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ラメの道 #1000文字日記


病院に行くために自転車を走らせていた。
はじめて行くその病院は、初心でもネット予約ができる。けれども、時間を指定することはできず、わたしは絶えずちらちらとスマホを見ながらいつ家を出るのか考えていた。

いきなり順番が進んだ。

慌てて家を飛び出し、夏空の中へ漕ぎ出した。
アームカバーも帽子もぜんぶ忘れて20分も照りつけられながら。

田んぼの青々とした稲が、風になぞられるようにして折れてまた起き上がった。
真っ青な空はブルーハワイみたい。食いしん坊なわたしは、すぐにそんなことを考える。雲は綿菓子。そう考えると夏の空って、夜店みたいだ。

風の強い日だった。

ふしぎだ。いつもより暑くない。



途中、ふしぎなものを見た。

歩道から道路へ向かって続く、ぬらりとしたなにかの跡だ。
タイヤにしてはすこし太い。お風呂場によくある椅子の、長い方の幅……という微妙なたとえしか思いつかなかった。

なにがふしぎなのかというと、その跡は、ラメをまぶしたみたいにキラキラと虹色に光っていたのだ。


赤信号になった。
わたしは自転車を止めて、先ほど通り過ぎたあの跡を振り返って見た。


似ているものを見たことがある。

思い出して、わたしは眉根を寄せた。


庭しごとをはじめてすこし経ったころのことだ。
庭木のまわりに植えたビオラの葉に、同じようなものを見た。ちらちらと星がまたたくみたいに光る跡。

それ自体はきれいなのに、その跡ができると、花はどんどん枯れていく。

やがてわかった。あの虹のような跡は、なめくじの通った跡だったのだ。
大食漢のなめくじは、なぜだか園芸種ばかりをねらう。そうして庭じゅうの花をだめにしてしまった。

それに気づいたのは雨の日のこと──。子どもを送ってもどってきたわたしが庭に出ると、あちらこちらに、ぶよぶよと太ったなめくじが湧いていたのだ。悲鳴を飲み込んだ。


青信号になった。

わたしは自転車をとめて、ふと、後ろを振り返った。

確かにあのラメは残っている。まるで大きくでっぷりと太ったなめくじが、道路に向かって這ったような跡が。

タイヤよりも太いなめくじ? そんなこと、あるわけないのに。
ホラー小説が1本生まれてしまいそうだ。誰もいない深夜の大通りをのっそりと渡る巨大ななめくじの図が浮かぶ。


妙なもやもやを抱えたまま、わたしは病院へ向かった。

ふしぎなことに、20分も炎天下のなかを走ったのに、肌がしっとりしているくらいで、あまり汗をかいていなかった──。




(1,000字)



創作大賞を終えて燃え尽きそうなので、ハードルを下げて日記を楽しみながら書いています。自分のただの日記でも、楽しんでもらえるようなものを書くのが目標です。

▼ホラーをたくさん書いた夏でした。「爽やかなホラー」と言ってもらえたお気に入りを紹介します。

洒落怖、好きなんですよ。霊は正直信じてないんだけど(視えたと確信できたことがないから)だからこそたのしめるというか。

でもこれは怖すぎない感じを目指しました。


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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡

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