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君が旅立つ日のために綴る”おいしいノート”


わが家には”100年もの”のレシピがある。

「味噌はさみ焼き」と呼ばれている。
縦半分にした茄子に切り込みを入れて、甘辛い味噌だれを挟んで蒸し焼きにしたもの──。




100年レシピ

「少なくとも、ひいばあちゃんのときにはあったみたい」

味噌が焦げる香ばしいにおいが漂うキッチンで、母は歌うように言った。今から10年前のことだ。

その後も同じ話を聞くことになるが、何度聞いてもお気に入りである。


わたしが母になる前の、最後の夏だった。
ひどいつわりで入院していたわたしのために、母が新幹線に乗って上京してくれた。狭い13.5畳のワンルームに泊まり込み、1週間ほど料理とそうじをになってもらっていた。

無条件に甘えた最後の時間だったとも思っている。


当時書いたブログ
ブログの中には、母のレシピが
10品ほど残してある。
🔎365日のとっておき家事 マキごはん


豚バラ、こんにゃく、それからにんじんといんげんを一緒に炒めて彩りよくした名もなきおかず。薄く焼いた卵にソースをかけた玉子焼き。ささげと油揚げ、それから糸こんにゃくをピリ辛に炒め煮した小さなおかず。


「はさみ焼きの味は、人によって違うの。ばっちゃのは甘めで、ひいばあちゃんのは七味振ってピリッとさせてさ。……おもしろい料理いっぱいあったんだけどね」

母は視線を落とした。
油を吸った茄子はくったりと薄く皺々になっていた。

「もう、……つくれない」


消えた母の味


同じ台詞を6年後にまた聞いた。

母の母──わたしの祖母である”ばっちゃ”の葬儀のあと。母と並んで台所に立ったときのことだ。

「これもばっちゃが作ってたんだよ」

母の手元には、卵味噌。濃いめの味つけでご飯に合う。
多めの油に、味噌と砂糖を溶かすように炒りつける。酒を加えてしばらく煮詰めたら、卵をくぷりと割り入れる。ゆるゆると崩して、火を通していく。最後にねぎをたっぷり。予熱で火を通す。

母の実家の味は、ほとんどすべて失われてしまった。

ぞっとした。
わたしだって、母の料理を作れない。好きなものがたくさんあった。出されたら「うわあ、なつかしい」とほおがゆるむ。

でも、自分の記憶だけを頼りにしてみると、思い出せる料理はほんのわずかだった。こうしてわたしの家の味も消えてしまうのだろうか。

そう思ったらいても立ってもいられなくなった。


自分のためだけに書いていたレシピノートの航路を、未来へ向けて変えることにした。

自分がわかればいい──そう思っていたけれど、それだけでは届かない。
“受け継ぐ手料理”のノートとして、子どもたちが旅立つときに手渡そう。

これを「メモリーレシピ」と名づけてみる。



メモリーレシピのつかいかた


メモリーレシピは、子どもたちのためにつくるレシピノート。普段作っている料理の中から好物を選んで書いていく。

ポイントは「リフィル」を使うこと。

これが完成系

1料理=1ページに書く。
好きな料理のページだけをコピーして1冊にまとめれば、子どもそれぞれに自分だけのオーダーメイドなレシピノートが完成する仕組み。

旅立つときに持たせてあげたい。



ingredient ─ 材料 ─


メモリーレシピの材料は5つ。

バインダー……A5サイズ
リフィル……A5サイズ
メモ帳……B7サイズ
ペン
はがせるテープのり

バインダーとリフィルは、システム手帳でもルーズリーフでもいい。
デザインの幅が広いのがシステム手帳で、手頃な値段ではじめたいならルーズリーフ。
A5サイズを選ぶ。

B7サイズのメモ帳は、ダイソーで購入できる「メモパッド」という商品を使用。無地を使う。

ほかにはペンとテープのり。ペンは、どんなノートでも「ユニボールシグノ(0.38mm)」を使っている。

テープのりは「貼って剥がせる」タイプを選ぶのが大切。


instructions ─ つくりかた ─


1つの料理につき、「リフィル1枚」と「メモ帳2枚」を使用する。

これが完成系。
冒頭で紹介した「100年レシピ」

1枚目のメモ帳に書くこと

1枚目のメモ帳には、3つのことを書く。

1.料理名
2.材料リスト
3.フリーメモ……要約やコツなど自由に。

材料リストの書き方がポイント。縦に4分割して、左から「野菜・果物」「肉・魚」「その他」「調味料」と記入。

わたしは簡単な記号で
書いている。


こうすることで必要なものがひと目でわかる。
準備するときにも助かるし、写真に撮っておけば、買い出しだってらくになる。同じ場所にあるものをまとめて探せるから、売り場をあちこち行ったり来たりしなくて済むのだ。


2枚目のメモ帳に書くこと

2枚目のメモ帳には、レシピを書いていく。書き方は自由。わたしはひと目でわかるのが好きだから図解している。

分量は研究中だから
ふせんを貼ってある。

9歳娘の好物は魚、和風の副菜、和のおやつ。
ゆでたとうもろこしや枝豆。きゅうりとわかめの酢のものや、こんにゃくを甘辛く炒め煮したものが好き。水羊羹やミルク寒、お餅を使ったおやつが気に入っている。

色を塗らないとこんな感じ。

6歳息子は離乳食から大苦戦。5歳でようやく炭水化物以外を食べてくれるようになった。
幼稚園では残さないというけれど「幼稚園じゃないとたべないからね!」と宣言されて、家だけじゃなく、外食でも一切野菜を食べてくれずにいた。やっと野菜を(こっそり)食べさせたのはつい最近。


1枚のリフィルに貼りつける

つくった2枚のメモを、1枚のA5リフィルに貼りつける。

このとき、必ず「貼って剥がせる」タイプのテープのりを使う。

同じ料理でも、つくっていくうちにどんどんおいしくなり、手順が変わることがある。
そういうときに付箋のような気軽さで剥がし、すべてを書き直さずに内容を更新することができる。分量変更だけなら、先ほど紹介したように付箋でも対応できる。



Secret ingredient ─ 隠し味 ─


QRコードシール

「手書きが苦手な人」「元レシピを載せたい人」は、QRコードシールをつくるといい。レシピのURLをアプリなどでQRコードにする。

スマホ用のミニフォトプリンター「iNSPiCインスピック」で印刷するとシールになる。

「LINEカメラ」などのコラージュアプリを使い、複数のQRコードを1枚のコラージュ画像にすれば、まとめて印刷することも可能。

紙のレシピ派なら、こんなページを作っておけば、番号を書くだけで対応させられる。


迷わないガイドライン下敷き

長年レシピノートをつくってきて思うのは「書きはじめる」までの腰が重たいこと。

だから、下に敷けばすぐに書きはじめられるガイドライン下敷きをつくる。

中身はこちら。

レイアウトを書き込んだら、100円ショップで購入できる「硬質カードケース(B7)」にイン。


油性ペンで書くと
透かして見える。

これを下敷きにすることで、同じものを手軽に量産することができる。

ノート内の仕切りに挟んで
なくさないようにしている。


ペン1本で完成するのがおすすめ

以前はスタンプやシールも活用していた。

それらを用意するだけでも面倒になって取りかかれなかった。"デコる"のは、ノート歴が長い人や、上級者向けだと痛感した。

いまは時間があるときに色を塗るけど、基本はボールペン1本で完成するようにしている。

なお、このノートは、料理名の囲み枠で料理のテイストがわかるようになっている。洋風・和風・その他・甘味。4パターンのボタニカルな枠を描いている。

1枚目に注目。
この囲み枠で「和食」
だとわかる。


図解したい人は「型」を覚えよう

書き方に正解はない。文字だけでも、絵でも写真でも、続けやすいものを選ぶのが大事。わたしの場合、それが「絵」だった。

2枚目のメモ(レシピ)を図解で描いている。このときのポイントは、3つの型に沿って描いていくこと。

「T型」
「I型」
「Z型」

と呼んでいる。

困ったら"地図(TIZ)"と思い出してみる。
工程の多さで使い分けるといい。

T型……3~5工程
I型……2~3工程
Z型……4~6工程

もちろん図解じゃなくていいし、書き方は自由!
参考までに、この書き方に至るまでのレシピも載せておく。

文章だけで書くなら、
工程ひとつを短く書くとわかりやすい。
大さじと小さじのマークを決めて
数でひと目で見える工夫もしている。


市販のテンプレートを使うのも便利。これは100円ショップで購入したもの。


めくりやすくするコツ

紙のリフィルはめくりにくい。だから、市販のインデックスや、ブックマーカーを活用している。どちらも(恐らく)セリア購入品。

4つのインデックスに合わせて、「メイン」「サブ」「その他」「甘味」に分けてリフィルを並べている。

メモリーレシピをつくるのは「これだ!」というものにたどり着いてから。

メモリーレシピをつくるのは、すこし時間がかかる。

だから、日々の試作をメモするノートを別で用意している。これはキッチンに置いておき、気づいたことがあれば書き込む。

試作結果を書いたもの
自分なりの記号を生かす
変えたことはその都度ペン色を変えると
わかりやすい。
字が汚くても気にしない。

メモリーレシピは、家族に渡すから綺麗に書いているだけ。自分のためのレシピは、字が汚くてもいいし、自分だけわかる書き方でいい。

昔のレシピノートは、おしゃれに英語を使ったりしていた。でもこれじゃあ他人が読んだ時わかりにくい。

色づけはグレーの蛍光ペン1本だった。これはこれで味があって好き。



タイムカプセルみたいな種明かし


息子が家ではじめて野菜を食べたのは、6歳になるすこし前。

「幼稚園のカレーがおいしいから、つくって。おいもたっぷりでね」

そんなリクエストを受けたわたしは、張り切ると同時に、悪巧みをした。

もしかして、いよいよあの”小技”を使えるのでは。野菜を切って混ぜ込むというものだ。


玉ねぎ、にんじん、赤と黄色のパプリカ、それから茄子。野菜をすべて1cm角に切る。

鍋にオリーブオイルとつぶしたにんにくを入れて、野菜を炒める。途中でトマトを投入し、油が回ったらたっぷりの白ワインを加える。しばらく煮詰めていくうちに、アルコールのつんとした感じが消えて、まろやかな香りが漂いはじめる。そこにローリエと、鶏ガラスープの素。

蓋をして15分ほど煮込む。ラタトゥイユ風の野菜煮込みができた。ハンドブレンダーでペースト状にしておく。多めにつくって冷凍。


ここにたっぷり野菜の旨味と甘みが凝縮されているから、細切りにした豚肉を炒めて、水とペーストといっしょに煮込んだら、すぐにカレーができる。甘口のカレールウを2種類混ぜる。

煮込んでいるあいだに、じゃがいもの皮をむいて、一口大にカット。レンジでやわらかくなるまで加熱。最後に入れる。

これがうちのカレー。

子どもたちが大きくなったら「中辛」に変わるかもしれないけれど、そのときは少しだけ書き換えればいい。

大人になって「あのカレー、野菜がいっぱい入ってたの!?」と驚く顔を見るのが楽しみ。


わたしは料理上手ではない。いつも「こんなママでごめんね」と思っている。

でも、それでも、子どものころに食べたものはきっと特別なのだ。だから、なるべくこまめに、忘れずに書き留めてあげたい。ごくごく短いエピソードを添えて。

ふたりが大人になったとき、──たとえば疲れた夜なんかにこのノートを開いて、台所に立ってくれたらうれしい。





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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡

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