見出し画像

俺の日常のパトロール

俺は、佐藤家に飼われている猫だ。
この家の連中、つまり俺の世話係である人間どもは、俺のことを何か特定の音で呼ぶ。
その音を発している時に、俺が気まぐれに喉の奥から「にゃあ」と応えてやると、彼らは面白いほどに喜んだ。
頭を撫でたり、特別なカリカリをくれたりする。
まったく、チョロい生き物だ。
俺はその音の意味を理解する気など毛頭ないが、彼らを喜ばせておくことが、この家で快適に過ごすための生存戦略であることくらいは分かっている。
朝日が窓から差し込み、家の中がざわつき始めると、それは彼らの活動開始の合図だ。
やかましい音を立てて身支度を整え、何かを腹に詰め込み、やがて一人、また一人と玄関の向こうへ消えていく。
最後に一番体の大きなメスが「いってきます」という、俺には意味不明だが毎朝聞かされる音を残して扉を閉める。
カチャリ、という金属音が響き渡った瞬間、この家は完全に俺の支配下に置かれる。
静寂が満ちる。
壁も、床も、天井も、ソファも、テーブルも、すべてが俺だけのものだ。
さあ、今日もいつもの仕事を始めるとするか。
この家の平和を守るための、俺のパトロールの始まりである。


✅仕方ない、俺がやってやる

まずは、縄張りの全体的な状況確認からだ。
俺はしなやかな足取りでリビングを横切り、出窓へと軽やかに飛び乗る。
ガラスの向こう側、庭の様子を鋭い視線で観察する。
昨日までなかった不審なモノはないか。
見慣れない鳥や、生意気な他の猫が俺のテリトリーを侵そうとしていないか。
よし、異常なし。
次に、ソファの上へ移動し、念入りに爪を研ぐ。
これは単なる気晴らしではない。
俺という絶対的な支配者の存在を、この家の隅々にまで刻み込むための重要な儀式なのだ。
一通りリビングの確認を終えると、俺は廊下をゆっくりと進む。
ひんやりとした床の感触が肉球に心地よい。
洗面所、親の寝室、一つ一つの部屋の匂いを嗅ぎ、異常がないことを確認していく。
自分の匂いを柱や家具の角にこすりつけ、マーキングを更新する。
この家は俺の匂いで満たされていなければならない。
それが秩序であり、安らぎの源なのだ。
そして、パトロールの最終目的地であり、最も重要な任務が待つ場所へと向かう。
それは、一番体の小さいオス、つまり小学生の息子の部屋だ。
あいつらはまだ気づいていない。
その部屋のクローゼットの奥に、この家の真の秘密が隠されていることを。
俺は音もなく部屋に侵入し、半開きになったクローゼットの扉の隙間から、するりと中へ滑り込む。
衣類の匂いが立ち込める薄暗い空間。
その一番奥に、今日の俺が守るべき対象がいる。
まったく、手間のかかるヤツだ。
だが、仕方ない。
俺がやってやるしかないのだ。
この使命を放棄するという選択肢は、俺の中には存在しない。

✅ヤツを守ってやる

クローゼントの奥深く、古びた毛布の上に、ソイツはいた。
俺は「ヤツ」と呼んでいる。
ヤツは俺よりも体が大きく、いつも同じ場所でじっとしている。
一言も喋らないし、身じろぎ一つしない。
だが、ヤツには確かな存在感があった。
つぶらなガラス玉のような二つの瞳は、この暗闇の中で、いつも真っ直ぐに俺を見つめている。
まるで、俺が来るのを待ちわびていたかのように。
俺がゆっくりと近づき、その体に鼻先を寄せると、ヤツは応えるように、ふわりと俺の方へ体を傾けてくる。
もちろん、それは俺が寄りかかった反動に過ぎないのかもしれない。
だが俺には、ヤツが全身で俺を信頼し、甘えているように感じられるのだ。
「仕方ねぇな」

俺は喉の奥で小さく鳴き、ヤツの隣に体を丸めた。
ゴロゴロゴロ…。
俺の体から発せられる安心の振動が、薄暗い空間に低く響き渡る。
ヤツの体は少し硬いが、不思議な温かみがあった。
俺は時折、ザラザラした舌でヤツの体を舐めてやる。
毛繕いだ。
いや、これは俺の流儀に則ったマーキングであり、儀式でもある。
俺の匂いを、俺の唾液を染み込ませることで、「コイツは俺の所有物だ」と、この世界のあらゆる存在に対して宣言しているのだ。
この無力で、声も上げられないヤツを、外敵から守ってやれるのは俺しかいない。
この家を満たす平和な空気も、すべては俺がこの聖域でヤツを守り続けているからこそ保たれている。
俺はそう固く信じている。
静寂の中で、俺とヤツだけの時間が流れる。
俺はヤツの柔らかな綿の感触に身を委ね、ゆっくりと目を閉じた。
パトロールの任務は完了した。
あとは、あいつらが帰ってくるまで、ここで仮眠をとるだけだ。
この家の心臓部とも言える場所で、その鼓動を守りながら。

✅タマがまた寝ているよ

どれくらいの時間が経っただろうか。
遠くから聞こえる玄関の扉の音と、騒がしい声で俺は目を覚ました。
どうやら、あいつらが帰ってきたらしい。
俺はひとつ大きく伸びをすると、名残惜しそうにヤツのそばを離れ、何食わぬ顔でクローゼットから抜け出した。
そして、まるで今起きましたとでもいうような顔で、リビングであくびをしてみせる。
「ただいまー」

息子の声がして、ドタドタと廊下を走ってくる。
そして、自分の部屋を覗き込むと、すぐに大きな声を上げた。
「ねぇ、お母さん!タマがまた、くまちゃんのぬいぐるみの所で寝てたみたいだよ!」

廊下の向こうから、母親の穏やかな声が返ってくる。
「あらあら、本当にくまちゃんが好きなのねぇ、タマは」

フン、と俺は鼻を鳴らした。
好き、などという陳腐な言葉で、俺とヤツとの関係を表現してもらっては困る。
あれは庇護であり、責任であり、そして支配だ。
この家の静けさも、お前たちのその呑気な声も、すべてはこの俺の不断のパトロールと、ヤツを守るという崇高な任務の賜物なのだ。
だが、まあいい。
あいつらは何も知らなくていい。
真の支配者とは、その功績をいちいち語ったりはしないものだ。
俺は静かに立ち上がると、晩飯を要求するために、キッチンへと向かった。
今日の働きに見合うだけの、とびきりのやつを期待するとしよう。
この家の平和は、今日も俺が守ったのだから。
そして明日もまた、俺のパトロールは続く。
誰にも知られることなく、この世界の片隅で、ただ一つの大切なものを守るために。


✅LINE公式アカウント

仕方ない、俺がやってやる心を整える事のご相談、家事育児の悩みのご相談は
LINEでご連絡くださいね。
😊


✅お知らせ

りんだーくの定期マガジン【エッセイ集】を発行しました。
毎日更新のこの記事よりも、より細かく人生の生き方のコツや日々思った事を書いたエッセイを書いています。
気になる方はこちらをどうぞ。
りんだーくの定期マガジン【エッセイ集】


✅合わせて読みたい


✅インフォメーション

🐰X(旧Twitter)(フォローお願いします😊)
🐰Instagram(見に来てね😊)

📖Blog
 🔹主夫の楽しい生活Blog(主夫が楽しく暮らすあれこれのBlog)
 🔹
リン☆だあくの家事MAX(主夫になりたい人を応援するBlog) 
 🔹
リン☆だあくの副業術(主夫をしながらでも副業をやる情報のBlog)

🔵お仕事依頼(グラフィックデザイン)
🔵お知らせ
🗺サイトマップ


🙌サポートして頂けると飛び上がって喜びます!😍

#エッセイ #コラム #生き方 #毎日更新 #毎日note #楽に生きる #楽しく生きる #人生 #短編小説 #物語

いいなと思ったら応援しよう!

りんだーく@📖note連続更新1000日以上達成❗ ✅よろしければサポートお願いします❗ 毎日更新の励みになります😊 頂いたサポートは、毎日の活動費(スタバ代など)に大切に使わせていただきます❗❗これで、スタバでコツコツ記事を書くことができますー。ありがたいです。🙏