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「供給が追いつかない」── 日本の抹茶が世界で奪い合いになっている

「供給が追いつかない」── 日本の抹茶が世界で奪い合いになっている

日本の緑茶・抹茶の輸出額が、2025年に721億円を記録しました。

前年の約2倍。10年前の約30倍。

日本の農林水産物・食品の輸出品目の中で、増加額は1位。ホタテでも和牛でもなく、緑茶です。

しかもこの記事を書いている時点で、京都の老舗「丸久小山園」や「一保堂茶舗」が販売制限や価格改定に踏み切っています。世界中の需要に、日本の抹茶の生産が追いつかなくなっているのです。

何が起きているのか。データをもとに、できるだけ正確に整理してみました。

アメリカ:コーヒーの次は抹茶

緑茶の最大の輸出先はアメリカです。2025年の輸出額は2,762億円のうち、緑茶だけでかなりの割合を占めています。

面白いのは、アメリカに輸出される緑茶の**約7割が「粉末状」**だということ。リーフ茶(葉のお茶)ではなく、抹茶パウダーです。

なぜ粉末状がこれほど多いのか。理由はシンプルで、アメリカでは「MATCHA」がもはや英語になっているからです。

具体的に何が起きているかというと:

カフェチェーンへの浸透。 スターバックスでは抹茶ラテが定番メニューになっており、2025年には「Dubai Chocolate Matcha Latte」という新商品まで投入されています。Dunkin'(ダンキンドーナツ)も2020年に全米で抹茶ラテを展開し、都市部だけでなく郊外のユーザーにまで認知が広がりました。

専門店の急増。 ニューヨークでは「Cha Cha Matcha」が11店舗に拡大。「Matchaful」はNY発で"Farm to Whisk®"(農園から茶筅へ)を掲げ、京都・宇治の茶農家と直接契約して8店舗を展開しています。サンフランシスコの「Kiss of Matcha」は行列ができるほどの人気です。

コーヒーからの乗り換え需要。 米調査会社Nielsenによると、米国成人の46%が「日常的に抗酸化食品を摂取したい」と回答しています。抹茶はコーヒーより穏やかなカフェイン効果(L-テアニンによるリラックス作用)があり、「午後に集中力を保ちたいが、コーヒーだと夜眠れなくなる」という層が抹茶に流れています。一部のIT企業では、オフィスの飲料として抹茶ラテを採用しているケースもあるそうです。

SNSでの爆発的拡散。 TikTokの「#matcha」関連投稿は136億回以上の再生数を記録。鮮やかな緑色は「映える飲み物」としてZ世代に刺さり、「Matcha Latte Aesthetic」というトレンドまで生まれています。

市場規模の予測。 Grand View Researchの調査では、2030年までに米国の抹茶市場は約7億6,260万ドル(約1,143億円)、年平均成長率(CAGR)は約8%になると予測されています。

Amazon.comで「Japanese Matcha」と検索すると、30gで$15〜$25の商品がずらりと並びます。日本のスーパーでは500円程度の抹茶が、アメリカでは3〜5倍の価格で売れているということです。

EU:有機栽培が「必須条件」の市場

もう一つ注目すべきはEU市場です。

2025年のEU向け抹茶パウダーの輸出額は、前年比で3倍以上に急増しました。特に2025年11月単月では、EU向け粉末茶の輸出額が前年比で約5倍という異常な伸びを記録しています。

EUでは以前からリーフ茶の人気が高かったのですが、最近はカフェやパティスリーで使われる業務用の抹茶パウダーの需要が爆発的に伸びています。パリやベルリン、ロンドンのカフェで「Matcha Latte」がメニューに並ぶのは、もう珍しいことではありません。

しかしEU市場には、アメリカとは決定的に異なる特徴があります。

有機栽培茶の需要が圧倒的に高い。 EU・イギリス向けの緑茶のうち、約8割が有機栽培茶です。EU の消費者は「オーガニックであること」を強く求めており、有機JAS認証を取得していない茶園は、そもそもEU市場に参入しにくい構造になっています。

高級志向が強い。 EU の高級茶専門店では、実は抹茶よりも「玉露」が一番人気だという報告もあります。日本茶輸出促進協議会のコメントによると、「嗜好品としての品質(おいしさ)が購入動機の上位に来ている」とのこと。価格よりも品質で選ぶ市場です。

つまりEUに緑茶を輸出するなら、①有機栽培であること、②品質が高いこと、この二つが最低条件になります。逆に言えば、この条件を満たせる茶園にとっては、非常に大きなチャンスです。

国ごとに「売れる形」がまったく違う

ここが意外と知られていないポイントです。

同じ「緑茶」でも、国によって求められる形状も、求められる品質基準も、まったく異なります。

市場主な形状特徴アメリカ粉末状(抹茶)が約7割カフェ・スイーツ用の業務原料。SNS映えも重要EUリーフ茶+粉末茶(急成長中)有機栽培が必須。高級志向。玉露も人気台湾リーフ茶が中心急須で淹れる文化が根付いているASEAN粉末茶(非有機も可)価格帯も幅広い。ベトナムのカフェチェーンとのコラボ事例も中東抹茶ラテ中心ドバイ、イスラエルでウェルネス需要。ハラール認証が重要中南米抹茶専門ブランドが登場メキシコ・ペルーで市場形成中。まだ小さいが成長速度が速い

つまり、「日本茶を海外に売りたい」と言っても、どの国に、どんな形状で、どんな認証を取って出すかによって、戦略がまったく変わります。

供給が追いつかない ── 嬉しい悩みの深刻な裏側

日本茶輸出促進協議会は、公式に**「海外の抹茶ブームに国内供給が追いつかない状況」**だと報告しています。

なぜ供給を増やせないのか。

抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)は、栽培に非常に手間がかかります。茶園に覆いをかけて約20日間日光を遮り(これによりうま味成分のテアニンが増加する)、新芽だけを丁寧に摘み取り、蒸して乾燥させ、石臼で挽く。一つの石臼で1時間に挽ける抹茶は、わずか40g程度です。

つまり、需要が2倍になったからといって、生産量を2倍にすることは物理的に不可能です。

この供給不足によって、二つの大きな変化が起きています。

① 海外産「抹茶」の台頭。 中国やベトナムで碾茶生産を始める企業が増えています。しかし問題も。2025年には中国産の抹茶を「宇治抹茶」と表示して販売するケースが報道され、京都の老舗企業が抗議する事態にまでなりました。

② 日本産のプレミアム化。 供給が限られているからこそ、「Made in Japan」の抹茶の価格は上がり続けています。京都の丸久小山園や一保堂茶舗が販売制限や価格改定に踏み切ったのは、まさにこの需給バランスの結果です。

鹿児島県では輸出向け栽培への転換を進める茶農家が増えており、静岡県では栽培から製造・販売まで一貫したサプライチェーンを構築し、世界15カ国以上に輸出する企業も登場しています。

なぜこの10年で30倍になったのか

2010年の緑茶輸出額は約24億円。2025年は721億円。約30倍です。

この異常な成長の背景には、四つの大きな変化がありました。

① 「MATCHA」の言語化

かつて「Japanese green tea powder」と説明しなければならなかった抹茶が、今や「MATCHA」一語で世界に通じます。寿司(SUSHI)や豆腐(TOFU)と同じく、翻訳不要の日本語になりました。これは単なる言葉の問題ではなく、「カテゴリーとして認知された」ことを意味します。

② 世界的な健康志向の高まり

抹茶に含まれるカテキン(EGCG)は、一般的な緑茶や紅茶よりも高い抗酸化力を持つことが科学的に確認されています。英国アングリアラスキン大学の研究では、EGCGを摂取したグループは脂肪燃焼率が25%向上したという結果も報告されています。こうした研究がメディアで取り上げられるたびに、抹茶の「スーパーフード」としての認知が広がりました。

③ SNSによるビジュアル拡散

抹茶の鮮やかな緑色は、InstagramやTikTokで「映える」素材そのものです。TikTokの#matchaは136億回以上再生。海外セレブやインフルエンサーが日常的に抹茶を取り上げることで、若年層への認知が一気に拡大しました。

④ 政府の輸出支援策

農林水産省は緑茶を「輸出重点品目」に選定し、残留農薬基準への対応支援、海外プロモーション、輸出産地の育成など、官民一体で輸出拡大に取り組んでいます。2030年の食品輸出目標5兆円に向けて、緑茶は最も成長が期待される品目の一つです。

世界の抹茶市場規模 ── 100億ドルへの道

個別の国の動きだけでなく、マクロの数字も見てみましょう。

2025年から2026年にかけての世界の抹茶市場規模は、36億〜54億米ドルの範囲で推移しています。

製品別では、食品加工やカフェチェーンで使われる「クラシックグレード」が市場の約53〜57%を占めています。一方で注目すべきは、茶道で使われる最高品質の「セレモニアルグレード」が年平均成長率(CAGR)約8%と高い伸びを見せていること。自宅で本格的に点てる層や、マインドフルネスを実践する層が、高単価な商品を選ぶようになっています。

形態別では、粉末(パウダー)が全体の約57%を占めますが、缶やペットボトルの「RTD(Ready To Drink)」がCAGR 8.4%と粉末を上回るスピードで拡大中です。

数字のまとめ


指標数値2025年 緑茶輸出額721億円(前年比 約2倍)2010年 緑茶輸出額約24億円(15年で約30倍)食品輸出全体での増加額1位最大の輸出先アメリカ(粉末茶が約7割)EU向け抹茶パウダー成長率前年比 3倍以上EU向け有機栽培茶比率約8割TikTok #matcha 再生数136億回以上米国抹茶市場予測(2030年)約1,143億円(CAGR 8%)世界の抹茶市場規模(2025-26年)36〜54億米ドル2030年 日本の食品輸出目標5兆円

日本の茶業が、いま世界から求められていること

721億円。前年比2倍。供給が追いつかないほどの需要。

この数字が示しているのは、日本の緑茶・抹茶が「ニッチな輸出品」から「グローバル商品」に完全に転換したということです。

しかし同時に、この急成長には課題もあります。

供給不足による中国産・東南アジア産の代替品の増加。ブランド名の不正使用。有機認証を持たない茶園の参入障壁。物流コストと為替の影響。各国の残留農薬基準の違い。

世界が日本の抹茶を求めている。でも、日本がその需要に応えられるかどうかは、これからの体制づくりにかかっています。

もしあなたが茶業に関わっている方なら——あるいは、日本の食品を海外に届けることに興味がある方なら——この流れは、知っておいて損はないはずです。

この記事が参考になった方は、ぜひ「スキ」をお願いします。 海外販売や輸出に関するデータは、今後もnoteで発信していきます。

出典

  • 農林水産省「農林水産物・食品の輸出実績」

  • 日本茶輸出促進協議会 輸出実績データ

  • JETRO「2025年の農林水産物・食品輸出額は過去最高の1兆7,000億円」

  • Grand View Research 米国抹茶市場レポート

  • Nielsen 2024年米国消費者調査

  • 農林水産省 特集「日本茶を世界に届ける」

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