🕯 夕暮れにひとつ、“スキ”が灯った
書くことが、あんなに好きだったのに。
気づけば、わたしは“書けない人”になっていた。
日が長くなって、夜が来るのが遅くなる季節が、わたしは少し苦手だ。
暑すぎるし、ジメジメとした湿気が苦しさを伴う。
空がオレンジ色から群青に変わっていくのを見つめながら、
「今日も何も書けなかったな」と、そっとため息をつく。
パソコンの前に何時間もいたはずなのに、指はほとんど動かなかった。
書こうとして、書けなくて、SNSを開いては閉じて、noteの下書きだけが増えていく。
今年の夏も、変わらないな。
小学生のころ、学習帳に詩や物語を書いていた自分をふと思い出す。
暑くて退屈で、でもどこか、好きな時間だった。
いまは、あのときより自由なはずなのに、
どうしてこんなにも書けなくなってしまったんだろう。
そのとき、
画面の右上に、小さな赤いマークが灯った。
noteからの通知。「あなたの投稿に“スキ”されました!」。
たったひとつ。
けれど、その“ひとつ”が、どうしようもなく胸にしみた。
クリックひとつでつけられる、軽やかな「いいね」のはずなのに、
その背後には、“誰か”の存在が確かにあるのだと、
その瞬間、気づいてしまったのだった。
それは、数日前に投稿した文章だった。
自信がなくて、そっと更新して、誰にも読まれなくてもいいやと思っていた。
なのに、「読んだよ」と言ってくれた誰かがいた。
その事実が、どこまでも静かで、あたたかかった。
夏の夕暮れに、リリンと鳴った縁側の風鈴の音みたいだった。
遠くで小さく響くけれど、たしかにそこにいる、と知らせてくれるような。
誰かがこの文章を読んで、わたしに「スキ」を残していった。
その証があるだけで、今夜はもう少し、自分を信じてみたくなった。
もちろん、それだけで、魔法みたいに筆がすらすら進むようになるわけじゃない。
気持ちが重たい日も、文章がまとまらない日も、これからだってきっとある。
でも、「書きたい」と思った自分の気持ちを、
「読んだよ」とそっと受け取ってくれた誰かがいたという、その事実だけで、
もう一度、キーボードに手を置いてみようと思える夜がある。
たぶん、書くって、すごく孤独な営みだ。
「誰のために書いてるんだろう」って、
ふいに迷い込む夜が、真夏の夜みたいに蒸し暑くて息苦しい。
だけど。
その夜に、一筋の風みたいに届いた「スキ」は、
まるで、「ここにいるよ」って誰かが静かに手を振ってくれたみたいだった。
“書くこと”に意味を求めてしまうと、途端に息が詰まる。
だけど、意味がなくても、理由がなくても、
書きたいと思ったなら、それはもう、書いていいんだよ。
そんなふうに、あのときの「スキ」は、わたしに教えてくれたのだった。
だから今度は、わたしが書く。
誰かの、どこかで埋もれそうになっている言葉に、小さな「灯り」をともせるように。
もしあなたがいま、
書けないことに落ち込んでいたり、
誰にも読まれていない気がしていたり、
「もう書かなくてもいいかな」なんて思っているとしたら。
どうか、今日という夏の一日が、
あなたの心に、ひとつでも灯りがともるような日でありますように。
そして、あなたの書く言葉が、
まだ見ぬ誰かの夕暮れに、そっと光を落としますように。
わたしを救った“スキ”のように、
いつか、わたしの書いた一行も、
誰かの静かな夏の夜に、そっと灯りますように。
ともちゃんの企画で、綴らせていただきました。
・灯火杯 共通テーマ:書く人へのエール
・季節テーマ:夏
・第3回テーマ:気づき
はじめて「スキ」をいただいた時の、喜びを忘れないようにしたいという気持ち。そんな夏の日です。素敵なテーマをありがとうございます。
お読みいただいた方にも感謝を込めて。
喜木 拝
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