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傘透かし #1000文字日記

ぽん。
傘を開く音がする。


夕方にバスを降りた。──暑い。冷房の効いた車内から出ると、全方向から熱が押し寄せてくる。

空の色はすこし黄みがかってきたような気もするけれど、日暮れまではまだまだ遠い。
青空から、暴力的な日差しが降っていた。押しつぶされそう。

青々と広がる田んぼを見ながら家路についた。

黒いコンクリートからも熱が立ち昇ってくる。
早く帰り着きたい娘やわたしとはちがい、6歳の息子はゆっくりと歩いていた。ほんの少し口もとがゆるんでいる。目線は傘を透かす光のほう。


帽子を忘れたから、日傘を貸した。娘がふだんの登下校で使っている、晴雨兼用の折りたたみ傘だ。

水色の傘を肩に預けるように差して、息子は上機嫌で歩いていた。時おりくるくる回してみたり、持ち上げてみたり。
そういえばこの子は、傘が好きなのだったと思い至る。



雨の日のお迎えには、必ず長ぐつとレインコートを持って行く。

ある日、完全武装した姿をはじめて見た副担の先生が驚いていた。
担任の先生が笑いながら「水たまりです」と教えた。

「かわいい顔して、意外とやんちゃなんですよ」

息子はべーっと舌を出すと、ぱちゃぱちゃ走り出し、水たまりに勢いよく飛び込んだ。
ばっしゃん。
茶色の飛沫が上がる。

本当はレインコートは着たくないのだと知っている。ピンクの怪獣柄で、本人が4歳のときに選んだもの。
ピンクが嫌いになった今は後悔しているようだ。いつも「傘がいい」と騒ぐ。


雨が傘に当たって弾ける、ぱらぱらという音が好きなのだと思っていた。

けれども、日傘を持って幸せそうにしている。


息子は傘のなにが好きなのだろう?
持つときの重み? くるくる回すたのしさ?


ふだんのなら走って帰ろうとするのに、いっこうに進まない。何度も止まって振り返り、待つ必要があった。

息子は傘をじっくり観察しながら、のろのろ歩く。
目がきらきらしている。

「……貸したくないのに」

娘の声に苛立ちが滲んだ。

「いいじゃん」

「壊されたくないの!」

娘はぴしゃりと言った。

「ママだってそうでしょ? 壊されたらいやじゃない?」

うだるような暑さのせいもあってか、娘はいらいらしている。


なかなか進まない息子を振り返りながら、わたしはスマホのメモに「日傘を買う」と書き込んだ。あんなに傘が好きなら、日傘も買ってあげよう。
どうせ毎週習いごとのお迎えでたくさん歩くのだし。


そのとき息子は何色を選ぶのだろう。
今度はきっと、ピンクじゃない。





(1,000字)




今月のメンバーシップの宿題で、1,000文字日記を書いてみました。
3つのテーマの中から「傘」を選びました。
時間があればあと1つも書きます。


今月は「色」をテーマにたくさんの言葉を採集しました。
自分でもやってみてすごくよかったです。とくによかったことが2つあります。

1.アイディアが生まれやすくなった

ノート自体が「アイディアが生まれるキーワード帳」になりました。
これはノートを見ながら、キーワードをつなげるようにして書いていった作品なんです。

2.「色が見える作品」が生まれた

また、ワークを経て書いたこちらの小説は、公開後にパーソナル編集者の渋谷さんに読んでもらったら「青・白という色が目に浮かぶことが多くて、すごくすっきりとしていました」と言ってもらえました。

その2色をすごく意識して書いたので、大きな変化を感じています。


8月はこんなことをやっていきます。

【8月】言葉を採集する

1.会話の断片を集める
2.擬音語・擬態語を集める
3.素敵な表現を集める
4.単語から連想語を広げる


▼メンバーシップは3ヵ月で解体するため、8月中旬までには募集を締め切ります。今後はやるとしたら最短で1年後なので、気になる方はお早めにどうぞ。


追伸、
メンバーシップの皆さまへ。7月はマガジンに回収していき8月頭になったら読んでコメントしにいきますね。また、わたしは1,000文字ぴったりにしましたが、前後して大丈夫です。目安です。

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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡

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