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少しズレた真面目な人たち #19 ディズニーランドの前まで行くおじいちゃん

おじいちゃんは、ディズニーランドが好きだった。

好きだった、というより、今も好きらしい。

部屋には古いお土産がいくつか置いてあるし、テレビで特集をやっているとだいたい見ている。

新しいアトラクションの名前も意外と知っている。

だから当然、よく行くのかと思っていた。

そうでもないらしい。

というより、おじいちゃんは舞浜までは行くのに、ほとんど入園しない。


月に一度くらい。

天気のいい日に電車に乗って舞浜へ行く。

駅を出て、人の流れに混ざる。

耳を付けた子ども。

少し早歩きの家族。

友達同士で写真を撮っている学生。

みんな、これから楽しい一日が始まる顔をしている。

おじいちゃんはその中をゆっくり歩く。

そして、しばらくすると引き返す。

ディズニーランドの前まで行って、帰る。

それだけである。


「入らないんですか」

と聞いたことがある。

おじいちゃんは少し考えてから言った。

「今日はいいかな」

その日はそういう気分なのかと思った。

でも次の月も、その次の月も入らなかった。


ある日、もう少し詳しく聞いてみた。

するとおじいちゃんは、

「好きなのは、行く途中なんだよね」

と言った。


舞浜駅を降りた瞬間の空気。

みんなが少し浮き足立っている感じ。

今日は特別な日なんだ、という顔。

あの雰囲気が好きなのだという。

「中ももちろん楽しいんだけどね」

とおじいちゃんは言う。

「でも、一番好きなのはその前かもしれない」


考えてみると、不思議な話ではなかった。

旅行も、出発前が妙に楽しかったりする。

映画も、始まる直前が一番わくわくしたりする。

本屋で何を買うか迷っている時間の方が好きな人もいる。

おじいちゃんの場合、それがディズニーランドだっただけなのかもしれない。


だから入園しない日がある。

目的を達成するためではなく、

目的へ向かう空気を味わうために来ているから。

イクスピアリでコーヒーを飲み、

人の流れを眺めて、

満足して帰る。

本人にとっては、それでちゃんと完結している。


帰り際、おじいちゃんが言った。

「楽しみって、始まる前が一番大きかったりするからね」

そう言って笑った。

その日も結局、入園はしなかった。

でも、なんだか十分に楽しんだ顔をしていた。

目的地に着くことだけが楽しみだと思っていたけれど、

好きなものの近くを歩くだけで満足する人もいるらしい。

舞浜駅へ戻るおじいちゃんの背中を見ながら、

それも案外、贅沢な楽しみ方なのかもしれないと思った。


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