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ことばは、ティッシュにも滲む。

noteには、ときどき、 「それ、誰が最初に思いついたんですか」 みたいな文化がある。

役に立つとか、立たないとか、そういうことをいったん棚に上げて、ただ面白がるためだけに人が集まってしまう文化。
「ティッシュ字」も、たぶんそのひとつ。

最初に見たときは、正直に言えば、
なんのはなしですか。
である。

ティッシュに字を書く。
それだけ聞けば、机の上に紙がなかったときの苦肉の策みたいだし、うっかりメモ欄にされたポケットティッシュの話にも聞こえる。
でも、どうやらそうではないらしい。もっとくだらなくて、もっと愛おしくて、少しだけ後戻りできない遊びのようだ。

わたしは、本に囲まれて働く司書で、紙にはそれなりに敬意がある。
ノートにも書くし、
付箋にも書く。
メモにも書く。
余白を見れば、つい何か書きたくなる性分でもある。
けれど、ティッシュは盲点だった。
あまりにも日常にありすぎて、あまりにも消耗品すぎて、そこに「ことばをのせる」という発想がまるでなかったのだ。

なのに、読んでしまったのである。
ティッシュをめぐる先人たちの、妙に本気な文章たちを。

気づけば、京大卒まで巻き込みながらティッシュ字の未来を押し広げていく話を読み、「何の役にも立たないのに、人を笑顔にする」遊びとして語られる文章を読み、さらには一枚に懸ける熱量がもはや青春みたいになっている記事まで読んでしまった。

ここまで来たら、もう読むだけでは済まない。
こちらも一枚、いくしかない。

ティッシュを一枚取り出す。 白い。やわらかい。頼りない。 息を強く吐いたら、どこかへ飛んでいってしまいそうな軽さである。
こんなものに筆ペンを入れて大丈夫なのか、と一瞬ためらう。
けれど、たぶんその「大丈夫なのか」が、もう入口なのだと思う。

そっと書いてみる。 すると、思ったよりも字が立つ。でも、少しだけ滲む。 紙よりも心もとないのに、紙よりも正直だ。ごまかしがきかない。勢いも、迷いも、ちょっとした手の震えまで、そのまま出る。

なんだこれは、と思う。 書道ほど立派じゃない。メモほど実用的でもない。 作品と呼ぶには頼りなくて、落書きと呼ぶには妙に気持ちが入る。 でも、たしかにそこには「わたしが今ここに書いた」という感じだけが残る。

そして、困る。 書いてしまったティッシュは、もう気軽に使えないのだ。 鼻なんてかめるはずがない。涙をぬぐうのもなんだか申し訳ないし、食べこぼしを拭くなんてとてもじゃないけれどできない。

ただの消耗品だったはずの一枚が、急に「作品ぶる」のである。
おもしろすぎるでしょう。

たぶん、ティッシュ字の魅力はそこにある。 すぐなくなるものに、わざわざ残したくなるものを書くこと。 消えていいはずのものの上に、消えたくない気分をちょこんと置くこと。

意味があるのかと聞かれたら、たぶん、そんなにない。 でも、意味がないからこそ、するっと心に入ってくる遊びって、たしかにある。

それにしても、ことばを書くのが好きな人間というのは、つくづく始末が悪い。本来なら鼻水のために待機しているティッシュを前にしても、「ここに何を書こう」と考えてしまうのだから。

ちなみに、わたしが最初の一枚に書いたのがこちら。

ティッシュに筆ペンにて

『書いたので、もうかめない』

たいそうな名言でも、人生訓でもなく、ただの事実。
われながら、なんともしょうもない。
でも、ティッシュ字の最初の一枚には、立派な言葉より、こういう一言のほうが似合う気がして。

実際に書いてみると、これが思った以上に緊張する。 紙のようで紙じゃない。しっかりしているようで、していない。 少し力を入れすぎると繊維に引っかかるし、そっと書いたつもりでもじんわり滲む。

しかも、私が書いたその一枚は、「の」のカーブがちょっとかすれた。 ああ、失敗したな、と思った。でもそのかすれ方が、なんだか妙にティッシュらしくて、あとから見たらむしろ少し愛おしかった。

きれいに書けなくてもいい。完璧じゃなくてもいい。 そういう余白ごと楽しめるのが、ティッシュ字の面白さなのかもしれない。

私はもともと、字にあまり自信があるほうではない。 整った文字を書く人を見ると、いいなあと思うこともある。だからこそ、字のうまさより先に、“やってみた人”を歓迎してくれるような、このやさしい雰囲気がうれしかった。

そう。 ほんとうに、なんのはなしですか、である。

でもこういう、役に立たなさの純度が高い遊びに出会うと、noteってやっぱり好きだなあと思う。 世界は、意味のあることだけでできているわけじゃない。 たまには、ティッシュに字を書くみたいな、どう考えても寄り道でしかないことが、妙に一日を明るくすることもある。

さて。 次はもう少し、うつくしく滲ませてみたい。

……いや。 でもやっぱり、鼻はかめなくなるのだけれど。

喜木 拝


追伸

まずはこちらの記事たちを拝読して、
「ティッシュ字って、なんだか楽しそうだな」と思いました。


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