第十二話 約束の日|10年越しの答え合わせ
ここまで
『10年越しの答え合わせ』第二章ナオ君編
を読んでいただき、ありがとうございます。
ここから先は、この物語の最後です。
第一章では、リオから見えた景色を書きました。
そして第二章では、ナオ君に何が起きていたのかや、あの時何を考えていたのかを描いてきました。
再会の日。
十年間言えなかった気持ちを伝え合った二人は、最後に何を選んだのか。
この再会で交わした言葉は、夫にも、親しい友人にも話したことはありません。
数年経った今も、この日の出来事は、ナオ君と私だけが知っている思い出です。
今回、この物語で初めて言葉にすることにしました。
そして、最後まで読んでくださった方へ、ささやかなお礼として。
本編のあとに、
・あとがき
・この物語を書こうと思った理由
・実は…こんなふうに書いていました
・登場人物たちの「その後」
・一度だけ見ることができた、ナオ君とのメールの不思議な出来事
も収録しています。
『10年越しの答え合わせ』の、本当の終わりまで見届けていただけたら嬉しいです。
第一章 「妻との出会い」
妻と出会ったのは、
社会人になって一年が過ぎた頃。
同じ職場だった。
最初は、
特別意識していたわけじゃない。
仕事終わりに話すようになって、
休日も会うようになって、
気づけば、
一緒にいる時間が増えていた。
笑うタイミングが似ていて、
何でもないことで笑い合える人だった。
ある日、
隣を歩く妻を見て、
ふと思った。
「少し似てるな…。」
目元なのか。
笑った時の口元なのか。
昔好きだった女の子のことが、
ふと頭をよぎった。
だから好きになったというわけじゃない。
好きになった人を見ていたら、
どこか重なるものがあった。
それだけ。
気づけば、
この人と一緒に歳を重ねていきたいと
思うようになっていた。
ある日の夜。
風呂から上がると、
リビングでテレビを見ていた妻が、
顔を上げた。
「おかえり!」
「風呂から出てきただけだけど‥」
そう返すと、
妻は少し照れくさそうに笑った。
「間違えた。なんか、言っちゃった😂」
その一言が愛しくて、
俺もつられて笑う。
他愛もない会話。
夕飯の残りをつまみながら、
テレビを見て笑う。
そんな時間が、
いつの間にか当たり前になっていた。
第二章 「覚えてる?」
結婚してもうすぐ半年が経とうとしていた。
新しい生活にも少しずつ慣れ、
毎日は穏やかに過ぎていった。
朝起きて仕事へ行き、
帰れば妻がいる。
休日には一緒に買い物へ出かけ、
夕飯を食べながら、
今日あった出来事を話して笑う。
特別な毎日じゃない。
でも、
「おかえり」
その一言がある毎日は、
思っていたよりずっと心地よかった。
幸せだった。
それなのに、
春になると、ふと思い出す人がいた。
高校三年の春。
携帯を開けば、
「おはよう😊」
そんなメールが届いていた。
淡い高校生の頃の記憶。
「受験が終わったら。」
そう約束したまま、俺たちは会わなくなった。
高校を卒業してから、
街で偶然見かけた。
でも、人混みに流されるように、
そのまますれ違った。
気づけば、
それぞれ違う人生を歩いていた。
ある日の夜。
何気なくスマホを眺めていると、
LINEの「知り合いかも」に、
見覚えのある名前が表示された。
リオ。
思わず指が止まる。
本当に……
リオなのか。
プロフィール画像は後ろ姿だけで、
顔は分からない。
それでも、
名前を見ただけで、
高校生だった頃の記憶が一気によみがえった。
画面を閉じようとする。
でも、
閉じられなかった。
送ろうか。
やめようか。
何度もLINEを開いては閉じる。
もう、高校生じゃない。
昔に戻りたいわけでもない。
妻を裏切るようなことはしたくない。
それでも、
あの日のことだけは、ずっと心に残っていた。
あの時、
リオは何を思っていたんだろう。
もし勇気を出していたら、
何か変わっていたんだろうか。
そんなことを考えるたび、
高校生だった俺が、
今も心のどこかで立ち止まっている気がした。
過去をやり直したいわけじゃない。
たった一度だけでいい、
あの頃の続きを知りたかった。
深呼吸を一つする。
少し震える指で、
たった一言だけ打ち込む。
「覚えてるー?」
送信ボタンを押した瞬間、
十年間止まっていた時間が、
もう一度だけ動き始めた気がした。
第三章 「もう一度会う理由」
『覚えてるよ😊』
その一文を見た瞬間、
胸の奥がじんわり熱くなった。
本当に、リオだった。
それから少しずつ、
十年ぶりとは思えないくらい自然に、
やり取りが始まった。
「元気だった?」
「仕事は?」
「どこに住んでるの?」
お互いの十年間を、
少しずつ埋めるような会話だった。
不思議だった。
高校生の頃みたいに、
一日中メールをしたいとは思わない。
でも、気づけば、
リオからの返事を待っている自分がいた。
どうしてなんだろう。
映画館を出た日のこと。
「受験が終わったら。」
そう約束した日のこと。
街で何度もすれ違ったこと。
シンヤから聞いた話。
電話越しに聞いたリオの声。
どの思い出も、
最後だけが抜け落ちたままだった。
だから、たぶん、
恋をやり直したいという感情ではない。
ただ、
あの日の続きを知りたかった。
言えなかったこと。
聞けなかったこと。
その答えを知れば、
高校生だった俺も、
前を向ける気がした。
スマホを手に取る。
文章を書いては消し、
また書いては消す。
「久しぶりに会わない?」
短い一文なのに、
送るまでに何十分もかかった。
送信ボタンを押す。
数秒後には、もう画面を見つめていた。
少しして届いた返事。
『いいよ😊』
その二文字を見た瞬間、
止まっていた景色が、
ゆっくりと色を取り戻していく気がした。
夕飯を食べ終えたあと、
何気ない会話の流れで切り出した。
「そういえばさ」
妻がこちらを見る。
「今度、高校の友達とご飯行ってきてもいい?」
「男?」
「女の子だよ」
少しだけ間が空いた。
それ以上、 妻は何も聞かなかった。
「楽しんでおいで」
その一言に、
少しだけ肩の力が抜けた。
隠したまま会うことだけは、
したくなかった。
第四章 「十年ぶりの待ち合わせ」
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