』より


なんて春らしい歌だろうか。

花に向かって、そんなことを尋ねてしまう心。
少し可笑しくて、少し切実で、
自分でも持て余すような、まっすぐさがある。

「いちばん好きなのは誰」と問いかける声の奥には、
誰かを想う気持ちだけではなく、
ほんとうは自分の心のありかを確かめたい気持ちも、
ひそんでいるように思う。

春は、そういう季節だ。

咲きはじめた花を見て、
なぜだか胸がざわつく。
新しい靴や、新しい道や、新しい名前に、
ほんの少し希望を抱いてしまう。

外の世界が目まぐるしく動くこの4月。
私は、一冊の「インタビュー形式の3年連用日記」を手に取ってみた。

ふつうの日記のように、
その日の出来事を順番に書いていくのではなく、
用意された質問に答える形で、
そのときの自分の気持ちをすくいあげていく日記だ。

たとえば、
「最近ついた小さな嘘は?」
そんなふうに、少しだけ不意をつく問いが置かれている。

そういう質問に答えようとすると、
自分でも気づいていなかった心の動きが、
ふいに言葉になって出てくる。

大きな決意や立派な反省ではなく、
ほんのささやかな気のゆらぎや、
見ないふりをしていた本音のようなものが、
ぽつり、ぽつりと紙の上にあらわれる。

来年、再来年。
同じ4月のページを開いたとき、私はどんな気持ちで、この青い春を思い出すのだろう。
うまくいかなかったことも、言葉にしきれなかった揺れも、
そのときにはきっと、
「ああ、このころの私は、一生懸命に春の中にいたんだな」と、
愛おしく振り返れる気がする。

大人になれば、もっと落ち着くものだと思っていた。
季節が変わっても、もうそんなに揺れないのだと。

けれど実際は、
春が来るたびに、心のどこかがまだ青い。

ちゃんとしていたいのに、
期待してしまう。
傷つきたくないのに、
それでも何かを好きになりたいと思ってしまう。

その青さは、未熟さではなく、
まだ自分の中に芽吹こうとするものがある証なのかもしれない。

清明。
清らかで、明るい春。

まぶしいほど整った季節ではなく、
揺れながらも光のほうへ伸びていく季節。

私もまた、そんな春の中にいる。
少し不安で、少し期待していて、
それでも前を向きたいと思っている。

心の中は、一生「青春」でいたい。

喜木 拝

#私の二十四節気

ずっと参加してみたかった、はしさんの企画。
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