見出し画像

医療のコト、少し視点を変えて考えてみませんか?  ─ 医師偏在を医療の外から考える「北海道・セコマモデル」 ─


はじめに

私は、普段は広告会社で、市場を読む仕事をしています。どうすればモノが売れるか、人の心が動くかを考えています。ですから、医療の世界の人間ではありません。それでも10年以上、ある違和感を持ち続けていました。「将来、日本では医師が余る」と言われながら、地方では医師不足の報道が続いていたからです。数字の上では医師の数は増えているはずなのに、必要な場所には届いていない。私は次第に、これは医師の数の問題ではなく、偏在という課題であり、『医師の配置をどう動かすか』という供給側の理屈だけで考えなくてもいいのではないか、と思うようになりました。

そんな発想から、この構想は始まりました。

確かに、日本の人口が減っているのは誰しも知っていること。そして医学部の定員数は2028年までは変わらないので、その関係値においては医師は余るということになります。しかし、現実はその後も医師不足の報道が続き、「余る」はずだったのに、地方では医師がいない、救急を断る病院が増える、産科・小児科が閉まる。
これは医師が余っているのではないと思うように確信したのです。

この分配の問題は、実はマーケティングの問題と構造が似ています。誰に、何を、どう届けるか。届かない理由は何か。届けるための設計をどう変えるか。

最初に記したように私は医療の専門家ではありません。業界の外から長年この問題の”市場”を読んできた者として、「専門家でないからこそいえること」があるのではないかと考えました。この文書はその試みです。

第1章 医師偏在とは何か——「余る」のに「足りない」という矛盾

ⅰ)2種類の偏在

医師偏在には大きく2つの軸があると考えました。
ひとつは地域偏在。人口10万人あたりの医師数は、最多の徳島県(345人)と最少の埼玉県(189人)で約1.8倍の開きがあります(2024年)。数字以上に深刻なのは、都道府県内でもさらに格差があること。県庁所在地と人口の少ないエリアでは、同じ県内でも全く異なる医療環境が存在します。
そしてもう一つが診療科の偏在。「産科」「外科」「小児科」「救急科」では深刻な医師不足が続く一方、眼科・皮膚科・美容系への集中が起きています。“労働条件”“訴訟リスク””収入の差”が、医師という「プレイヤー」の選択をいつの間にか誘導しているのかもしれません。

ⅱ)なぜ「分配」できないのか


医師は職業選択の自由を持ちます。そのため強制配置は憲法上困難です。診療報酬(保険診療の報酬体系)の影響はあるでしょう。しかし、その施策によって返って偏在を招くこと(在宅医療など)もあるでしょうし、偏在を無くすべく誘導しようとしても、美容医療などの自由診療という形態に流れてしまうケースも少なくないようです。年間約200人の若手医師が研修直後に自由診療(いわゆる「直美」など)に進んでおり、保険診療の枠内での政策が届かないということも上げられます。
つまり、これが問題の核心のひとつだということができるのではないかと考えました。「政策のリーチが、医師の選択肢の全体をカバーしていないのかも」と。

第2章 なぜ今までの対策が限界なのか

ⅰ)診療報酬による誘導の限界


地方勤務への加算、外来医師過多区域での開業規制——これらは保険診療の枠内でしか機能しないでしょう。自由診療に転じた医師に関係のないことになるでしょう。また、報酬を下げれば都市の医師が地方に行くわけでもなく、むしろ自由診療に流れてしまう懸念も生じると考えます。

ⅱ)大学を地方に作れば解決する?


地方に医学部を設置することが有効な手段の一つだと考えました。研究によれば、「地方出身者が地方の大学で学んだ場合に地域定着率が最も高くなる」という報告がありました。しかし「大学というハコを作る」だけでは足りない理由も存在しました。
卒後研修(初期研修2年+専攻医3〜5年)を都市で受ければ、都市に定着してしまう。医学部6年間の教育より、その後の7年間の方が定着に与える影響が大きいという研究が「日本専門医機構における医師専門研修シーリングによる医師偏在対策の効果検証」 (令和5年度 厚生労働科学特別研究)のほか海外でもMcGrail (2023・オーストラリア)でもレポートが参照できました。

つまり、大学や研修で過ごす機会だけでなく、卒後まで含めた一貫したパイプライン設計が必要だ。と感じたのです。

従来の対策はほぼすべて「医師をどこに配置するか」という供給側の発想に過ぎないと感じたのです。患者側の設計、医師のキャリア設計、経営の現実、政策の整合性——これらを同時に考えた構想が今後は必要になるのではないかと思ったのです。

第3章 提案——北海道モデルの設計

コンセプト:「生活インフラに医療を乗せる」

ここまでに至り、医療を医療の文脈だけで解こうとするから難しいのではないかと感じていました。既存の生活インフラに医療を組み込むといういわば、発想の転換があっても良いのではと思っています。

北海道には、この発想を実装する条件が揃っていると考えました。

また、本モデルの本質的な価値は、特に無医地区(医療機関が存在しない、または常勤医師がいない地域)においてより明確になると考えています。

既存の「医師を配置する」アプローチだけでは対応が難しいエリアに対し、小規模かつ分散型の拠点を設置することで、現実的な医療アクセスの補完が可能になるのではないかと考えたからです。

①なぜ北海道か


●札幌や旭川という明確な中核都市がある
●地理的に本州と切り離されており「医師の流出」動線が弱い
●道内移動距離が大きく、地域医療提供拠点の存在意義が明確
●北海道出身者は北海道に戻る動機が比較的強い
●医師偏在が深刻で、政策的に「実験する」必然性がある
北海道は日本で最も「エリア完結型医療圏」を設計しやすい地域だと考えたのです。

②モデルの3層構造

第1層:ホスト病院(札幌や旭川の大学病院)


札幌医科大学病院または北海道大学病院もしくは旭川医科大学病院があることから、これらの大学病院をホストとして位置づける。高度医療・複雑症例・希少疾患はここで対応する。
一方で、地域医療拠点として地域の日常的なクリニックを業としながらもホストに対するサテライト医院として構築・運営します。もちろん、ホスト病院はサテライト医院からの患者受け入れる体制をもち、ホスト医院は医師・研修医の教育・派遣の中心となるものとします。

第2層:サテライト診療拠点(道内各地)


ホスト病院とオンラインで常時接続された診療拠点を道内に分散配置します。単なる出張所ではなく、ホスト病院と機能的に一体化した「分院」として設計、位置づけの設定をします。
ここでの診療は日常的・継続的なプライマリケアが中心ですが、ホスト病院の専門医によるオンライン診療・遠隔画像診断も組み込む。患者にとって「いざとなれば札幌(旭川)の大学病院に診てもらえる」という安心感が、サテライトへの信頼を生む構造であり、患者とサテライト(とその奥に繋がっている大病院)とのエンゲージを感じる部分でもあります。
そして、そこでの重要な点を次のように定めます。
まずサテライト勤務が「キャリアのハンデ」にならない設計が不可欠です。具体的には、
●サテライト勤務期間を専門医取得の要件として認定する
●ホスト病院との人事一体化(サテライト勤務医はホスト病院の所属のまま)
●定期的なホスト病院でのカンファレンス参加・最新医療へのアクセス確保
このように、医師が積極的に選びたくなる設計を設けることだと考えます。
そのカギが、勤務形態の設計。医師はサテライトに「常駐」するのではなく、週のうち数日をサテライトでの臨床に充て、残りの日はホスト病院での研究・教育・カンファレンスに使う仕組みにします。臨床と研究・教育を往復するリズムは、医師としての成長を止めないだけでなく、2024年に施行された医師の時間外労働規制とも自然に整合するのです。これは「地方に行ったら第一線から外れる」という不安への、構造的な回答になると考えます。
この曜日(時間)切り替え型の勤務設計は、サテライト側にも利点をもたらします。1つの診療スペースを複数の医師・複数の診療科で共用できるため、固定コストを分散できることになります。月曜・水曜は総合診療、木曜は内科専門医、月1回は整形外科が巡回——といった運用が、小さな拠点でも多様なニーズに応える現実的な形です。
患者にとっては「毎日同じ医師がいる」わけではない。この点は丁寧な啓発が必要です。ただし、ホスト病院とのオンライン接続が常時確保されていれば、担当医が不在の日でも「繋がれる」安心感を担保できる。かかりつけ医が変わっても、電子カルテが継続性を支える設計になっているからです。

第3層:生活拠点との融合(セイコーマート)

それでは、そのサテライトをどこに設置するのかを考えて行きます。
サテライト診療拠点の「場所」として、セイコーマートとの連携を提案します。それは、例えばクリニックのない街にでもコンビニエンスストアとしてセイコーマートがあるケースがあること。そのエリアの生活のベースとなるところに医療を持っていくという考え方です。
先に述べたように、一つの施設で曜日や時間帯で(あるいは24時間体制なども含めて)様々な診療体制が作れるとしたら、コンビニエンスストアとの親和性もより一層増すのではないかと考えます。

また、この拠点は医学生・研修医にとっての実習フィールドとしてだけでなく、高校生段階からの地域医療教育の場としても活用可能であり、地域医療人材の早期接続という観点からも重要な役割を担いうると考えています。

第4章 セイコーマートという選択

では、なぜセイコーマートか。

それは、セイコーマートは北海道に約1000店舗を展開し、人口が極めて少ない地域にも出店している。これは「医療が届きにくい場所にすでにインフラがある」ことを意味するからです。
重要なのは、セイコーマートがすでに「生活インフラ」として機能していることにあります。食料・日用品の供給だけでなく、高齢者の生活拠点、地域コミュニティの接点として根付いている。だから医療との親和性は高いと考えました。

また、患者側の行動変容という視点にも考慮しました。「病院に行く」という行為には心理的ハードルがあり、特に高齢者・軽症者は受診を躊躇します。この躊躇が、重症化してから受診するという悪循環を生んでしまいます。
「いつも行くセイコーマートにクリニックがある」という状況は、この障壁を根本から変えられるでしょう。日常の買い物のついでに血圧を測る、薬をもらう、医師に相談する——こうした行動が自然に生まれやすくなります。これは医師を患者に届けるのではなく、「患者の日常動線に医療を組み込む」という発想です。
「コンビニにクリニックを併設する」というだけでなく、「セコマのホットシェフ(お弁当)を買いに行く感覚で、ついでに血圧を測り、札幌(旭川)の名医に(オンラインでも)相談できる世界」という新しい関係ができるのです。

もう少しだけ詳細なイメージをお伝えすると、セイコーマートの敷地内の空きスペースまたは隣接地にクリニック棟を新設します(セイコーマートとしての新事業で医療モールの貸し主的位置付け)。そこで受診し、調剤薬局の事業をセイコーマートに持たせます(この取り組みはローソンが実施している)。セイコーマートはその医療棟のテナント料や調剤薬局機能という新たな柱を持つことになります(いわゆる医療モールの提供社という位置づけなので病院経営とは異なるので、医師法などには抵触しない仕組みで運営)。また、近隣の方にはそのスタッフとしての効用を創出することができると言うことにも繋がると考えます。
セイコーマートにとっての意義をまとめると、
●来店頻度・顧客との関係深化
●「地域インフラ」としての社会的評価の強化
●過疎地店舗の存在意義の再定義
●北海道庁・自治体との連携強化
●近年よく見られるM&Aで吸収されないコンビニのノウハウ、ブランドの構築
があげられ、商業施設が医療・福祉機能を担うことは、過疎地における行政サービス集約という世界的トレンドとも一致していると考えます。

なお、本構想は特定の事業者に限定されるものではなく、 「生活インフラの上に医療機能を重ねる」という考え方そのものに意味があると考えています。 セイコーマートは北海道において最も条件が整った具体例として取り上げていますが、 同様の発想は他地域においても、スーパーマーケットやドラッグストア、 地域密着型の生活拠点に応用可能な構造と考えています。

そしてもうひとつ。大病院や全国の大学病院の話になりますが、多くの病院で赤字が出ているとの報告があります。このようにホストとサテライトという新しい関係を創出することは、患者を診る機会が増えるということに繋がります。したがって、このモデルを全国的に広めることで、病院が社会的でもあると同時にこの大病院や大学病院が抱える経営問題を改善する足がかりになることに繋がると信じています。

第5章 機能させるための設計

本モデルを機能させるためには、医師のキャリアだけでなく、患者とホスト病院のエンゲージメント(=単なる通りすがりの患者ではなく、信頼で結ばれた継続的な関係性)も重要と考えます。サテライトからホスト病院への紹介・転送をシームレスにすることが、患者の安心につながる。電子カルテの共有、オンライン診療の活用、緊急時の搬送プロトコルの整備——これらがあって初めて「繋がっている」という実感が生まれるのです。北海道内での完結という地理的特性が、患者にとっても「遠くに行かされる」という不安を軽減できるものと考えます。

経営の現実としては、セイコーマートの敷地または隣接したスペースを活用することで、クリニック開業の初期投資を大幅に削減できるでしょう。医師にとっての開業ハードルを下げることは、地方定着の重要な条件です。
診療報酬上の加算(医師少数区域での勤務加算)、北海道庁の補助金、ホスト病院からの運営支援を組み合わせることで、経営の持続可能性を設計することも考えられます。

なお、本モデルは無医地区を含む医療資源の乏しい地域への展開を主に想定しており、既存医療機関との直接的な競合は限定的と考えています。その上で、地域医療の持続性の観点から、医師会や既存医療機関との連携を前提とした協調的な運用が重要になると考えています。

第6章 実現に向けて

フェーズ設計をしてみましょう。

ⅰ)フェーズ1(構想の精緻化)
北海道大学または札幌医科大学(旭川医科大学病院)の地域医療研究者との連携。「北海道型地域医療モデルの実証研究」として学術的文脈に乗せたいです。セイコーマートCSR・地域連携部門への打診(1〜2店舗のパイロット提案)をしていきます。

ⅱ)フェーズ2(北海道庁との連携)
道庁保健福祉部への提案。地域医療介護総合確保基金などの既存財源の活用。「北海道発の政策実験」という文脈で道庁を主体に巻き込みたいです。

ⅲ)フェーズ3(大学病院の正式参画)
ホスト病院としての大学病院を正式に位置づけ、サテライト研修を専門医取得要件に組み込む交渉(日本専門医機構)を行います。

ⅳ)フェーズ4(国への展開)
パイロットの実績データ(受診率・医師定着率・患者満足度・コスト)を持って厚労省・文科省へ提案。「北海道モデルの全国展開」として政策議論に乗せます。特に大学病院の将来の姿として健全な新展開のための取り組みとして検討いただけるように働きかけます。

というのも、このモデルはここまで北海道を中心に述べてきましたが、都道府県単位での可能性を持っているからです。各自治体内のホストとサテライトの関係を構築し、生活インフラ企業と結びつけることで全国展開が可能となるのです。つまり、全国において、医師の偏在も解決でき、医療を受けられる機会も増加できる仕組みなのです

ⅴ)必要な関係者と役割
 関係者と役割については次のように考えています。(北海道モデル)

●札幌(旭川)の大学病院 →ホスト病院、医師教育・派遣の中心 
●生活インフラ(セイコーマート)→サテライト拠点の場所・生活インフラとの融合 
●北海道庁→行政的バックアップ、財源、道内調整
●厚生労働省→診療報酬上の評価、全国展開の制度設計
●文科省→医学教育・地域枠との連動
●日本専門医機構→サテライト研修の専門医要件への組み込み

おわりに——「医療の外」から見えること

医師偏在の問題は長年、医療の専門家・行政・医師会の間で議論されてきたようです。また、幾度となく報道もされてきています。しかし解決の糸口はなかなか見えません。
それはひょっとすると、この問題を「医療の問題」として閉じた文脈で考えてきたからではないかと感じています。

マーケティング的に見ると、患者は「医療ユーザー」であり、医師は「キャリアを選択する個人」です。地域は「生活者が暮らす場所」になります。セイコーマートは「すでにそこにあるインフラ」です。
これらをつなぐ設計を「医療の外」から考えることが、新しい突破口になればと信じています。

北海道という具体的な地域、セイコーマートという具体的なパートナー、大学病院という具体的なホストを組み合わせたこのモデルは、具体的な構想です。ぜひテストモデルとして実践できればと考えています。

そして、同じ問題意識を持つ方々との対話ができればと思っています。
本構想は、医療関係ではない者が、外からの視点として10年以上医師偏在問題を観察してきた個人によるものです。医療政策・地域医療・医学教育の専門家、行政関係者、民間企業の方々からのご意見・ご連絡をお待ちしています。また、現場の医師の方や学生さんの声も踏まえながら、 実現可能性を検証していきたいと考えています。お気軽にご意見いただければ嬉しいです。

(※ご連絡は、プロフィールページの「クリエイターへのお問い合わせ」からお気軽にお送りください)


いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー