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なぜ今、日本食品の海外輸出は「過去最高」なのか

数字が示す構造変化と、現場で起きていること

新しいシリーズの第1回です。

このシリーズでは、全6回にわたって 「日本食品の海外輸出」 をテーマに、現場で実際に起きていること、データが示している変化、そして中堅・中小の食品メーカーの方が明日から使える実務知識を、順に共有していきます。

最初の今回は、シリーズ全体の出発点となる問いから始めます。

「なぜ今、日本食品の海外輸出は、過去最高を更新しているのか」


ある食品メーカー社長の、3年前と今

先日、関西の中堅食品メーカーの社長さんと、お話しする機会がありました。

その会社は、創業60年の発酵調味料メーカーです。10年以上前から海外輸出には興味があったものの、本格的に動き出したのは、ほんの3年前。

社長さんは、こう振り返っていました。

「3年前まで、海外輸出は遠い世界の話だと思っていました。展示会に出ても、商談はあっても契約には繋がらない。

でも、ここ1〜2年で、空気が変わったんです。海外バイヤーの方から問い合わせが来るようになって、しかも『買いたい』が明確なんです」

この感覚は、決してその社長一人だけのものではありません。

最近、似たお話を、業界・規模・地域を問わず、本当によく耳にします。「動かないと、後れを取る」 ― これが、今、日本の食品業界全体に広がっている空気です。

ではなぜ、こんなに急に空気が変わったのか。

数字を見ていくと、その理由が見えてきます。


数字が示す、過去最高の輸出額

農林水産省が発表している「農林水産物・食品の輸出実績」によれば、日本の農林水産物・食品の輸出額は、ここ10年間で 2.5倍以上 に拡大しました。

2024年の輸出額は、過去最高を更新しています。

特に伸びているカテゴリーが、はっきり分かれています。

  • 緑茶・抹茶などの茶類

  • 日本酒・ウイスキーなどのアルコール飲料

  • 水産加工品

  • 菓子類

  • 調味料・発酵食品

これらに共通しているのは、「現地のスペシャルティ市場」と相性のいい商品 だということです。

大量生産・大量輸出ではなく、「価値で売る」商品。ここが、今の日本食品輸出の主戦場 になっています。


なぜ、今この変化が起きているのか — 3つの構造要因

この変化は、単発のブームではありません。3つの構造的な要因が、同時に作用しています。

要因1: 円安が、海外バイヤーから見た「日本商品の価値」を変えた

ここ数年の急激な円安は、日本国内では生活コスト上昇という形で議論されることが多いですが、輸出の現場では、まったく逆の現象が起きています。

海外バイヤーから見ると、日本商品が以前よりずっと割安に見える のです。

ある日本の貿易商社の方は、こう話していました。

「3年前と比べて、海外バイヤーから『この価格なら、もっと仕入れたい』と言われる回数が、2倍以上になりました。為替が変わるだけで、商談の温度がここまで変わるんだと、現場で実感しています」

円安は、日本食品メーカーにとっては、ほぼノーリスクで売価競争力が上がる状況です。

ただし、この為替メリットは永続的ではありません。「動ける今のうちに、海外チャネルを作っておく」 ― この判断ができる企業が、長期的に強いポジションを取ることになります。

要因2: グローバルな J-food ブームが、本格化している

数年前から続いているJ-food(日本食)ブームは、もはや一過性ではなく、文化として現地に根付き始めています。

  • 北米で抹茶が「特別なお茶」から「日常のドリンク」に変化

  • ヨーロッパで日本酒が「マニア向け」から「ファインダイニングの定番」に

  • 東南アジアで日本菓子が、現地スーパーマーケットの常設棚に

これらすべてに共通するのが、「観光・コンテンツ・SNSによる自然発生的な需要」です。

JETROのレポートでも繰り返し指摘されていますが、現代の食品輸出は「売り込む」ものではなく「すでに需要がある場所に届ける」ものに変わっています

中小企業にとっては、この変化が決定的に重要です。なぜなら、巨大な広告予算で需要を創るのではなく、「すでに存在する需要を、いかに早く見つけてつなげるか」 が勝負になっているからです。

要因3:海外バイヤー側が、「次の日本商品」を本気で探している

これが、3つの中で最も見落とされている変化です。

ここ数年、海外の食品バイヤー(特に北米・東南アジア・中東)は、「すでに有名な日本ブランド」ではなく、「まだ日本国内でしか知られていないブランド」 を積極的に探すようになっています。

理由は、シンプルです。有名ブランドは、すでに大手が独占輸入権を押さえているケースがほとんど。残された道は、「次にバズる日本ブランド」を、誰よりも早く見つけることだけ、という状況になっています。

ある北米のバイヤーが、こう言っていました。

「日本に行くたびに、地方のスーパーや道の駅を回ります。誰も知らない、でも美味しい商品を見つけたい」

これは、北米のバイヤーが、わざわざ日本の地方都市まで足を運んで、商品を探しているということです。

つまり、中堅・中小の日本食品メーカーにとって、今は「自分で売りに行かなくても、相手から探されている」状態 が起きているのです。

ただし、その「探されている」状態を、実際の取引につなげるには、いくつかの技術が必要です。シリーズの第3回以降で、それらを順に解説していきます。


「過去最高」の背後にある、見落とされやすい事実

ここまで聞くと、「日本食品はどんどん売れている」 という印象になりますが、現場ではもう少し複雑な現実があります。

データをよく見ると、「成長している企業」と「停滞している企業」の差が、急激に広がっている ことが分かります。

つまり、市場全体は伸びているのに、その恩恵を受けている企業は限られている、ということです。

成長している企業に共通するのは、こんな特徴です。

  • 1ヶ国、1カテゴリーから始めている

  • 海外バイヤーへの直接アプローチを続けている

  • 商品を「翻訳」ではなく「再設計」して輸出している

  • データを見ながら、3ヶ月ごとに戦略を見直している

逆に、停滞している企業の多くは、

  • 展示会だけに依存している

  • バイヤーからの問い合わせを「待っている」状態

  • 日本市場と同じ商品設計のまま輸出している

  • 「とりあえず東南アジア全域」と広く狙いすぎている

この違いは、規模や予算の差ではありません。「やり方」の差 です。


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